あの頃は。1
――冷たい激痛
人から殴られた経験はない僕が、初めて固いもので後頭部を殴られた感想はそれだった。祝、「後頭部殴られ」童貞卒業おめでとう。ついでに「固い地面に這いつくばって意識が朦朧」童貞も卒業した、おめでとう。
…うん冷静になろうと明るく描写してみたが、なんの助けにもならなかった。何一つめでたくはなかった。最悪だ。多分人生で二番目くらいで。
立ち上がろうと四肢に力を籠めようとするがうまくいかない。吐きそうだ、今にも明後日の方向に意識が飛びそうだ。今の状況を打開しようと脳をフル回転させるが思い出すのは過去の事ばかり。もしかしてこれが走馬灯?実在したのか。あ、ひょっとして僕死ぬのか?意識したらアドレナリンで中和されていただろう恐怖心が、急にはちきれそうなくらい膨れ上がる。
(どうして、こんなことに)
もしこれが映像作品ならここでシーンが暗転して過去回想にはいることだろう。実際問題僕の頭の中では、今朝からの事を中心に順々に記憶が駆け巡っていた。朝食の事、イベント周回中だったソシャゲの事、中学校の事、おじさんおばさんの事、妹の事。様々な記憶が時系列を無視して飛び交う。
そうしているうちにふらふらと振り回されていた意識は、ハンマー投げのように突然ぽーんと放り出されブラックアウトした。
というわけで暗転――。
自分の両親は、たしか僕の六歳の誕生日に事故死したらしい。らしいというのはその頃の記憶がほとんどないからだ。だから他人事みたいな書き方になるが、実際そうなのだから仕方がない。事故のショックなのかなんなのかしらないけれど、ともかくその後今の親戚に引き取られる形で暮らすことになった。
ちなみに某額に稲妻型の傷がある魔法使いみたいに階段下の物置を自室としてあてがわれたり、虐待めいたことをされたりは一切なかった。おじさんもおばさんもいい人だ、おじさんは寡黙で職人気質。おばさんは反対に真夏の南の島みたいに明るく元気な人。二人とも僕を本当の我が子のように愛していてくれることはこの8年でこれでもかというほど分かった。
しかし、それほど良くしてもらっているのに多少の気まずさを僕は勝手に抱いているのだが、それはしょうがない。おそらくこの気まずさは血が直接は繋がっていないという事を知ってしまっている事に起因しているんだと思うのだけど。それでもそれが大きな軋轢になることもなく、大きな問題もなく暮らしてきた。
そしてもう一人、わが妹の事。
「さあ兄上!気持ちのいい朝だ!早く起きるが吉だぞ!」
二階の寝室で気持ちよくベットに仰向けで寝ていた僕は、凛とした鋭い声と共に飛び込んできた最愛の妹、霧橋 凛子にフライングボディプレスを食らい叩き起こされた。
「いでっ!…っっなんで毎度毎度プロレス技で起こそうとするんだ?」
寝ぼけ眼で布団の上をみると凛子が不敵な笑みを浮かべこちらを見ていた。凛子は僕――霧橋 薫の一個下の妹だ。