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斜め上な俺の番。

作者: ユウキ

どうしても描きたくなった場面を書き連ねました...


 彼女を見つけられたのは、長すぎる人生においても僥倖であり、絶望していた自分にとって思い残すことはないと思えるほどだ。


 彼女と番えられたらと思うが、竜族である自分の長すぎる生に人族のセシリーを付き合わせるのも偲ばれた。


 今こうして彼女の目に映り、手を振って微笑みかけられ、駆け寄ってくれる。

 それだけで満足するべきだ。


 彼女との逢瀬を重ねて、触れ合える。それで……


 そう思っても、自分の中の欲望が絡みついているようで、重要なことは何も言い出せず、今日もまた彼女とのひと時に浸ってしまう。



「はぁ、はぁ……ヴェル様…!」

「ああ、上から見えたから寄ったんだ。

 走らせてすまなかった。

 ん?セシリー身長が伸びたか?たった数日会わなかっただけだが…」



 降り立った自分に気づいて走り寄ってきた彼女は切れた息を整えようとしていた。


 今日も輝くような亜麻色の髪が美しい。

 走ったせいで真っ白い肌が上気する頬も、けぶるような睫毛も、ぽってりとした唇も全てが愛らしく……独り占めしたい、永遠に腕の中に閉じ込めておきたい欲求が顔を出してしまう。


 だめだ。彼女を苦しめたくはない…


 人族では番えても長すぎる生に狂ってしまう者もいると聞く。


 そんな思いをさせたくない。いつかは彼女の前から去らねばならない。


 そんな葛藤を胸中で繰り広げているとは知らない彼女は、息が治まってきたのか顔を上げると、笑顔で言った。




「服がはち切れそうなの…!」

「なんだって……?!」


 ****



 会った時は痩せっぽっちで小さな子供のようなセシリーは、人が統治する国の辺境から出て、この国に来てから段階を経て急成長しているという。


 単に食事や身の回りの世話をきっちりされたせいだけではないらしい。


 やっと年齢に見合う外見に近づけたと、無邪気に笑う彼女に上着を貸して、前をきっちりと留める。


 しかし人とはそんな急成長を遂げるものなのか?そう思ったヴェルナードに彼女はうんうんと考え込みながら言った。



「先祖返りかなー?やっぱり魔素が多いと変わるものなのかなー?」

「先祖返り…?セシリーの先祖は人族ではないのか?」

「曾祖母かその上あたりに、竜族がいたと聞いたわ。

 魔素の殆どない所だったから、成長に影響していたのかな〜?」

「りゅ……竜族?!」


「そう、あ、もうちょっと成長したら告白しに行くからちょっと待っててね?

 ここまできたら喜んでもらえるようなナイスバディーを目指さないとだよね!」

「ふへ?」

「やっぱりおっきい方がお好きですよね?」


「セシリー、ちょっと待ってくれ!

 え?情報過多で追いつけなかった。

 セシリーは竜族なのか?」


「えっと、八分の一?でも先祖返りしているからどっち族?分かんない」

「なるほど…それと…告白とは……」

「だってなんだか良い匂いするし気になるし、ドキドキするんだもん…

 ハッ!もうちょっと先で言うからっ聞かないで!」



 真っ赤な顔を、余ってひらひらする俺の上着の袖で隠すセシリーが可愛すぎて、どうしたら良いか分からない。


 これは夢か幻か…?


 もうどっちでも良い、セシリーが望んでくれるならもう遠慮なんてしない。

 誰にも渡さない…!



「セシリー…とても嬉しい…」



 声をかけて彼女の手を取って赤くなった顔を覗き込む。



「俺の愛しい唯一。俺の全てを捧げるから、君の全てをくれないだろうか?」

「ひぇっっっ!ヴェル様!うそ!!」


「ウソじゃない……セシリーが良い。

 セシリーじゃないとダメなんだ」



 キッパリと言うと、真っ赤な顔で目を潤ませ始める。



「わっっっ私もっ!ヴェル様が……

 うっっううっ!ずーぎーでーずーーぅぅぅ…!」



 涙でぐしゃぐしゃになる顔を手で包み、優しく拭いたり、頬に口付けてあやした。


 ****


 ひとまずセシリーの服を買い揃え、着替えさせてから連れ立って生態に詳しい魔術師のサルバードが王宮の医療棟にいるので、そこへ向かった。



「へぇ、この子が噂の宰相様の番ちゃん?

 竜族のワンエイス?

 急成長するってことは、まぁ人族以外の何かが入っているのは確かだねぇ〜

 んじゃま、そこのカプセル型の魔導具に入ってくれる?」



 そう指し示したのは前面がガラスで覆われた白い箱状のカプセルだった。


 お邪魔しまーす…と恐る恐る入ったセシリーは、ガラスでできた戸を閉めると、ソワソワした面持ちで真っ直ぐに立った。



「じゃ調べるねぇ〜そのまま動かないでねぇ〜」



 セシリーの立ち位置を確認した後、魔導具を操作して最後にスイッチを押した。


 中に水色に光る輪が現れ、セシリーの頭からゆっくりと降りて爪先まで降りると、フッと消えた。



「はーい終わりぃ〜。もう出てきて良いよぉ〜」



 おずおずと出てくるセシリーに手を貸していると、魔導具と連動している薄いパネルに情報が表示された。



「ほぇ〜。こりゃまぁ…面白いね〜」

「どうなんだ?わかったのか?」



 まぁ座ってよと言われて2人並んで長椅子に座り、向かいの椅子にはサルバードが魔導具のパネルを持って座る。



「結論から言うと、セシリーちゃんは人族でもあるし竜族でもあるねぇ〜」



 2人で首を傾げても仕方のない話だ。


 まず竜族と人族の間には子供ができにくい。もしできたとしても、どちらかの特徴しか持たず、獣族のように混ざり合うことはないと言うのが常識だったからだ。



「ん〜、恐らくなんだけど、獣族とも何処かで混じっていたんじゃないかな〜?

 その獣族特有の融合の因子が、体にある状態で竜族との子を産んで、混ざらないはずが混じっていったと。

 竜族の成長には魔素が必要だから、殆どない人族の国のしかも辺境で魔素の魔の字も知らずに人族の遺伝子の部分だけで代々育った。

 けどこっちに移住して魔素を取り込み始めて、竜族の因子が反応して育たなかった部分が急成長をしているんだねぇ〜。これは面白い!」


「そんな事が……では」

「んじゃ、私、色々ともっと大きくなりますか?!」


「ぶっっっはははは!そうだね、年齢からするとあと数ヶ月で充分な魔素も取り込み終えて、必要な成長を遂げられるんじゃないかなぁ?」

「いや…まぁそうだな。それも必要だが…寿命や精神面について聞きたいのだが…」


「ああ、成長過程で竜族の特性が徐々に大きくなるはずだ。

 竜化はできないと思うけど、魔法を使ったり、頑丈になったり…幾分長い寿命になったり、長い寿命に耐える精神構造になったりね」



 よかったねと温かい眼差しを向けるサルバードに、面映くなり隣に目を向けると、セシリーは胸の前で手を組んでブツブツと何かを念じていた。



「ヴェル様と釣り合う身長になりますように、出るとこババンと出ますように……」

「ぶふっっセシリーちゃん、声に出てるよ!」



 あわわと慌て出すセシリーをこみ上げる喜びのまま抱きしめた。



 ***


 セシリーは数ヶ月で、俺の胸下辺りまでしかなかった身長が、肩くらいまで伸びた。

 髪は満ちた魔素で淡く発光するように輝き、初めて会った時はガリガリだった体は女性らしくふっくらとして、それでいて……ゴホゴホんっ


 番いになるための結婚式は、セシリーの頑とした意志で、成長がある程度で止まるまで待ってと言うので、1年経った今まで頑張った。


 俺、ほんとがんばったと思う。


 儀礼用の白のジュストコールを纏って塔の上にある天空の間の祭壇の前で静かに彼女を待つ。


 遮るものは何もなく、見守るのは従兄弟で悪友でもある帝王とその妻。

 そして数人の友人。


 雲ひとつない晴天が磨き上げられた白銀の石床に映り込み、まるで空に浮いているようだ。


 後ろから階段を上る音がする。

 登り切ったのか、慎重に床を鳴らしながらゆっくりとその足音が近づく。


 ゆっくりと振り返り、真っ白いドレスとヴェールに包まれたセシリーが目に入った。


 柔らかな風がふわりとヴェールを持ち上げると、ヴェールから彼女の口元が見えた。


 やっと、やっとこの日が……


 もう現れないと思っていた番。

 早く全てを自分のものに、そして自分を彼女に捧げたい。


 手を差し出すと、そっと重ねられた手に愛おしさが一層こみ上げる。



「愛している、セシリー」



 自然に溢れる言葉に、彼女はホッとしたような息を吐き、そっと囁くように言った。



「ヴェル様っ高すぎて吐きそう」

「なんだって?」



 彼女のお陰で長すぎる生にも、退屈せずに済みそうだ。

お空を飛ばない人族のセシリーちゃんにはガクブルで心許ない式場でした★

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