私の夢の果実
目の前に美味しそうな果実がある。
でも、何処から現れたのだろう?
頭上の枝は、一番低いものでも、私の背丈の5倍程はある。
夢の実は落ちてしまうと、落下中に消えてしまうか、落ちた衝撃で霧散してしまっていたので、地面に転がった実を見たのは初めてだった。
こてり、と首をかしげてみる。
どう見ても美味しそうな果実である。
なんだか、色々と濃縮されたような色合いをしている。
何かの罠かな?
きょろきょろと、周りを見回してみるが、いつもの美しい景色に変わりはない。
そもそも、ここは私にとってこの世で一番安全な場所のはずである。
夢の果実がそこにあるのだから、これは私に食べてってことだよね?
そっと持ち上げて、くるりと表面を磨く。
傷もない、綺麗な果実である。
「……美味しそう。」
なんとも刺激的な香りのする果実だ。
では、いただきます。
かぷり、と歯を立てる。
!!!!!!!!
なに、これ!?
濃縮されたような夢があふれ出す。
信じていた人々に裏切られた悲しみ。
叶えられない約束に引き裂かれるような胸の苦しみ。
辛くて、苦くて、しょっぱい
痛い!!
苦しい!!!!
目の前がにじんで、立っていられず、膝をつく。
「夢……じゃない……」
涙がとめどなく溢れる。
呼吸が苦しい。
あの痛みを、苦しみを、覚えている。
いや、……思い出した。
あれから、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
生々しい感情は、つい最近の出来事のように蘇ったけれど、今の私は、あの頃と変わりすぎた。
私は、人間だった。
夢の果実に詰まっていたのは、かつての私の悪夢。
その夢は、抵抗する間もなく、私の魂に刻まれた記憶を呼び起こした。