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茅ヶ紫原の夢魔【キアス視点】1

相棒、キアス視点です。

ここから早く離れた方がいい。

心配をよそに、ルフィアはあっという間に木の上に飛び上ってしまった。

僕も身軽な方だけど、木登りはあんまり得意じゃない。


仕方なく、周りに警戒していると、何の前触れもなく上空から酷い威圧感が降ってきた。

遠くで人間達の悲鳴が上がる。


「……っルフィア!!」


木の上のルフィアは、固まったように動かない。

……そして、そのままずるりと崩れるように落ちていく。


!!!!!


すかさず両手を広げ、その身が落ちきる前に抱きとめる。

抵抗のない体が胸当てにしたたかにぶつかる。


だから、言わんこっちゃない!

戦場ではどんな不測の出来事が起こるか分からないのだから。


ルフィアの体は軽い。

夢だけ食べてたらこうなるのかな、といつも不思議に思う。

淡い菫色の髪は神秘的だったが、今は閉じられた瞼の下には、何も知らない少女のように透き通った珊瑚色の瞳が隠されている。

いつもくるくると、よく表情を変えるその瞳は、彼女を実際より幼く見せている。


若いうちの外見の成長が早い僕たちの種族とは比べられないだろうけれど、ルフィアは他の夢魔と比べても幼いように見えた。

それなのに、僕より長く生きているからと、大人のように振る舞うのはどうかと思う。

実際には、自由気ままに行動してはトラブルに捕まる彼女から、目が離せないのはこっちの方だった。

心配するこっちの気持ちも考えてほしい。


そう。僕はルフィアを心配している。

あの時、彼女を守りたい、と強く思ったから。


△▽△▽△▽△▽△▽△▽



僕の家族は一族の中でもとても力が強かった。

兄弟の中で末っ子だった僕は、いつも誰かに守られていた。

時に厳格であるが、優しく、尊敬できる両親。

喧嘩もするが、いつもそれとなく守ってくれる兄姉たち。

あの頃を思い出すと、懐かしさと同時にやり切れない後悔の念が沸き上がる。


あろうことか、種族内での裏切りにより、両親は命を落とすことになったからだ。

兄姉たちは、必死で両親の正当性を訴えたが、聞き入れられず、最後まで自分を逃がそうとしてくれた兄とも、敵から逃げる際にはぐれてしまった。


傷だらけの日々だった。

兄を探そうとしたが、付近の土地ではまだ自分を探しており、近づくことは容易ではなかった。

慣れ親しんだ土地を離れ、あてもなくさ迷った。

誰も信用できず、ただの狼のように、森の中で幾月も過ごした。

寝ても覚めても悲しみと恐怖につきまとわれ、ぼろぼろだった。


ある夜、背の高い茅のしげる丘を歩いていると、猿に遭遇した。

高い木のない場所で会うのは珍しいことだった。

特に敵対する必要もなかったが、荒みまくっていた僕は、威嚇して猿を追い払おうとした。

しかし、猿は驚いたように言った。


「ここは茅ヶ紫原ですよ。ここで眠っているものと、夜に出会ったものは脅かさないというのは、暗黙の了解のはずでしょう?」

「……?何?そんなこと知らない。」

「ええ!?ご存知ない??最近ではかなり有名な話で、遠く風切山脈のもの達もここに休みに来ると言う話ですよ。」

「……何の話。」


猿が言うには、茅ヶ紫原で休むと、良い夢が見れ、気力が戻り、悩みもたちどころに吹き飛ぶ!!

……という噂が広がっているらしい。なんと平和な話だろう。


「私も、今まで寝付けなかったのが嘘のように、昨日は一日中眠っていたようです。」

猿は満足そうに言うと、お試しになってはどうですか、と言って、茅の間をすり抜けて姿を消した。


別に、猿の言葉を真に受けたわけではなかったけれど、そろそろ休もうと思っていた頃だったので、ちょうど身を隠せそうな窪みを見つけ、そこに身を伏せた。

だけど、気は抜けない。いつ、追手に見つかるか分からないのだから。


追手ばかりではなく、まだ成長しきっていない自分では、相手にもされないような強いやつらもいると分かっている。笑顔で近づいてきて、腹の中で機会を伺っているやつらがいることも、いやというほど知ってしまった。


両親の、兄たちの仇を取らなくちゃいけない。


そのために、生き延びなければいけない。


いつでも気をぬいちゃいけない。




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