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白き絶望


 

 長きに渡り距離を取り続けた二人は心の内を語り、少し互いの事を好きになれた。そんな夜をこえた朝。

 

 …いや変わらず白が降る朝だと思う時間にルベリオンはすんなりと目が覚めた。いつもなら女性と夜を共にし寂しさを紛らわせたものだが、好きな人について語るオーギュストが存外(ぞんがい)面白く、寂しさを紛らわせることに成功したらしい。

 

 胸の内に溜めていた後悔を吐き出したからか、少しだけ肩が軽くなり、気を引き締めキュラスを進もうと眠ったままのオーギュストを起こそうとした。

 

 鎧のまま眠りコケる。オーギュスト。

 

 寝る時も鎧なのかと呆れつつもそれを揺すろうと手を触れさせルベリオンはすぐに顔色を悪くした。

 

 鎧は冷たかった。

 キンっと痛さすら感じるその冷たさは尋常(じんじょう)じゃなく、とてもじゃないが人が中に入っているとはおもえない。

 

 「おい、おいっオーギュスト!」

 すぐに気を取り直し冷たくなりすぎている鎧を揺する。その間ルベリオンの頭にはキュラスに入ったばかりの昨日の会話が蘇っていた。

 

 “「残念ながら足元から冷たさが伝わって全身冷えている」”

 

 その言葉が嫌味ではなくそのままの通りだったなら。

 

 「おい!朴念仁(ぼくねんじん)!デカブツ!嫌味男!!」

 

 どれだけ(ののし)ってもオーギュストは返事をしない。どれだけ揺すっても起きる様子はない。

 

 「火よ!」

 

 明日用に取っておいた(まき)にすぐに火をつけ体温をあげることにしようとしたが冷えきった鎧のせいで中に熱が入らない。

 

 仕方なくオーギュストの鎧を脱がそうと頭部に手をかけた所で初めてオーギュストが身じろいだ。

 

 「うる、さ」

 「馬鹿じゃねぇの!?そんなに寒いなら鎧脱げよ!!」

 「ぬぐ、訳にはいかない」

 「巫山戯(ふざけ)るな! そのままじゃ死ぬぞ!」

 

 進まなければならないとオーギュストが立ち上がる。キュラスの原因をつきとめ止めなければ。

 

 愛しきものの手が取れぬのだと。

 

 「やめろって! 本当に死ぬぞ!」

 「どけっ」

 「オーギュスト!」

 

 起きている時はまだ良かったのだろう。だが寝る時に生き物は総じて体温が下がる。その下がったままの体温に外気に冷やされた鎧がさらに追い討ちをかけ、立ち上がったとしてもオーギュストの意識は刈り取られる寸前だった。

 

 

 よろよろと、歩むオーギュストはどう見ても頼りなく、このまま色のない世界に足を踏み出して生きていられる気がしなかった。

 

 寝床に選んだ洞穴(ほらあな)はまだ良い。雪が入ってきていない。寒さはあるものの外気からだけだ。だが一歩踏み出せば足は膝ほどまで埋まってしまうのだ。歩く度に体の熱が持ってかれ熱が持ってかれる際に溶けた雪が衣服を濡らす。そして、その濡れた服が更に体温を奪うのだ。

 

 鎧とて、同じはずだ。むしろ鎧の方が通気性が悪い分酷い可能性だってある。どうして気づかなかったんだ。

 

 

 どうして言わなかったんだ。

 

 死にかけていることくらい分かってるだろうに。

 

 馬鹿じゃないんだ、このままだと好いた女を嫁にするどころか、その顔すら見れなくなると分かっていただろうに。

 

 

 「オーギュスト、悪い」

 

 ルベリオンは昔家族から引き離された事が理由で今も夜はその寂しさがあると、寝れなくなってしまう。

 

 「ルベリオン…!」

 

 けれど、彼は魔術の天才。

 

 

 誰もが魔術に置いて(かな)わないと口にするほど才に溢れた子供で今はその力を思いのままに使える。

 

 「火よ風よ格子となりて足を止めよ」

 

 オーギュストの身体が風で吹き飛びルベリオンの横を過ぎ洞穴に戻される。叩き付けられた痛みに息をつきながらオーギュストが顔を上げると──洞穴の入口でルベリオンが笑っていた。

 

 

 「僕が進む」

 

 「ルベリオン!」

 

 「お前はここで体温を戻すんだ、僕がいなければ鎧を脱げるだろ、薪は全て置いていくから火が消えないよう気をつけろよ」

 

 「ルベリオン!!」

 

 「あと、無理に出ようとしてもこの魔術はとけないと思えよ? オーギュスト」

 

 

 「それじゃお前が…っ!」

 

 

 「魔術の天才舐めんなよ、ばーか」

 

 そうしてルベリオンは白い世界へ一人戻る。魔術によって閉じ込められたオーギュストはそれを見送ることしか出来ず、耐え切れない不甲斐(ふがい)なさに叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

 ルベリオンは天才である。

 

 

 女好きで、寂しがり屋で、考え無しで。けれど心優しい。

 

 「それじゃ、お前が…死んでしまうだろう…っ」

 

 この白銀の世界に来る前までは親の仇のように嫌悪しあっていた。だが、昨日語ったそれぞれの思いを()てその距離は縮まったのだと互いに自覚していた。

 

 それだけでルベリオンは一人雪の中に進む決意をしてしまえるほど、彼はお人好しだった。

 

 

 

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