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剣術の天才


 

 

 白は果てがない。

 

 果てがなくどんどんと色を覆い隠していく。白だけが降り、白だけが広がる。

 

 泣き叫ぶ声すらもかき消して、奪った者も奪われた者も全てが凍り付く。

 

 「お願い───、私を─── 」

 

 彼女の想いを受け取るのは。

 小さな小さな存在。

 

 ───────────

 

 生まれたことを後悔したことは幾度とあった。繰り返し呪いのように囁く父の言葉を聞きながら。

 

 

 生まれたことは間違いだったのではないかと。

 

 

 「…」

 

 オーギュストは何も言えなかった。言い辛い気持ちを吐露するルベリオンを見ても、ずっと嫌っていたルベリオンの身の上話をきいても。

 

 父との約束が。耳に蘇る。

 

 

 “目立ってはならない、城に近づいてはならない、身分を明かしてはならない”

 

 オーギュストは秘さねばならかった。田舎にこもり、辺境の土地で死するまで秘さねばならなかった。

 

 だが、一人の少女に出会ってしまったあの日からオーギュストの全ては彼女になり彼女の傍に居るために父との約束全てを破ってしまった。

 

 

 唯一残っていた身分を明かしてはならないという言葉さえも。

 

 つい先日謁見の間で。

 

 彼女の隣欲しさに。

 

 「…ルベリオン、お前は俺と同じだったんだな」

 「え?」

 

 地位も才も必要など無かった。無で居なければ死ぬのは自分じゃなく周りだと聞かされていたから。

 それでも剣を手放せなかったのは無口な父が唯一剣を打ち合う時だけは饒舌(じょうぜつ)に昔を語ってくれたからだった。

 

 「俺もな好いている人がいる、まぁお前とは違って両想いだったが、身分が問題でな」

 「お堅いオーギュストを落とすとかどんな聖女だ!?」

 「五月蝿(うるさ)い」

 

 ため息を深く吐き出しオーギュストは目を伏せ愛しくて仕方の無い彼女を思い浮かべる。

 

 柔らかな空色の髪に美しい琥珀の目。亡き母と同じ色なのだと誇らしげに笑ってみせた彼女。

 

 オーギュストが隠すことを強いられた親譲りの色を彼女は誇らしげに日の下に輝かせていて。

 

 それに最初やさぐれていたオーギュストは反発し、すぐにその場から立ち去ろうとした。当時は騎士ではないのに鎧を着たオーギュストに彼女はいつでも笑いかけて。

 

 こっそり抜け出して会いに来ては好きだと宣った。

 

 気が狂ったのかとオーギュストは最初は罵った。こんな鎧にどこに惚れる要素があったのかとも問いた。

 

 彼女はそうすると決まって微笑んだのだ。

 

 “貴方が貴方だから、貴方らしい貴方が好き”だと。

 らしさなんて持ったつもりもなく、隠し通せと、隠れて生活しろと。どれだけ馬鹿にされようとも目立つなとそう言った父の言葉が頭から離れず、自分を押し殺して生きたオーギュストに彼女は何も知らず無垢の笑顔をうかべた。

 

 「彼女は変な女でな」

 「早速惚気けるわけ、こっちは最低な失恋したんだけど」

 「まぁ、きけ」

 「…」

 

 彼女は嫌味を言いたかったわけでも嘘を言ったわけでもなかった。それから語られる言葉はまるで自分だと思えなかったが、優しく愛おしげなその声はなぜだか心地よかった。

 

 “貴方、冷たく接してるように見えるけど、子供や動物たちにはとびっきり丁寧に接してるのよ?”

 それは自分の知らない自分の話。

 

 意識しても隠せなかった自分“らしさ”の話。

 

 “獲物を狩る時だって丁寧に拝んでて、魔物を切る時でさえも少しでも早く切っている、感謝して丁重で。そんな不器用な優しさが自分に向いてくれたらと思ったら変かしら、それなのに自覚の無いあなたを恋しいと思ったらダメかしら”

 

 

 一つ一つが宝のような言葉で。彼女の髪と瞳がキラキラと光を受けて輝いて。

 

 “貴方が好きよ”と。

 

 「身分が違ったんだ、それでもこっそりと付き合っていて、それが父親にバレてしまってな」

 「うわぁ、結構な修羅場」

 「お前ほどじゃないが…彼女との結婚のために手柄を稼がなくてはならなくなった…だからキュラスにきた…まさかお前もとは思わなかったがな」

 「確かに、そうだ」

 

 二人の天才は(そろ)って望まれぬ恋をした。一人は(つぐな)いとして、一人は(めと)る条件を手にするため。

 

 それぞれがこのキュラスの謎をとかなければならなかった。

 

 

 

 

 

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