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偽りの名


 

 オーギュストと名を与えられたのは母を亡くしたひと月後だった。

 

 皮肉な名だと大人になったオーギュストは笑うしか無かった。身分を明かしてはいけないという癖に何と愚かな名だと。

 

 アレクシラは貴方らしい名だと褒めたが、彼はそれを今も受け入れられずにいる。

 

 アレクシラはこの国の王女だった。唯一の王女。唯一の王位継承者。

 

 アレクシラの父はこの国の国王だった。

 

 

 謁見の間で鎧を脱ぎ素顔を晒せと言われれば“ただの騎士でしかないオーギュスト”は従う他なかった。

 

 『───生き、て居たのか』

 

 唖然と脱力した王は玉座に深く座り目頭を押えた。父の事を聞きたいのだろう、と直ぐにわかった。

 

 『オーギュストは偽名だな』

 『はい』

 『なぜずっとただの騎士などと!』

 『父上との約束ですので』

 

 語る気もなく、正直に言うつもりもなく。父とその侍女の狂気を晒すつもりも無かった。

 

 ただ、早くその時が終わればいいと。

 

 「はぁ」

 

 疲れから深く息を吐き出し前を見る。もう幻覚は消えていた。ただ先に広がる白が強くなっているのが見えた。

 

 きっともう、終わりが近いのだとどこか他人事のように感じていた。

 

 

 

 

 ──────────

 

 いつの間にか山を登っていたらしい。その山頂にオーギュストは辿り着いていた。

 

 山頂なんだろうが、白が続く視界ではどこからどこまでが道で何処から先が無いのか境界がわからない。

 

 開けた場所には大きな氷がある。そしてその大きな氷の中に居たのは…────大きなドラゴンだった。

 

 

 城ほどもある背丈に、太く頑丈(がんじょう)そうな鋭い牙と爪。分厚い翼に大きな胴を支える太い足。

 

 「……そうか」

 

 オーギュストは苦笑いを浮かべた。この白は…この雪はこれを閉じ込めるための手段だったのだろう。

 

 「なら、彼女が否定して受け入れる事を拒絶し、繰り返したのは…」

 

 ルベリオンの傍で凍っていた青年を思い出す。魔物が居ないと言われるこのキュラスで腹に穴が空いている彼はきっと彼女がずっと待ち続けた“キール”なのだろう。

 

 同情と、憎悪と…それから。

 

 色々な感情が浮かんだ。まるで空いてしまったオーギュストの穴を埋めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

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