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孤独な白


 

 オーギュストは足を止めることすら記憶から消した様にただ前を見続け、眠ることすら惜しいように足をを進める。

 

 実際もう彼に眠った後に目覚めれるか自信はなかった。ただ頭だけは別の生き物のように考えを回し続けていた。

 

 ただ白の中を歩く彼を止める人はない。彼がずっと気にしていたルベリオンももう居ない。

 

 アレクシラに自ら誓った事ももう守ることは出来ない。ルベリオンは死んでしまっていたのだから。

 

 「…」

 

 アレクシラは美しい。美しい笑みをオーギュストに向けていつだって輝いていた。オーギュストの真実すら気にせずに。

 

 オーギュストは白の中を歩きながら幻覚を見た。もういない人達の幻覚だ。

 

 『オーギュスト、決して身分を明かしてはいけない』

 

 父はそう言って幼いオーギュストを縛り付けた。自分と瓜二つだった容姿を危惧した彼はまだ幼いオーギュストに鎧を着せ、自らは顔を焼いた。

 

 全ては守るためだったと彼は幼いオーギュストに死ぬ直前に口にしていた。

 

 彼にとって美しい顔も色もどうでもいいものでしかなく、幼いオーギュストを守るためなら簡単に捨てれるものだったのだろう。彼は周りに火事に合い親子共々大火傷を負ったと言っていた。特にオーギュストはその火傷が酷く、陽に弱くなったのだと。

 

 彼はオーギュストを守ろうと必死で。

 

 

 その隣で母を演じる女もそうであった。オーギュストとその父を守るためならば同じように顔を焼いて笑って見せた。狂っているとも言える程の行動には意味があったのだろうかと今でもその光景は夢に見る。

 

 けれど、本当に幼い頃の本当の母の記憶を思い出せた頃にはその訳も仕方ないと納得出来てしまった。

 

 母は死んだのだ。幼いオーギュストを守り。剣を受けて。血だらけのまま微笑んで、本当の名前を呼んで幸せに生きなさいと押し付けて。

 

 父は母の遺体を目の前にし絶望を叫んだ。周りに居た敵を全て殺し尽くしもう生を無くした母を抱えその場を立ち去る。その時侍女をしていた顔を焼いて見せた女が、立ち尽くすオーギュストを抱き上げその後を追うのだ。

 

 

 悪夢の様におぞましいそれは記憶だ。

 どうやっても覆ることのない記憶だ。

 

 「くだらないっ」

 

 父は強かった。天才と呼ばれたオーギュストよりも。父よりも強い剣にオーギュストは出会ったことがない。

 殺しにかかってくる者なんて全て殺してしまえばよかったのだ、顔を焼く覚悟があるならそれも出来たはずだと。

 

 そう考えても父の感情も理解出来てしまう様にオーギュストもなってしまった。最愛の人を失った絶望は計り知れない。アレクシラを失った未来など想像もしたくない。

 

 父は強さと裏腹に怯えていた。再び母と同じようにオーギュストが死んでしまうことを。

 

 

 『オーギュスト、決して…決して身分を明かしてはいけないのだ』

 

 だが、彼は明かした。愛する人を手に入れるために。

 

 謁見(えっけん)の間で、鎧を外して。

 

 父の考えは正しかったのだ。父と同じ顔と言うだけで、それだけで彼の本当の名も身分も分かってしまった。

 

 

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