表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/34

知らない顔


 時を止めたいと思ったのはただ一度だけ。拒絶したのも一度だけ。

 

 唯一のものが朽ちる…それだけは耐えきれなかった。唯一のものは自分の芯になっていたから。

 だから彼女はそれだけは後悔しなかった。

 

 

 ────────

 

 白がどこまでも続いてく。

 

 「っはぁはぁ」

 

 ルベリオンが食べ物を口にしたのは両親と妹が眠る家の中だ。止まれる場所もなく眠らずに歩き通しで、口に何も入れていない。

 

 飲み物を口にしようとしてもこの寒さだと口に入る前に凍ってしまうし、氷を口にすると今度は舌が張り付いて傷つき、体温が奪われてしまう。干し肉を口にしようとしても水を口にしていないから唾液も出てこない。(あご)を動かすことすら疲れて出来やしないだろう。

 

 「火、よ」

 

 誤魔化しの火を灯し微かな火を受けてからまた歩く。こういう時ルベリオンに火の適性があったなら良かっただろう。けれど彼は火に選ばれることは無かった。

 

 もう、寒いという感覚さえもない。ほぼ本能で動いていた。

 

 ぼんやりと進む白の中。ルベリオンは目の前に鳥を見た。美しい赤い鳥。澄んだ赤い瞳を持つ赤い羽根の鳥はルベリオンを一瞥(いちべつ)し高く鳴き声をあげる。それはまるで歌のようにも聞こえた。

 

 「歌…?」

 

 その歌は懐かしいような気持ちがする歌で。聞いたことがある気がして、でも聞いた事のないような気もする。

 

 不思議な感覚を覚えさせる歌。その歌が酷く心地よい。

 

 

 その鳥に誘われるようにたどり着いた場所は──── 一人の青年が氷の中で眠っている広場だった。

 

 

 木がなかったのかその広場の周りには白がそれほど積もっておらず、眠る褐色(かっしょく)の肌の青年がやけに目立つ。

 

 そして青年の腹には大きな穴が空いていて、氷の中に閉じ込められる前に亡くなっていたのだろうと分かってしまう。

 

 「誰だ…? 僕の村にはいなかった顔だ、見覚えの無い顔つきだし…というか」

 

 

 「魔物も住めないキュラスでなんでこんな大怪我を?」

 

 唖然と氷の中で眠る青年を見るルベリオンを赤い鳥は血のように赤い目で見つめた。

 

 白が降る。

 ゆっくりと静かに。

 

 

 全てを拒絶するかのような白が。時を止めるように。色を隠すように。全てを無かったことにするかのように。

 

 

 

 白が、降り続ける。

 

 


 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ