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チートなしで異世界に飛ばされた件  作者: 結城
第一章 『英雄の息吹』
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街道にて

 冒険者ギルドへ行こう。

 異世界といえば冒険者ギルド、冒険者ギルドといえば異世界。

 そんなところがあるよね。


 神様からもらった知識、略して神知識にもそう書いてあった。

 まずは冒険者ギルドにいくべきなのである。


 さて……ここはどこだろうか。

 周りを見渡すと、大まかなこの国の地図と現在地が分かった。

 神知識様様だ。

 脳内にある地図を目線で追っていくと、その場所がどういったところなのかがわかる。


 しかし完全でない。

 ある一定の距離まで移動すると、そこから脳内地図は完全に見えなくなった。

 どうやらこの国……ルグスアーク王国の周辺の簡素な知識だけインプットされているらしい。

 神の粋な計らいだった。

 そんなケチなことせず全部よこせと思う人もいるかもしれないが、俺はこの異世界の地を踏みしめてから柄にもなくワクワクしていた。

 これから冒険を楽しんでやる、という意気込みを持って、大きな一歩を踏み出した。




 †




 順調に見えた旅路は数分も続かなかった。


「へへへ……」

「見ろよ、人間だぜ……」

「しかも一人で、魔素の含有量も大したことねえな」

「こりゃ、高く売れるぜ……」


 歩いて30秒でガラの悪い獣人に囲まれているんですけど。

 俺、運悪いのかな。

 豆腐に足を滑らせて死んだくらいだし、相当悪いのかもしれない。

 普通こういう時といったらさ、馬車に乗った貴族を颯爽と救う展開とかじゃんね。


 男なんてさらって何が楽しいのか。

 ホモなのかな?

 俺はそう思って距離を取ろうとしたが、獣人の男たちは嫌らしい笑みを浮かべながら俺を包囲しつつあった。


 まあ、それも仕方のないことなのかもしれない。

 俺は種族人間だ。

 地球産のゴミのような体力しか持たない人間と違って、この世界の人間は特殊な能力をいくつか持っている。

 その一つが高い魔素吸収量だ。

 元々魔法と親和性の高いエルフとほぼ同等の魔素吸収率を誇るヒューマンは、教え込めば様々な魔法を使えるようになる。

 さらに身体的能力が劣っていて、魔法を封じ込めておけば無害なヒューマンは闇市場で奴隷として高値で売買される。

 彼らからしてみれば、こんななんでもない街道で見つけた俺は金塊の山に見えたことだろう。


 ここで俺には二つの選択肢があった。

 一つはこのまま奴隷として捕まってしまうこと。

 この世界ではヒューマンの価値は高い。

 例え奴隷として捕まっても、雑な扱いをされることはないようだ。


 もう一つは、ここでこいつら獣人を倒すこと。

 逃げるのは無理だ。

 獣人とは身体的能力に絶望的な差がある。

 背中を見せた時点で、そこには獣人の爪痕がぐっさりと残ってしまうことだろう。


 4人、4人かぁ。

 緊急事態なので神知識を総動員して対処法を探す。

 現時点でLv1のヒューマンが使える魔法はファイアとヒールのみ。

 これで4人の獣人を倒すのは……不可能とは言わないが、難しい。


 俺は少し考えてから、降参することにした。

 両手を上にあげ、抵抗しませんよとポーズをとる。

 それを見て、どこか緊張していた様子の獣人たちはほっとしたような表情を見せた。

 やはり、人間という種族に恐れを抱いていたらしい。

 しかし緊張を解くの早すぎやしませんかね。


 思ったより簡単にヤれるかもしれない。

 そう思い直した俺が魔力を練っていると……。


「ひっ」


 ドサッ、と何かが落ちる音がした。

 そこには手に大きめのリュックが落ちていた。

 追加して、それを持ったいたであろう少女が一人。

 耳が生えていて一見して獣人のようだが、少し違う。

 獣人よりも毛が薄く、特に顔周りは耳のある頭部に髪の毛があるだけだ。


 うーん。

 この場合ってどうなるんでしょ。


「嬢ちゃん、運が悪かったな」

「この現場を見られたからには、生きて帰せねえぜ」

「げへへ、この子けっこうかわいいじゃないですか。殺る前にヤッちゃっていいですかね?」


 うんうん、そうだよね。

 人間の誘拐とかいう重罪の現行犯を目撃されちゃ、生きて帰せないよね。

 しかしイイ感じにゲスいな。

 王都は比較的治安が良かったはずだが。


 俺はゲスい視線を向けられている少女を観察した。

 うん、ゲス男C(今名付けた)のいう通り、なかなかかわいらしい顔立ちをしている。

 しかしこの世界の住人を見た目で判断するのは危険である。

 特にこの子は見た目からして獣人と人間のハーフだ。


 種族人間はどの種族ともにゃんにゃんできる。

 ということで、この子は獣人の身体能力と人間の魔法的素質の両方を兼ねそろえていることになる。

 まあ、そんなにうまいこといかなくて、ハーフの場合魔法的素質はちょっと落ちるんだけど、それでも十分なアドバンテージである。


 あ、ダメそう。

 俺は涙目になって尻もちをついた、獣人にしてはどんくさそうな女の子を見て頭を抱えたくなった。

 これで大人しく捕まる訳にもいかなくなった。

 まあヒロインイベントを起こしただけ上出来か。


 完全に少女の方に意識が向いた獣人の一人に向けて、魔法の標準を合わせる。

 この世界の魔法は発動者との距離が近ければ近いほど高威力になる。

 なので、こうして遠隔で魔法を発動させると、Lv1の今の俺ではライターの火程度の火力しか出せない。

 だがそれで十分だった。


「ファイア」

「ぎゃああああああ!」


 この世の終わりのような断末魔をあげた獣人が鼻を抑えて地面を転げまわる。

 そう、俺は遠隔にファイアを……獣人の鼻の穴ピッタリに狙いを定めて放ったのだ

 これにはツヤツヤでナイスな感じに湿った鼻を持つ獣人もたまらない。

 ビクビクと何度か体を跳ねさせたあと、ぐったりと動かなくなった。

 どうやら気絶したようだ。

 ちーんという効果音が聞こえてくるかのようだった。


 てれてれっててー。

 本当に効果音が聞こえてきた。

 どうやら獣人を倒したことでレベルがあがったらしい。

 さすが、種族人間。

 レベルアップが早い。

 俺はさっそく新しく覚えた魔法を、一番近くまで来ていた獣人に向けて放つ。


「フラッシュ」

「ぎょほおおおおお!」


 フラッシュは種族人間がLv2で覚える探索用の魔法だ。

 洞窟なんかを照らすことができる。

 しかし、洞窟一帯を照らすことのできる光を眼球の真上で炸裂させるとどうなるか。

 答えはこうなる。

 俺は目を抑えて悶え苦しんでいる獣人を踏みつけ悦に浸った。


 しかし危険を感じ取った一体が目を薄めたまま突進してくる。

 ほとんど見えてないはずなのにがんばるな。

 俺は余裕を持って回避し、足を前に出し引っかけてやった。


「あいったあああああ!」


 顔ごとズボっと地面にめり込み、そのままズズズと3メートルくらい滑っていった。

 痛そうだなぁ。

 なんて他人事のように思いながら起き上がりかけた足元の獣人を再び踏みつけ気絶させる。


「うわあああああああ!」


 最後の一匹は悲鳴をあげながら逃げて行った。

 おい、仲間はどうした、仲間は。

 このままここに放置しておいたら魔物に食い殺されてしまうかもしれないではないか。

 まあ、自業自得か。


 しかし、あまり練度の高くない盗賊で助かったな。

 ここまで楽に追い払えるとは思わなかった。

 結局ヒールを使うことはなかったし。


 そこで俺は座り込んでいた少女の存在を思い出す。

 近づくと、足を軽く擦りむいているのが分かった。


「ヒール。お怪我は……これで治りましたね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「降りかかった火の粉を払ったのみですよ。それより街道とはいえ、護衛もなしに町の外を歩くのは感心しませんよ」


 Lv1の状態で堂々と町の外を歩いている俺にブーメランな台詞だった。

 現地人の常識的には、町の中で多少のレベル上げをしてから外に出るのが普通だ。


「はい……気を付けます」


 頷いた少女はぽーっとした表情で俺のことを見ている。

 これはあれかな、惚れられてしまったかな?

 シチュエーション的には悪くなかったはずだ。

 ベストを尽くした。

 尽くしたんだが……。

 俺は走って茂みまで移動し、そして――。


「うぼあああああ!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 自分の臭いセリフに耐え切れなくなって吐いたのだった。

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