90話「崩壊の招き人3」
轟音、爆風、閃光。
それらが一瞬にして レイジ達を包み込んだ。
ひどい耳鳴り、吹き飛ばされる体、チカチカする視界。
どうにか無理やり立ち上がり レイジ は周囲に声をかけた。
「勇者か！ 全員無事か！」
「....ん」
「だ、大丈夫です貴方様！」
「此方も何とかぁ」
「自分はちょっと...」
「全員無事だな」
「ちょっ、扱いが雑っす！」
レイジ は全員の無事を確認し改めて発信源...門のあった場所へ目を向けた。
「どいつがダンジョンマスターだ？」
「あの白い頭の奴よ」
「おっじゃまー」
「やけに多いな...」
「貴方達に怨みはありません。ですが、これは世界の為なのです」
「ようやく見つけたぜ」
「先日の借り、返させてもらおう」
砂埃から現れる面々。
勇者パーティー、冒険者、騎士団。
戦々恐々とする者、威風堂々とする者など様々だ。そして...
「お前が娘を殺した奴か？」
そう言って、アレックス が レイジ を視界の中心に捉えた。
明確な殺意、圧迫する威圧、絶大な力量。
ただ立ち、前を向き、言葉を発するだけでそれらを知らしめる勇者の肩書きは伊達ではなかった。
レイジ の背中に冷たいものが伝わり、一瞬に油断もできない緊張感が走る。
「娘...ね。そうだ、と言ったら...？」
「無論、殺す」
そう言って構えを取る アレックス に制止の声がかかった。
「ちょっと待て アレックス！」
「....何だ」
声をかけたのは エルグランド。そして、エルグランド の後ろには ボールス と パローラ も立って居る。
「ダンジョンマスターはアイツだけじゃねえ」
「あっちに居る女二人と男一人もだ」
「黒髪とー、獣人とー、植人族？」
ボールス が指をさした方をむけば 零達が状況の変化を伺っていた。
「あっちはどうする？」
「好きにしろ。俺はコイツを始末する。他の奴らでソイツ等を討てばいい」
「しゃあねえな。おいお前等！ 俺達はアッチを殺るぞ！」
「ふむ、では我等は...」
「テメエ等騎士団もコッチだ！ 勇者の戦闘に巻き込まれるぞ！」
そう言って ボールス 率いる冒険者、副団長率いる騎士団は 香 と 響 の方へ走って行った。
アレックス と エルグランド。
その二人が レイジ 前に残り対峙した。
「済まん ラルカ...俺がもっとお前を強くしてやれれば...だが、ここでお前の仇は必ず討つ。...約束しよう！」
言葉の終わりとともに アレックス は踏み込んだ。
数mは離れていただろう距離を一瞬にして無に変えた。
「速ッ...」
「終わりだ」
アレックス は振りかぶっていた西洋剣を振り下ろした。狙いは頭部。
その塵も残さぬような脅威の刃は...
「な！？」
「....」
横から突き出された何かによって大きな金属音を立て レイジ の横を通り過ぎて行った。
「お前は...？」
「....ますたーは...ころさせない...」
「ミサキ！」
そして、レイジ の背後には音もなく一つの影が薄っすらと現れる。
「その首貰ったッ！」
そう言ったのは一人の男。
動きやすいスーツの様な服装に腰にはいくつものポーチやナイフの類。
汚れない様にか頭には布を巻きつけ、顔まで保護している。
その男、勇者パーティー現斥候担当 ザット が両手に持つ二つの短刀で レイジ の首を捉えていた。
「そうは行きませんわぁ」
「何っ！？」
完全な奇襲であったその二本の短刀は黒い何かによって完全に動きを止められた。
「お前は...」
「お兄様に手を出そうなど生きているうちでは早いですわぁ」
そして、その後方では...
「んー、オールオッケー、『紅蓮の世界』ー！」
パローラ から発せられた呪文と共に轟々とした炎の塊が レイジ に向けられた。
「やらせないっすよ！」
炎の進行を妨げるように大量の鎖が地面から生えた。
鎖は幾重にも重なり、絡まり合い全てを燃やさんとした炎の進行を止め切った。
「ありゃー？ マジかー」
「お兄さんや先輩達の邪魔はさせないっすよ！」
「んー、これはー、どうしよっかなー...」
そして、パロール のさらに後方。
真っ白な美の化身とも思わせる女性...テレス がその白い服が土に汚れるのを厭わずに片膝をつき天に向かって祈りを捧げていた。
「皆様、援護いたします！ 神よ、どうか私達をお救い...ッ！？」
陣を展開し、呪文を唱えようとしたその時、闇の塊がその儀式に水を差した。
テレス は闇の塊を横に飛ぶことで回避し、飛んできた方向を見た。
「その魔法...神聖魔法を完成させるわけにはいきません」
そこには パンドラ が闇の剣を片手に近づいてきていた。
「....どうしてこの魔法の事をを知っているのでしょうか？」
「先人の知恵、と言うものですよ」
二人の美の化身が睨み合った。
「....どうやら今回は私も戦わなくてはいけないのですね」
テレス も持っている黄金の錫杖を両手で握り新たな魔法を紡いだ。
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「テレス の方にも魔物が...アレックス！ 手伝った方が良いか！」
全体の状況を見ていた エルグランド が ミサキ と見合う アレックス に声を飛ばす。
「要らん。お前は別の方へ回れ」
「分かった！ 気をつけろよ！」
そう言ってその場を離れる エルグランド。
目指すは最も主要となる テレス の場所。
その場所まで急いで走るが...
「ッ！？」
身の危険を感じた エルグランド は直様その場から跳びのき難を逃れた。
避ける前にいた場所にはいくつかの小さな穴が空いていた。
「何だ！？」
「貴方があぶれ者？」
「誰だ！？」
声がしたのは頭上。
顔を上に向け声の人物を捉えた。
零。
ただし、その容貌はかなり異なっていた。
様々なパーツが組み合わさり一つの軽装となって全身を守り、背部からは幾つもの電子的な砲台がこちらを覗き込み、零 本人の周囲には複数の盾の形をしたユニットが飛び回っている。
「おいおい...何だよこれ...？」
「言うならば科学の力、と言ったところね」
「か、科学だと！？」
「理解する必要はない。どうせ説明の時間なんてないのだから」
「....大した自信だな」
「誤解とは既に解が出ている。それを教える義理はない」
「意味がわかんねえ...よッ！」
零 を見据えていた エルグランド は片手に持つ盾を構えて 零 のいる空中へ跳んだ。
「『機械人形』...貴方は私を倒せない」
飛び込む エルグランド に全ての砲台の先端が光...放たれた。
書いていて気づいた。
視点数がやべえ...絶対戦闘回が長くなる...
