7話「始まるダンジョン4」
餓鬼との言い争いが落ちつき、黒い人形へレイジは視線を向けた。
「さて、じゃあ次にそちらの黒い方は...何?」
「この子はゼーレ知ってるよ!」
「おぉ、ゼーレは物知りだな」
「えっへん!でねでね、この子の種族は『ファントム』だよ」
「『ファントム』?」
「....(コクコク)」
ファントムに確認を取ると肯定するかのように首を縦に振っている。
「ほー、じゃあファントムは何ができるんだ?」
レイジの問いにファントムはコクリと頷くと地面に自分の腕を刺した、と言うより腕が飲み込まれた。
「お、おい...ッ!」
レイジはファントムに駆け寄ろうとする。そしてその時、自分の体が突如動かなくなったことに気づく。
「なんだ!?体が動かない!?」
レイジは動かそうと必死になるが、体はピクリとも動かない。
「お兄ちゃん落ち着いて。これは影魔法だよ」
「か、影魔法?」
「そう。多分これは『影縫い』かな?」
「....(コクリ)」
ゼーレが答えを言うとファントムがコクリと首を振り肯定を示した。
「『影縫い』は対象の動きを止めることができるんだよ。デメリットは止めている間、自分も動けないんだけどね」
「ほー、そうか。わかったからもう解いて...」
ーバシュッ
レイジが言葉を言い終わる前にレイジの目の前に黒い槍が地面から生えた。
黒い槍はレイジの顔スレスレを通過し、レイジの髪を数本散らした。
「...え?」
「今のは『影槍』だね。自分の影から大きさ自由自在の槍を放てる技だね」
「お、おぉ。凄いな。でもな、今のちょっと危な...」
ーバシュシュシュシュシュッ
レイジの言葉を遮り地面かあ新たな影の槍次々と生えた。
影の槍の一本一本がレイジを掠め、髪を数本、肌を数回、服に裂傷を与えていった。
「え!?っちょ!まっ!」
結果的に影の槍は影の牢獄に変わりレイジを閉じ込めた。
「何じゃこりゃぁー!!」
「おおー!これは『影槍』の応用技かな!?
すごー!」
レイジを閉じ込めた影の牢獄を見てゼーレは興奮する。
笑顔を作り、ピョンピョンと跳ねている。
「喜んでないで助けてくんない!?ファントムさん!もういいから、あなたが凄いのわかったから出して!」
レイジは牢獄の中から声を上げる。
「......................(コクリ)」
レイジの悲痛の声が届いたのかファントムは頷き影の牢獄を解いた。
「はあぁ」
解放されたレイジは大きく息を吐いた。
そして、ファントムに詰め寄った。
「ちょっとファントム!なんで俺を攻撃した!?」
「....(サッ)」
ファントムは目を背ける。
「解放する時、いつもより間が長くなかったか?」
「....(サッ)」
詰め寄るレイジにファントムはまたも目を背ける。
「こ、こいつ....」
「まぁまぁ、いいじゃんお兄ちゃん」
「よくないだろ。なんで俺が技の試験体にならなくちゃいけないんだ」
「ムフフフ、それだけ愛されてるんだよ!モテモテだねぇお兄ちゃん」
「はあぁ?今のが愛情表現だと!?そんな訳ないだろ」
「わっかんないよぉ。愛情表現の方法は人それぞれならぬ、魔物それぞれだからね」
「はあぁ」
茶化すゼーレに怒る気も失せたレイジは大きくため息をついた。
この時レイジは気づいていなかった。
黒い影はズッと、ジッとレイジを...レイジだけを見つめていたことに。
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「さて、最後は...」
餓鬼、ファントムと紹介が終わり、ローブの方へ視線を向けるレイジ。
向けた先にいるローブの背後には黒いオーラのようなものが見える...気がする。
オマケで、ゴゴゴゴゴォ、と効果音がつきそうだ。
そして、心なしか悲しそうにも見える。
「え...と、君は?」
「わ...私...レイス...」
「レイス?」
疑問符を浮かべるレイジ。
レイジの頭の中にはレイスは幽霊のような物としてイメージされている。
「ゼーレ」
「何、お兄ちゃん?」
「レイスってみんなこんな感じなの?」
「この子は特別だよ」
良かった。俺の中のイメージが守られ...
「武器が2つあるところとかね」
「....そんだけ?」
「中身が入ってるところもだよ」
「ヌイグルミか!じゃなくて...ローブは変わらないのか?」
「武器と中身以外は同じだよ」
ゼーレはさも当たり前のように答えた。
この時レイジは反論することを諦めた。
「じゃあ、レイス。君はどんなことができる?」
「わ...私...沢山の...こと..でき.....ない...」
「いや別に、そんなに求めてる訳じゃないから気にすんな」
「でき...るの...これ.......ぐらい....」
その言葉が言い終わった瞬間...
「「「「ッ!」」」」
レイスが消えた。
「な、なんじゃ!?」
「え?う、動いたんだよね?」
レイスが消える瞬間初動作があった。
「....(キョロキョロ)」
だが誰も、その一瞬の後に追いつけなかった。
「ど、どこだ...」
全員が視線を回し、周囲を見る。
そして...
「...ここ」
ポツリと呟かれた声はレイジの背後...真後ろから聞こえた。
呟かれた言葉に反応し全員がレイスを捉える。
レイスは持っていた2つのククリナイフをレイジの首と側頭部に当てていた。
全員がレイスの確認をしたと同時に気づいた...
「「「「ッ!」」」」
...自分の首が皮一枚で切られていることに。
「い、今のは...?」
レイジが驚き長からも疑問を口にした。
「....『神速』」
レイスの口から1つの単語が紡がれた。
「『神速』!?」
「ゼーレ知ってるのか?」
「う、うん。スキルにはランクっていうか階級っていうのがあるの。階級は神級から凡級まであって、階級が上がるごとに条件は厳しくなるの」
「そ、それって...」
「そう、『神速』は最高ランクの神級。発動条件の中には『生身では使えない』、『一歩ごとに大量の体力、魔力を使う』、があるの」
「ちょっ、ちょっと待て!『生身では使えない』は分かる。そもそもこいつ生きてないし。だが、『一歩ごとに大量の体力、魔力を使う』っていうのは変じゃないか?」
「うん、お兄ちゃんが言いたいことはわかるよ。魔物は召喚された時は必ずLv1から」
レイジ、ゼーレ、餓鬼、ファントム。
4人に一撃づつ攻撃を与えている。
全員は確かに近くにいたがそれでも距離は空いている。
当然一歩、二歩で全員を回ることはできない。
「な、ならこいつはそれを成せるほどの体力と魔力を持っているのか?」
「うーん、ゼーレの記憶に最初からそんなにたくさんの体力、魔力を持っている魔物はドラゴン位...うーん、ドラゴンでも最初からは神級のスキル分は無いかな」
「な、ならこいつは...何なんだ?」
全員が押し黙る。
そしてーーー
「「あ!」」
ーーーゼーレとレイジは気が付き、ある場所を見た。