86話「崩壊の光5」
勇者戦開幕(?)
レイジ がダンジョンに帰還してから三日。
運命の日が足早にやって来ていた。
「....」
ダンジョン最下層から一つ上『暗黒』の階層の円形広場。
そこにはお馴染みの顔ぶれが揃っていた。
二つの剣を腰に帯刀しジッとその時を待つ レイジ。
片方には愛刀である斧の刃を並べた形状の蛇腹の剣...妖刀。
もう片方には一度しか戦闘で使わなかったが馴染んだ直剣の蛇腹の剣。
せっかく買ったのだから有効活用しようと帰還してからの約二日である程度使えるように体得した結果である。
そして、レイジ の隣に位置するのは ミサキ。
普段と変わらないその無表情の顔つきも何処か不安と興奮を混ぜ合わせたように見えなくもない。
獲物は以前としてどこから取り出しているのかわからないように持っている...と思う。
実際、両手両腰にはその目立つ獲物が無いがいつの間にか握られているのはおなじみのため誰も気に留めない。
ミサキ と逆側に位置するのは パンドラ。
凛とした立ち姿はまさに戦う王女の様だ。
その表情は真剣で何処か勝ち誇った様子が垣間見える様な気もするが気のせいであろう。
最後に後ろに控えるのは エイナ と ハクレイ の二人。
ブスッとした不満タラタラの表情は一体何を言いたいのか...言いたいことが多すぎて検討もつかない。
きっと何かあったのだろう、レイジ はそう思い聞く事を辞めた。
と言うか、聞くと面倒そうだから聞きたくない。
「....なぁ」
「はい、どうか致しましたか?」
沈黙を貫き、ラスボスの様に待っていることが耐えきれなくなった レイジ が口を開いた。
「俺は確かに三日後に勇者が攻めてくるだろう、って言ったけどさ...」
「はい」
「....ん」
「ここで待つ意味ってあるのか?」
「え?」
「いや、侵入者を感知してからでも遅くはないよな?って思ったんだよ」
「「....」」
「ダンジョンには一応生まれた魔物はワンサカいるんだよな?」
「はい、いますよ」
「時間稼ぎくらいできるよな?」
「「....」」
「....別に最下層の方に戻ろうとは言わねえが...座ってもいいか?」
そう、なぜか強要されたのだ。
「立って待ち構えましょう」
と。
正直意味がわからなかったが言われた時は別にどっちでも良かったがいざ立ってると足が痛い。
そんな訳で座る事を提案すると何故かオロオロとする パンドラ と微妙な表情をしている様に感じる ミサキ。
逆に、ほらやっぱり、と言わんばかりに得意顔になる ハクレイ と エイナ。
(コイツらは一体何がしたいんだ...?)
「え、えっと...」
「取り敢えず座るぞ」
「...はい」
「やっぱお兄さんは分かってますっすね」
「流石お兄様ですぅ」
レイジ の後に続き少女達は腰を下ろす。
そのタイミングで ハクレイ は レイジ を褒め、エイナ は レイジ の膝の上に滑り込んだ。
「あ、エイナ様! 本日は私の方が順位が上なのですよ!」
「いいではないですかぁ」
「そうっす! 偶々じゃんけんで勝っただけじゃないっすか」
「か、勝ちは勝ちですわ!」
「....そう...エイナは...どくべき」
「ミサキ も技能でズルしただけではありませんかぁ」
「....かてばかんぐん...はいしゃは...黙ってたいじょう...するべき...」
「ムムム...言わせておけばぁ...!」
(ジャンケン...? 優先順位...?....聞かなかったことにしよう...)
「我慢なりませんわぁ! こうなったら直接ですぅ!」
「....ん...ばっちこい...たたきすぶす...」
「自分だってお兄さんの膝の上乗ってみたんっすよ!」
「私の方が先ですわ!」
(これは...面倒だが止めるか)
「お前らいい加減に...ッ!」
勇者がやってくる一大事の前に消耗するのはマズイと思ったら レイジ が止めに入ろうとするが...
「あ、貴方様...?」
「....ますたー?」
「体調が優れないのですかお兄様ぁ?」
「大丈夫っすかお兄さん!」
「....」
今まで何度となく感じた違和感。
いつの日かそれは慣れてしまい今ではちょっとした合図ほどにまで嫌悪感は緩和されていた。
しかし、今回は違う。
「....うっ!」
「貴方様っ!」
「お兄さんっ!」
かつて無い違和感。
想像以上の嫌悪感。
湧き出てる憎悪感。
黒い感情が連鎖的に湧き出てくる不思議な感覚。
レイジ は咄嗟の判断で半透明の画面...ダンジョンの全体図を開いた。
「一、二、三、四.......何だよこれ...」
「ど、どうかなさったのですか!?」
「侵入者が...」
画面に映るのは侵入者を示す赤い点。
最初は少数であったのに次々に増え、散らばり、そして...
「もうこの階層に来てやがるっ!?」
『暗黒』階層入り口。
そこには既に複数の侵入者がやって来ていた。
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ー冒険者ギルド仮施設前ー
簡素な民宿の様な雰囲気と造形をした一軒の建物の前に複数人の影があった。
そして、その人物達はある現象を視認し、立ち上がって。
小規模の竜巻。
風の渦が作り出すソレは周囲の草木を巻き込み空の彼方へ吹き飛ばし、進み、また別の被害を生み出す。
移動する速度もまた以上な速度であり真っ直ぐ此方へ向かっている。
そして、竜巻の発信源...発生させている張本人...勇者が姿を見せた。
「よお!」
勇者の姿を見た一人の大男...ギルドマスターは手を軽くあげ勇者の足を止めさせた。
「お、お前は!」
「久しぶりだな。何でこんなところにいんだ...アレックス?」
「....クロロス・ゼロギアス...何故お前がここに居る?」
「おいおい、質問してるのはコッチだぜ?」
「....どうせ分かってるんだろ?」
「まあな」
「娘を殺された。その仇討ちだ」
「....」
「ここにダンジョンが一つある筈だ。退け」
「あー、その前に話をしねえか?」
「退けと言ってるんだ! 退かないなら斬るぞ!」
勇者...アレックス は眉間のシワを深くし、片手を剣の柄に掛けた。
その雰囲気から察するに容赦はないだろう。
「待て待て、別にお前が行くのを止めるんじゃねえよ」
「....何?」
「コイツらを連れてけって事だよ」
そう言ってギルドマスター...クロロス は手招きをし他に待っていた人物達を呼び寄せた。
「コイツらはA級とS級の ボールス だ。ボールス のことは聞いたことくらいはあるだろ?」
「ああ、随分と頭が回るらしいな」
「いやぁ、それほどでも」
「そんで、こっちが騎士団の副団長と隊長達だ」
「うむ、よろしく頼むよ勇者殿」
紹介された隊長達は見本の様なお辞儀をした。
「....」
「連れてけ。足手纏いにはならねえ筈だ」
「何故こんなことをする?」
「あー、それはだな...あのダンジョンマスターが都市に来て大暴れして収拾つけるためにキッチリ殺す必要があるわけなんだよ」
「...わかった。なら先を急ぐぞ」
「あ! あと一つ!」
走りだそとした アレックス を間一髪のところで肩を掴みその足を止めさせた。
「なんだ!」
「....アイツが...ゲッケイの野郎が生きてるかもしれねえ」
「ッ!?」
「....気をつけろよ」
「....ああ」
互いに神妙な顔つきで目配せをし、アレックス達はダンジョンへ急いだ。
「....ゲッケイ」
ただ一人、残った クロロス は今は義足となってしまった右足を撫でながら アレックス達の背中を見送った。
長かったので分割。
次回の冒頭はクラスメイト視点からです。




