80話「崩壊の影3」
今までで一番長く書いた...
「竜と言う強者を君に見せてやろう」
アレク は得意げな顔でそう言った。
「強者...ね。得物が二本から三本になっただけだろう...が!」
レイジ も負けじと強気な発言と同時に アレク に急接近した。
様々な戦いと訓練のおかげで辿り着いたその脚力は一瞬のうちに距離を詰め、アレク の二本の剣と一本の槍が動く前に切り捨てようとした...が
「っ!?」
剣を振る直前に レイジ の視界は何らかの物体が高速で接近して来ることに気づいた。
「チッ」
攻撃を断念し、レイジ は改めて距離を取った。
距離を取ったことで飛来してきた物体の正体が分かった。それは、鞭である。
「クラリスッ!」
アレク は攻撃の邪魔をした張本人、鞭を振るった女性...クラリス に声を荒げた。
「副団長の命令ぞ?」
クラリス と呼ばれた女性は両手を軽く広げ戯けた態度でそう言った。
「む? 副団長の命令か...では仕方ないか」
一瞬前まで反発的な態度であったのにも関わらず アレク は直ぐに態度を一変させ レイジ に振り返った。
「すまないな。副団長の命令とあらば仕方なし...と言うものよ!」
開いた距離を アレク は脚力と背中に生えて居る翼の推進力で迫った。
右から、左から剣が飛び、技の隙間を縫って上から下から鋭い尾が飛来する。
「強者の名が泣く...ぞ!」
レイジ も片手にある蛇腹の剣で弾き、体捌きで避け、空いている足で隙を作る。
しかし...
「させないぞ?」
「止めるのです?です!」
アレク にとっては最高、レイジ にとっては最悪の場面で鞭が飛び、足元が凍る。
「クソッ!」
レイジ は咄嗟に跳躍し上空へ逃げる。だが...
「待っていたぞ」
レイジ のちょうど真後ろ。
そこには、西洋剣を振り上げた副団長の姿があった。
「死ぬがよい!」
「ッ!」
強烈な一振り。
その一振りで風が巻き起こり小規模の竜巻を起こした。
レイジ はその一振りにより地面に直線的に叩きつけられた。
「...フン...上手く防ぎおってか」
「え? 副団長、今のは直撃ではないのですか?」
気に入らない、そんな感情を隠さずに出した副団長に アレク が尋ねた。
「見てみろ」
副団長に促され アレク は レイジ の落下地点を見つめた。
砂埃が立つ中薄っすらと見える一つの影。
「な!?」
次第に砂埃が収まりそこに居たのは蛇腹の剣を全身に巻きつけた状態で立っている レイジ だった。
レイジ は蛇腹の剣を元に戻し再度構えた。
「よく防ぎおるわい」
「....あのタイミングは絶好の機会だからな」
「フン...面倒よ。おい、アレク!」
「は、はい!」
「次は二人で行くぞ」
「了解です!」
副団長と アレク も構えを取った。
(やっぱ頭数で押して来るか...マジでヤベエな...)
「ねえ、お兄ちゃんやっぱり...」
「大丈夫だ、心配するな」
「...うん」
焦りが見えたのだろうか ゼーレ が何か言いたそうだったが レイジ は無理やり笑顔を作りその先を言わせなかった。
「戦いの最中に余所見とは...笑止ッ!」
レイジ と ゼーレ のやりとりが気に入らなかったのだろう副団長が先に仕掛けた。
「ッ!」
その速度は レイジ の限界の速度に匹敵していた。そして、繰り出されたのはその速度に乗った刺突
一瞬後、金属がぶつかる特有の音が大きくなった。
「ほぉ、今のを防ぐか。自慢の突きなんだがな」
「いいや...いい速さだぜ」
刺さる直前無理に剣先だけを飛ばしその軌道をズラし レイジ は紙一重で避け切った。
「まだ次だぁっ!」
「クッ...」
至近距離で向きが変わる副団長の剣。
レイジ は柄で剣の腹を叩き上げ軌道を更に変える。だが、そこに...
「アレクッ!」
「了解!」
副団長の鋭い掛け声。そして、それに応える存在の返答。
いつの間にか レイジ の背後に回って居た アレク の全身を使った刺突。その巨体が全体重をかけた突きを喰らえばタダでは済まないのは明白だった。
(これは...)
レイジ の思考が加速する。自身の腕の位置、剣の向き、重心の体制、そして...ゼーレ の場所。
(ダメだ...これは間に合.....)
そして、最善手を見つけているなかで希望があった。
(...う!)
最初の副団長の刺突。その時に使った離れた先端が舞っていた。
「ウオオオオオオオォォッ!」
レイジ は叫びと共にその先端を動かした。
「なっ!?」
驚愕。
アレク にとっては突然目の前に凶器が現れそれが差し迫っている状態となったのだ。
普段 レイジ が攻撃として使う速度とは比べものにもならないくらいに遅いその一撃。
しかし.,,
「そんな馬鹿ッ...」
突撃して来る アレク の頭部を貫くには十分な物だった。
「アレクッ!」
「....」
副団長の声が響く。
だが、当の本人は返事をしない。
口から貫通した先端は アレク の後頭部を突き抜けその速度を完全に失って居た。
風穴の出来たその場所からは先端以外に赤い液体や桃色の何かまでもが飛び出している。
目は完全に開き切り、その表情は驚きで彩られて居た。
「貴様ァ!」
副団長が怒りの声を上げる。眉間には先程までなかったシワが深く...深く刻まれている。
「やっと....一人...」
レイジ は挟まっている先端を戻した。それと同時に先端とその糸が支えとなって居た アレク...だった物はドサリと音を立て地に伏した。
レイジ の中に希望が芽生えた。この調子でいけば勝てる、そんな淡い希望が。
だがそれは...
「これで...」
「テメェの負けだ」
大いなる油断を生み出して居た。
「....は?」
一瞬。
何か聞いた一言の次の瞬間には レイジ は宙を待っていた。
(視界が...揺れる...?)
分からない...分からない...
今の一瞬が レイジ には理解できなかった。
ただ、揺れる視界の中で目にしたのは...
武器を振り抜いている ボールス の姿だった。
(何だ? 何が起きた? 奴か? アイツが何かしたのか? いや、俺を打ち上げたのか?)
ゆっくりと進む宙での移動に レイジ の頭の中は疑問で覆い尽くされる。そして...
「今だ! 撃てッ!」
ボールス の掛け声が耳に届く。
(何が...ッ!)
「堕ちろォ!」
「!?」
唐突な引力の増加。揺れる視界の中、突発的な魔法に レイジ の対応が遅れた。
そして、落ちる レイジ の直下に待ち構えるのは...
「お姉ちゃんの痛みッ!」
鬼化した ロート の渾身の一撃。重力の増加とそれに反発する逆方向の力。二つの凶悪な力の組み合せが...
「ガフッ...」
レイジ の背部を捉えた。正確には腹部に直撃する筈だったのを レイジ が咄嗟に判断で強引に回転し場所を変えたのだ。
そして、レイジ は遥か上空に打ち上げられ...
「今度こそです、です!」
「喰らいやがれッ!」
序盤で使われた二つの魔法『白銀の世界』と『極力の世界』が再度 レイジ を襲った。
「ぐっ...」
レイジ もかつてない集中力を出し抵抗を続ける。
迫り来る氷の柱を何とか吸収する。しかし、重力の力までは吸収しきれなかった。
「チク...ショオオオオォォオオ!!」
レイジ は叫んだ。高所からの自然落下では頭が下になってしまう。
高速で迫り来る大地に レイジ は ゼーレ の頭を両手で覆い自身が下敷きになる様な体制に無理に転換した。
そして...
グキリ...そんな嫌な音が響いた。
「グハッ....ごぽっ...」
衝突と共に血液の塊が レイジ の口から這い出てきた。
「お兄ちゃんっ!」
ゼーレ が悲鳴にも似た叫の声を上げた。
内臓をいくつかやられただろう。
体が軋む...骨が折れたのだろう。
「お兄ちゃんってばっ!」
ゼーレ の声が遠くに感じる。
「起きてっ! 目を開けてっ!」
必死に ゼーレ を視界に入れようとするが瞼が上がらない。
微かに見える光の先は赤く、紅く レイジ の見たいものを邪魔していた。
「ぜ...ぇ...れ...」
「お兄ちゃんっ!」
呼吸が上手く出来ない。重い何かが胸にのしかかっているようで、肺が上手く動かない。
「おーおー、アレ食らってまだ生きてるのかよ」
軽い調子で言い寄ってきたのは両刃斧を肩に抱えた男...ボールス だった。
「う...ぐぅ....」
声が出ない。
視界が赤い。
腕に力が入らない。
立ち上がれない。
(ここ...まで...か...?)
絶体絶命のこの状態。レイジ の中で戦う意思が薄れて行く。
(もう...)
「ダメっ!」
(...!)
「お嬢さんそこを退いてくれねえか?」
「ダメっ! お兄ちゃんには近づかせない!」
「お兄ちゃんって...お前ダンジョンマスターの妹か?」
「こっち来ないで!」
遠くなる聴覚で捉えた ゼーレ と両刃斧の男の声。
「ゼーレ達は帰るの...ダンジョンに帰るのっ!」
(そうだ...帰らないと...)
「お兄ちゃんと...約束したのっ!」
(約束...そうだ...!)
「ガハッ...」
「...マジかよ」
レイジ は息を吹き返した。
レイジ は目を開け前を見た。
レイジ は体に力を入れ立った。
「俺の術式を喰らい、他の奴の攻撃を食らっても立つか...化け物かよ」
ボールス の戦慄した声が漏れる。
「...まだ...だ」
「お兄ちゃんっ!」
覚束ない足取りで、剣を杖代わりにして前を見る レイジ。
視界はブレ、足は震え、頭が回らない。
それでも、レイジ は ボールス をジッと見た。
「...敬服するよ...その気合いに」
「ガハッ....ハァ...」
「だがまあ、満身創痍には変わらねえな」
そう言って ボールス は両刃斧を振り上げた。
「ま、その態度に敬意を示して楽に終わらせてやるよ...じゃあな」
言葉の最後と共に ボールス の両刃斧が振り下ろされた。
狙いは首。
確実に死ぬだろう。だが、レイジ はその目を離さなかった。
そして...
「いやぁ、盛り上がってるとこ済まんな」
そんな軽い言葉とともに レイジ の視界は影に包まれた。
長かった...実に長かった...
だからここは短くしよ(ry




