79話「崩壊の影2」
ー冒険者ギルドー
冒険者ギルドの最上階から大男と女性が伝えに来た職員と共に急いで降りてきた。
「こ、これは...」
目の前に広がっていたのは破壊の惨状。
木製の床には所々に穴が空き、場所によっては真っ赤に染まっている。
さらに、カウンターは大破し同様に椅子や机も壊れている。
そして...
「おい、コイツらは...」
首を刎ねられ動くことのない幾つもの死体。
今は丁寧に布で包まれているが頭部の部分は赤く染まっている。
その死体のそばで今も涙を流す冒険者は少なくはない。
「こ、この人達はダンジョンマスターと思しき人物によって殺された冒険者達です」
「マジでいたのかよ...」
「い、いえ、それはまだ断定できていません。た、ただ、ロート様が言っていたので...」
「ロート が言ったか...ならほぼ黒と見た方がいいだろ...」
そう言って大男は近くにいた別の職員に足を向けた。
「おい」
「は、はい!」
「ダンジョンマスターを追いかけて行った奴はいるよな?」
「は、はい!」
「誰が行った?」
「た、確か ロートさん、ネビラさん、それに...ボールスさんです! ほ、他にもB級の方が数人追いかけていきました」
「何?ボールス の奴は帰ってきてたのか?」
「あ、はい」
大男は職員から顔を背けると入り口の方へと顔を向けた。
「そうか...不幸中の幸いとはこのことか...」
「貴方もいきますか?」
「いや、俺は出ない。俺にはこの場所は戦いにくいし、何より奴の邪魔になる」
「ボールスの...ですか?」
「ああ。S級『神に挑む采配者』...奴が居るんだ問題ないだろ」
大男は自身のあまりの幸運に興奮していた。
「...そう言えばギルドマスターには声をかけるなって言っていた様な...」
職員の小さな声は大男の耳には入らないほどに。
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一方的に攻められた魔法の猛攻を無傷で凌ぎ切った レイジ。
しかし、その内心は冷や汗が滝のように流れていた。
(危なかった...気づくのがあと少し遅かったらペシャンコだったぞ...)
そして、目の動きだけで自身の胸元を見た。
映るのは今もギュッと レイジ の服を掴み、小さく丸まっている ゼーレ の姿。
少しでも レイジ の負担にならないように考えてくれているようだ。
(これで相手取る人数が減れば良いんだが...)
ゼーレ を抱える手と剣を握る手、両方に力が込められた。
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冒険者達が囲む光景を背中に立つ ボールス は一連の攻防を見て考え巡らせていた。
(上級魔法を二発...しかもアレは直撃だろう。それを食らっても無傷....どう言う原理でそうなっているのかがわかんねえな...)
視界の中心にいるのは件の中心人物の レイジ。
そして、視界をずらせば自身のあった魔法を完全に捌かれたことで動揺を隠しきれずにいる ネビラ と騎士団の隊長の一人。
(ま、そうなるわな。自慢の魔法が無傷でいられりゃあ心も乱れるわ)
そして次に視界に入ったのは レイジ の能力の一端を知っていた ロート。
(鬼妹の言う通りなら魔法は無意味...いや、下手したらもっと何かあるかも知れんから悪手でしかねえな。となると...)
そんな風に考え耽っている ボールス。その横から小さく声が掛けられた。
「...なあ ボールス」
「んー?どうした ネビラちゃんよ」
「アタシじゃあアイツを相手どれねえぞ」
「そうだな。鬼妹の言ってることは恐らく正しいだろうな」
「じゃあ...」
「でも下げねえぞ?」
「...は?」
「いやいや、コッチは手数で攻められることに優位性があるのに態々それを捨てる意味もないだろ? それに魔法が効かないのはダンジョンマスターだけで俺たちには問題なく使えるはずだ」
動揺していた ネビラ に ボールス は的確な理由を述べる
「そう言うわけで補助には回れるはずだ。期待してるぞ?」
その一言...たったその一言だけで ネビラ の不安は氷解した。
見れば先程までの心の揺らぎはどこにも感じられない。いつも通りの自信満々のデカイ態度の女がそこに居た。
「チッ、しゃあねえな。ま、下がんねえでやってやんよ」
そう一言残すと ネビラ は ボールス の少し後ろへ待機した。
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ボールス 同様に副団長もまた状況の分析に頭を回していた。
(魔法が効かない...か。本当にそんなことができるのか? いや、現にできて居るのだ。問答をする意味もない。だが...)
そんな風に考えている副団長の元に杖を持った女性が近づいてきた。
「副団長...私はどうすれば良いですか? ですか?」
「うむ...」
(ボールス...奴も魔導士を下げないか...やはり後衛に立たせ足止め、補助と考えるが吉か)
「お前は後衛に奴に魔法を当てろ」
「え!? でも...」
「足止め、もしくは我等の補助の魔法を、だ」
「わ、わっかりました!」
そう言って女性は副団長の後方へ走って行った。
そして、入れ違いに西洋剣を二本構えた男が近寄ってきた。
「副団長、まずは私が...」
「うむ、奴もやり手...気を抜くなよ」
「ハッ」
そう言って男は剣を構え腰を落とした。
「...グルアァ!」
獣の様な雄叫び。
その声と共に男は駆け出した。決して人間の物ではない足跡を残して。
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(...来る!?)
沈着していた戦い。次に攻撃を仕掛けたのは兵士側の男。
両手に持つ二本の剣を巧みに動かし レイジ の顔、首、肩、太腿を的確に斬りつけてきた。
どれも当たれば軽くは済まない場所ばかりである。
しかし...
(は、速い...が)
レイジ は男の二本の剣を体捌きを入れながら回避した。
そして...
「貰ったッ!」
「ッ!」
技と技の切れ目、呼吸の瞬間を レイジ は上手く突き蛇腹の剣を男を囲む様に伸ばした。
360度、周囲を囲む刃から男は逃れる術は無かった。
それは得物が二本なら...
「甘いッ!」
突如現れた第三の武器。それは鋭利な槍を象った何かが レイジ の肩を狙った。
「な!?」
レイジ は咄嗟に手を引いた。しかし、その行動により男への攻撃は外れ更に...
「取り敢えず一撃...と言ったところか」
咄嗟の判断により肩への負傷は避けられたものの腕に浅くはない傷ができていた。
ポタリ...ポタリと少なくはない赤い血が レイジ の腕から零れ落ちる。
「お、お兄ちゃん!」
「黙ってろ」
流石の ゼーレ の レイジ の負傷に声をあげた。
レイジ 自身剣はまだ振れるだが、傷を負った理由が分からないことに焦っていた。
そして、その攻撃をした張本人に目を向けると...
「...おいおい、まさにファンタジーってことか...?」
「ふむ、私の姿を見て驚かないところを見るとは...やはりダンジョンマスターは見慣れているものなのかな?」
黒い瞳孔に金色の網膜。全身には所々に鱗の様な物が現れ、その腕や足には爪が鋭く伸びて居る。
更に、背後には大きな一対の翼と先端が赤く染まった鱗に覆われた尾が蠢いている。
「私は竜人族にして騎士団一番対隊長の アレク・シュポンド・ペンドラゴン。竜と言う強者を君に見せてやろう」
男...アレク・シュポンド・ペンドラゴン はそう言って再度構えを取った。
戦闘が長いのはこの作品のお約束になりつつある。
当初の予定だと2、3話で終わると信じてたのにあれ?これ入れよ...これも良いかも...とかしてたら長い長い。
...途中の ボールス と副団長の視点いらなかったかな...?




