44話「平穏と窮地の表裏6」
閑話です。
閑話はもう一話続きます。
ー異世界某所ー
都市部にある冒険者ギルドの最上階、大男が机に向かい書類を睨みつけていた。
「...」
そこへ、ドアをノックする音だけが響いた。
「...入れ」
「失礼します」
入って来たのは短く揃えられた黒髪、鋭い黒目の美しい女性だった。
「何の用だ?」
「本日、二名の冒険者が行方不明だと届けが来ました」
「行方不明? どうせ逃げたんだろ? そんなもんに一々構ってられるか」
「行方不明となったのは『閃光』のガレス、『蒼炎』のリリナの二名です」
「話続けんのかよ...って『閃光』と『蒼炎』だと!?」
二人の名を聞いた大男は先ほどまでの態度を一変させ、声を上げた。
「...うるさいです」
「あ、すまん。それで?」
「...行方が分からなくなったのは昨日。器物破損で賠償請求している者からの呼び出しで発覚しました」
「ガレス、またなんか壊したのかよ...」
「その者の言い分では昨日までに損害賠償の金銭を支払うとの約束だったそうです」
「だが、それだと昨日だけ居なかったとかじゃねえのか?」
「本日も確認しましたが、現れて居ません」
「つっても、たかだか一日二日だろ? そのうち現れんだろ?」
大男は説明を聞いていくうちに飽きが差したのか手元の書類に目を向け始めた。
「ただ居なくなった、でしたら問題はありませんでした。ですが数日前、最後に目撃された日、二人は怪しげな人物と面会していたのです」
「怪しげな人物?」
「その人物はローブで身を包み、フードで顔を隠して居ました」
「別にそんくらいならそこら辺でよく見んだろ」
「その後、二人はその人物と移動。最終目的地を予測した結果...発見されたダンジョンに向かったと予測されました」
「ダンジョンね....ん? ちょっと待て、そのダンジョンを依頼に貼っつけたのは昨日か?」
突如、何かに気づいた大男は手元の書類から目を離した。
「やっと事の重大さがわかりましたか」
「おいおい、なんでその二人...いや、ここではローブの人物を疑うべきか? そいつはダンジョンの場所を知ってんだ?」
「そんなこと知りませんよ。ダンジョンの発見情報が漏れたのでは?」
「ハッ、冗談はよせ。あそこにいる根暗が漏らす様な方法を取るわけがねえ」
「でしたら?」
「...そのダンジョンの危険度を上げる必要があるな」
「了解しました」
「で、そこのダンジョンは?」
「一回層が暗い珍しい型のダンジョンです」
「ッチ、また面倒だな。危険度の設定は分かってんな?」
「ええ、あの二人...中級冒険者以上を向かわせます」
「はあ、こんな時期に中級冒険者を二人も失っちまうとは...ついてねえ」
そう言って大男は両手で頭をかけた。
その光景を見て居た女性は更に口を開いた。
「それともう一つ」
「ああ? まだあんのかよ...もう勘弁してくれや」
ため息を吐く大男に女性は一つ間を置き低いトーンで言い放った。
「『ザイト』が突発的魔物発生現象により壊滅しました」




