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ダンジョンマスターは魔王ではありません!?  作者: 静電気妖怪
1章〜異世界の地に立つ者達〜
23/108

21話「歩み止められぬ者達1」

餓鬼の魔石が完全に消滅した瞬間ダンジョンが動いた。


餓鬼の屍を吸い始めたのだ。


「ッ!、おい!何でだ!?吸うな!止めろォ!」


レイジは咄嗟に餓鬼をつかみ、ダンジョンの吸収に逆らった。


だが、その努力もむなしくダンジョンは餓鬼の屍だけを吸収した。


「........クソ!」


ガッ!、と強い音が鳴った。

レイジは晴らせない怒りを、沸き立つ悔しさを拳に乗せ地面を殴った。


自分を罰するかのように何度も、何度も拳を打ち付けた。


次第に拳は腫れ上がり、血が滲み始めた。


「...が...き.....」

「.....(フルフル)」

「もう...もう...やめて下さい....」


レイスの呟きも、ファントムの沈黙も、パンドラの嘆きもレイジには聞こえなかった。


ただ、ただ自分の無力を何かにぶつけ続けた。


「もうやめて下さい!」


見かねたパンドラがレイジの拳を両手で包んだ。


「お願いです...もうやめて下さい...。これ以上...ご自分を責めるのは...やめて下さい...」

「でも...ッ!」


パンドラの必死の嘆願にレイジは振り返った。


「ひぐっ....」


振り向いた先には涙をこぼさないよう必死に我慢し、顔を歪めたパンドラがいた。


周りを見れば顔を覆うレイス、俯いて微動だにしないファントムが見える。


「私だって...私だって悲しいんです...。私は貴方様達ほど彼の方と接した時間は長くはないです....」


パンドラは涙ををこぼさないよう語り始めた。


「でも...でも!彼の方の勇姿に、忠誠に、幸福に...私は...私は憧れたんです!」


パンドラの頬に一粒の涙が伝った。


「貴方様の隣で戦っていた姿が! 貴方様の盾になり活躍した姿が! 最後に送られた貴方様の言葉が!...私は...私は...とても憧れ...羨ましいのです!」


一粒...また一粒と溜まっていた涙は流れ始めた。


「...だから...これ以上、貴方様を責めないで下さい...。彼の方を辱めないで下さい...!

ぐすっ...お願い...です...!」


レイジにはパンドラの、魔物の価値観がわからなかった。


でも...それでも、レイジには自分の行動が餓鬼を侮辱しているのかもしれない、それだけは伝わった。


だからーー


「....わかった」


ーーレイジは立ち上がった。


「...帰るぞ」

「...はい」

「う...ん」

「(コクリ)」


レイジ達は広場を後にした。


◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


最下層、レイジが目覚めた場所にたどり着くとゼーレがレイジ達に気づいた。


「...!お帰り!」


ゼーレは小走りでレイジの元へ駆け寄った。


「ッ!ファ、ファントムちゃん!」


ゼーレはファントムが右半身を失っていることに気づいた。


「大丈夫!?」

「(コクリ)」

「そ、そう?でも、後ですぐに傷治すんだよ?」

「(コクリ)」


そして、パンドラを見ると満面の笑みを見せた。


「...で、お兄ちゃん、その女...だれ?」


それはどことなく鬼を彷彿させるような、そんな笑ってない、乾いた、冷たい笑みだった。


「あ、ああ...こいつはパンドラだよ。階層主にいただろ?」

「え!?本当!?」

「私はパンドラと申します。種族名ではなく実名です。以後、よろしくお願いしますわ」


驚くゼーレに、パンドラは少々硬いが笑顔を作り、ドレスの端を摘んでお辞儀した。


「ふーん、そっかぁ。まさか女だったか...ま、お兄ちゃんが約束守ってくれたんだしいっか」


ゼーレは1人小さい声で納得の結論を出した。

しかし、その呟きは誰にも聞こえなかった。


そして、ゼーレは再度周りを見渡した。


「...あれ?....餓鬼は?」


そして、行きとの違いに気づいてしまった。


「「「「ッ!」」」」


その一言に、全員が身を強張らせた。


「....」

「お兄ちゃんどうしたの?...わかった!重くて帰り大変だから置いてきちゃったとか?

もう!ダメだよ、餓鬼もかわいそうだからすぐ迎えに行こ?ね?」

「....すまん」

「え?...何で急に謝るの?ちょっとビックリなんだけど」

「...本当にすまん...餓鬼は...」


そう言ってレイジはこれまでの顛末を話し始めた。


パンドラとの戦いを、マルコシアスとの激闘を、最後に見せた餓鬼の姿を、全て話した。

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