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ダンジョンマスターは魔王ではありません!?  作者: 静電気妖怪
1章〜異世界の地に立つ者達〜
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20話「無力な君へ、最後の贈り物を」

「のう、お主...生きたいか?」


そう餓鬼はレイジに質問した。


「生きたいか?...だと?...当たり前だ!死にたくないわけがないだろ!」


レイジは強い口調でそう言った。


「でもよ...こんな状況じゃあ、ちょっと無理あんだろ」

「....輪廻の魔物は何度も繰り返すのじゃ」


か細く呟いたレイジに餓鬼は懐かしむように話し始めた。


「ワシの様な輪廻の魔物は個体数が少ない。何故なら、繁殖しないからじゃ」

「...ハッ、何言ってんだよこんな状況で」

「じゃがのぉ、輪廻の魔物は繁殖の代わりに別の進化を遂げた。それが記憶の継承じゃ」

「いや、だから何言ってんだよ...」

「なに、ちょいと昔を思い出しただけじゃ」


餓鬼はそう言って一歩踏み出した。

動けない、そう言っていたはずなのに確実なる一歩を踏み出していた。


「お、おい...お前...」

「今から見せるのはワシが昔考案した技じゃ。ま、見てるがよいぞ」


餓鬼はそう言い、駆け出した。


両手と両足を地に着け決して速くはないがマルコシアスの元へ近づいて行った。


「お、おい!」


レイジは咄嗟に追いかけようとするが...


「来るでない!」


餓鬼の強い拒絶に身を強張らせてしまい、足を止めてしまった。


そうしている間に、餓鬼はマルコシアスの元に辿り着いた。


「レイス!ここから先はワシがこやつを相手する!じゃから、(ぬし)の元まで引くんじゃ!」

「....で...も...」

「いいから下がるのじゃ」

「う....ん...」


体力に限界が近かったレイスは餓鬼の気迫に押され徐々にマルコシアスと距離を取り始めた。


「なんだ貴様は!」

「ワシか?ワシはのぉ只の老いぼれじゃよ」


餓鬼はマルコシアスの質問に対し醜悪な笑みを浮かべながら答えた。


「そんなことを聞いているにではない!」

「なんじゃ、あんまり怒ってばかりじゃと疲れるぞ」

「...もう貴様らと遊んでいるつもりはない」

「ワシもそのつもりじゃよ」

「...ならば見せてみろ!」


マルコシアスは激情に顔を歪め、前足を餓鬼に向けた。


その前足には固く、鋭い爪があった。

そして...


「グハァ!」


その爪は餓鬼の腹部を貫いた。


「「「ッ!」」」


赤い、紅い、鮮やかな赫が餓鬼の腹部を染め上げた。


「なんだ?なんだなんだ!弱いではないか!」


餓鬼の腹部を染めた赤は地を同様に赫色で染めあげたいた。


「あれほど大口を叩いていた割になんてザマだ!」


餓鬼の腹部からは一滴、また一滴と赤が落ちる。


「フハハハハハッ!」


マルコシアスの笑い声が響く。


「が、餓鬼イイィ!」


レイジの慟哭が木霊した。

レイスが、ファントムが、パンドラが、マルコシアスの元に突撃しようとした。

その時...


「な、なんだ!?」


一条の光が餓鬼から放たれた。


◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


光が治るとそこに目に見えた変化はなかった。


「何も起きんか?」


マルコシアスの問いに答える者はいない。


「何も起きないではないか!最後の攻撃も大したことないとは報われん魔物だ!」


マルコシアスの声が響き渡る。

そして...


「フハハハハハ....ッ!!何!?」


変化は突然に起きた。


「何だ!?何が起きている!?何故、我の体が崩壊している!?」


マルコシアスの尾が突然に生命活動を止め地に落ちた。


マルコシアスの牙が突然に鋭さを失い地に落ちた。


マルコシアスの足が突然に力を失い、外れ地に落ちた。


マルコシアスの瞳が突然に光を失い地に落ちた。


マルコシアスの頭が突然に意思を失い崩壊し、地に落ちた。


そして、餓鬼を貫いた前足は砕け散ってしまった。


「何が...どうなってるんだ...?」


マルコシアスが死んだ、それは明確な事実だ。

だが、それと同時にーーー


「そうだ!餓鬼は!餓鬼は大丈夫か!」


レイジは餓鬼の元に駆け寄った。

パンドラも、レイスも、ファントムも餓鬼の元へ急いだ。


周囲にそれを阻む存在はいない。

狼達はいつの間にか消えているのだから。


そして、駆け寄った先には...


「ヒュー...ヒュー...」


...腹部に大きな穴を開けた餓鬼が居た。

だが、その呼吸は酸素を取り込んでも穴の空いた場所から通り抜けていくばかりであった。


「こ、これでは!」


パンドラは咄嗟に口から言葉を漏らしてしまった。


「おい、おいしっかりしろよ餓鬼!」

「ヒュー...ヒュー...」

「パンドラ!何か方法はないのか!?餓鬼を助ける方法は!」


レイジは振り返ってみるとパンドラは視線を餓鬼から外していた。

その瞳には涙が溜まり、頬にはいくつもの涙が伝っていた。


「...貴方様。残念ですが...その傷の深さでは...」

「そ、そうだ!DMPで回復薬なんかがあるんじゃないか!それなら...」

「貴方様!」


何かないかと必死に考えるレイジにパンドラは今までで一番大きな声で叱咤した。


「...もう...無理なんです。胸の所をご覧になってください」


パンドラはそう言って餓鬼の胸の箇所を指差した。


そこには、とても美しい石の...残骸があった。


「...それは魔石と言って、私達魔物にとって心臓のようなものです。それが...粉々になってしまっては...もう...」

「...治す..方法は無いのか?」

「....ありません」

「おい...おい...嘘だろ!?餓鬼!」


レイジは餓鬼に振り返り肩を揺らした。


何度も、何度も揺らした。意識を取り戻させるために。

医療的な考えで決して行ってはいけない行為だと分かっていてもレイジは止めなかった。


レイジに出来ることがそれだけなのだから。


だが、わずかな変化は起きた。


「ヒュー...ヒュー...のぉ...おぬ...し...」


呼吸が安定しない、それでも餓鬼は振り絞るようにして言葉を紡いだのだ。


「ッ!何だ!餓鬼大丈夫か!」

「わし...ヒュー...の....」

「食い物か!?あんまり沢山は買えるかわかんねえけどできるだけ買ってやるからよ!」

「さ...いご...の...ヒュー...ねが...い...ヒュー」


餓鬼は呼吸を無理に行いながらも一語ずつ、レイジに伝える。


「何だ?他に欲しいものがあるのか?言ってみろ!」

「わし...の...ちか...ら...うば...って...ヒュー...くれ...ん...か...のぉ...ヒュー、ヒュー」

「力を奪う?そんなことできるのか?」

「で...き...る...」


レイジはすぐに自分のステータスを確認した。

そして、見つけた。


ーーーーー

能力模倣(1)


ダンジョン内にる魔物が持つ技能の一部を使うことができる。

模倣できる対象は1体。

練度はレベルに依存する。

ーーーーー


「『能力模倣』のことだな?」

「そ...ヒュー...うじゃ....」


レイジは直ぐに技能を使い餓鬼の能力を模倣した。


ーーーーー

能力模倣(1)


対処:種族名『餓鬼』

模倣能力:『暴食』

ーーーーー


「餓鬼!やったぞ!他に何かあるか?」

「これ...で...ヒュー、ヒュー...お...ぬし...もヒュー...たた...かえ...るのぉ」


餓鬼の先程まで必死だった表情はいくらか和らでいた。


「のぉ...わし...は...ヒュー、ヒュー...いて...よか............ったの...........ヒュー..か..のぉ....」


餓鬼は不安そうな顔でそう言った。


「当たり前だろ!お前のおかげで俺は死ななかった!お前のおかげなんだぞ!」


レイジは必死に伝えた。

自分の命の恩人に、どれ程であったかを。


「ヒュー、ヒュー.....そう.......か.....。ヒュー....それ.........だ........け....きけ....ヒュー、ヒュー........れば.....ま.....ん....ぞく....じゃ....」


餓鬼の表情に先程までの不安はなかった。

いつもの笑顔を浮かべ、瞳から流れる涙が頬を伝った。


「わし...は....しあ...わせ....じゃ...」


その一言を最後に餓鬼の呼吸音は止まり、砕けてなお輝いていた魔石は散ってしまった。

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