ファンタジー至上主義
この作品時間内では魔法>科学です
「おいおいなんだその顔は俺が盛ってるとでも思っているのか?」
従兄殿が私達を見渡した後に不満そうな顔を隠さずに言ってくる、どうやら呆れたような目を向けていたのは私だけではないようだ。
「いや、確かにあんたは自衛隊員だから深くまで潜ってるんだろうけどさすがに信じられねえよ」
北原君の言葉に私達も頷くと、従兄は怒る事無く、深刻そうな顔で私達特に、北原君の目を見ながら
「いいか、レベルアップっていうのはお前達が思ってるような軽いものじゃない、と言ってもこれは実物を見せた方が早いか」
そう言って雄兄は胸ポケットから携帯端末を取り出して何かの動画を私達に見せてくれる。
「よく見ておけ、これが民間人がレベルを上げる事を政府が制限した理由だ」
雄兄がこちらに向けた端末では、一人の少年が、軽自動車ぐらいの大きさの岩を持ち上げて、戦車に向けて高速で投げつけていた。
「これって……」
私が思わず声を上げると、動画は別の場面に移る、そこでは先が尖った鉄でできた棒を槍投げのようなフォームで投げている青年が映っているかと思えば、投げた鉄の棒は戦車の装甲を貫く。
鉄の棒は中が空洞となっていたのか戦車からはみ出た鉄の棒からはどす黒い液体が流れ出ている、あれは血だろうか……?
場面はさらに変わる、弓を持ったおじいさんが空を睨みつけているかと思えば、数秒後に矢が放たれる。
まさか、と私が思っているとその数秒後、重たい物が地面へとぶつかった音の後に爆発音が端末から響く。
それから後も、原始的な武器を持った人間が銃で武装した人間を薙ぎ払っていくという、まるでファンタジー至上主義者の書いた小説のような展開が動画では展開されていた。
「最初のは、レベルを上げた人間なら誰でも簡単にできる事だ、その次に簡単に戦車の装甲を鉄の棒が貫いているのは槍スキルの効果だな、その次は弓スキルと鷹の目だろうな、見ればわかると思うが、レベルが上がり、強力なスキルを持った人間は、現代兵器を上回る事ができる」
雄兄が続けて言うには、少なくも現在日本で使われている携帯できる兵器では20レベルを超えた人間を殺す事は難しいんだよ、と言った後に雄兄は私達を改めて睨みつける。
「いいか、2人は10レベルまでしか上がらないからここまでの戦闘力は得られないだろうそれでも普通の人間と比べれば君達の戦闘力、いや、殺傷能力は比べ物にならないんだ、もう一度、その事を胸に刻め、もし君達が酔っ払って一般人とケンカでもしたならば、俺達は君達を殺さなければいけない」
殺すと言われた瞬間、私達は全員びくっと大きく体を震わせるそれは冗談ではなく本気だという事を私達に念を押す為だろう。そして絶対に安易に武力を振るうなという事を念押しするためだろう。
「何度も言うぞ、君達が認められているレベルは10だ、一般人と比べれば大人と子供くらいの力の差があったとしても、自衛隊員と比べたら、ありと象ほどの差があるんだ、片手どころか、指先で突かれただけで死ぬほどの差だと思え、そんな人間が殺しに来るんだ、逃げ切る事も生き残ることも無理だ、だから俺に君達を殺させるな、いいな?」
私と北原君は何度も首を縦に振ると、やっと雄兄は満足したのか、私達に向けていた怒気、いや、これが殺気か?とにかく、謎の気配を収めてくれた。
「それから後ろの二人も、気を付けてくれよ?万が一レベルが1にでも上がったら監視対象となる、不便な生活は送りたくないだろ?」
恐らく動画を見て少しレベルを上げたいと思っていたのだろうが、雄兄に笑顔を向けられた二人は顔色を真っ白にして首を上下に振る事で了解の意を示した、その様子を見た雄兄はこほんと咳払いをした後に
「では本題に戻ろう、あそこでダンジョンに入れろ等と叫んでいる人間のうち何人がそんな強い力を手に入れた後に人にその力を見せる事を我慢できると思う?」
そういわれて、私達はすっかり忘れていたダンジョンの前で騒いでいる団体の方を見る、そういえば事の発端は彼等をダンジョンに入れていいかどうかという話だった。
「別に俺だってあいつらが力を手に入れて全員が暴走するとは思っていないが10人中5人がその力を自制できなかったら日本のあちこちで問題が起きるだろ、その犠牲になるのは力のない民間人だ、そんなことを認めるわけにはいかない」
だから彼等を入れる事は絶対にできないのだ、と雄兄はデモ活動を行う人間を睨みつける。
彼等は楽天家なのだ、ダンジョンという危険な場所に入るには危機感が足りなすぎるのだ、ダンジョンで力を得るという事に対しての覚悟が足りない、高レベルの人間というのは兵器なのだ。
それにダンジョン内でモンスターを倒す事だって決して危険がないわけではない、怪我を負ったり、死亡するものも出るものなのだ、にもかかわらず彼等はそれを意識していない
少しだけ北原君が何か言いたそうだったが三橋さんはそれを遮り。
「そういった認識の甘さを正すために私はカメラを持ってダンジョンに入るのです、どうやらダンジョン内で死んだ人間は骨だけを残すようなので、自衛隊が封鎖する前に入った人間がどうなったのか、それを写真や動画に残し、ネット上に上げるというのも私達が政府から受けた仕事の一つなのですよ」
三橋さんはそう言って自分が持っているカメラをポンポンと叩く。
私は今まで軽く見ていたレベルアップという物の現実とダンジョンの危険の認識を改めるのだった。
作中で鉄の棒で戦車の装甲を抜いているのは槍スキルの効果によって鉄の棒が槍として認識されているからです、先が尖っていて、長い棒なら槍スキル、先が尖っていない長い棒は棒スキルの補正を受けます
100年潤沢な資金と資源があれば魔法<科学になりますが、そんな時間かけて研究するなら、魔科学の有効利用法をさらに突き詰める為に結局、兵器はここでフェードアウトになります