ダンジョン28話
私がびっくりしていると、彩音嬢は、悪戯がばれた子供の様に肩を竦めて離れていった。
「まったく彩音ときたら、すみません佐久間さん」
そう言って謝る明智嬢に私が何のことだか分からずにいると、明智嬢は説明をしてくれるようだ。
「現在佐久間さんは唯一解体スキルを持っている人間です、ですから研究者としては何が何でもダンジョンの下層に向かってもらいたい、今は佐久間さんは自分の意思で協力してくれていますが、ダンジョンの下層に向かう途中で何か事故が起きて佐久間さんがダンジョンに潜りたくなくなるかもしれません、そうなった時に、国の極秘情報を知っていれば無理やりにでも協力を続けなくてはいけなくなります」
そう言われ、確かにあのまま聞いていれば私にとって不利な事になっていたと思う。
「助かったよ、エリカ嬢」
私がエリカ嬢にお礼を言うと、エリカ嬢はにこりと笑い
「助かったと思ったならわたしのお願いを聞いてもらいたいのですが、別に難しい事ではないですよ、呼ぶときに名前で呼んでもらいたいんです、苗字は嫌いなので、できれば呼び捨てにしてもらえるともっといいんですが」
そう言ってこちらを見上げてくる明智嬢、改めてエリカ嬢、さすがに呼び捨ては厳しいということで、彼女にはエリカ嬢呼びで妥協してもらった。
「仕方ないですね、わたしのほうが年下なんですから別に呼び捨てでもよかったんですが」
そう言って笑うエリカさんに私はふと疑問が浮かんだ、彼女は解体のスキルに関心があるようだが、彼女の知り合いに解体のスキルを覚えさせることは出来なかったのだろうか?総理大臣と親交があるようだしそれなりに良好な関係に見えるのだが。
私の質問にエリカ嬢は、少しだけ迷った様な素振りを見せた後に
「私の部下が解体のスキルを覚えた状態で、解体スキルによって何か政府にとって不具合が起きた時に、その部下を処分しなくてはいけないという事態を避ける為です」
確かに私が解体スキルを取得するときにもそれについては総理に確認をされた部分である。
もちろん、すぐに処分という事にはならないと言われたが、それでも何かあれば厳しい処分を覚悟してほしいと言われた。
「確かに私は解体のスキルに興味があります、ですが、私の興味の為に部下の人生に重荷を負わせたくはありません」
セバスには言わないでくださいね、そう言って恥ずかしそうに顔を背けるエリカ嬢、私はそんな彼女の態度に少しだけ驚く。
初対面の印象では完全にやばい奴だったのに、こうして話すと部下想いの良い女性に見える。
そんな私の感情を感じ取ったのか、じとーっとした半眼でこちらを見るエリカ嬢に私は顔を背ける。そんな私の様子にエリカ嬢はくすりと笑い。
「わたしはこれでも何人も部下を抱える人間なんですよ?確かに初対面で少しだけ感情が暴走してしまったのは事実ですが、常にあんな風に生きている人間がそんな立場になれるわけないじゃないですか」
そう言ってくすくすと笑うエリカ嬢は確かに普通の女の子だった、私はエリカ嬢が自らの勘違いを詫びると、エリカ嬢はうーんと悩んだ後に
「それなら今日これから私と一緒に5階まで降りてもらえますか?その間に色々な物に鑑定や解体を使ってもらいたいんです、佐久間さんからデータはもらっていますが、佐久間さんが普段送ってくれるデータにはないデータを取りたいので」
私には決定権がないので雄兄が許可するなら、そう言うと、エリカ嬢からは既に許可を取っていると返事が返ってくる。
それならば私から言う事はないよと言うと、エリカ嬢は彩音嬢の下に向かい、二人で楽しそうに話している
そんな私の元に雄兄はやってくると、私の肩を抱き、にやにや笑いながら
「いやー、太郎にもやっと春が来たか、ちょっと問題がありそうな娘だが、太郎にはああいうぐいぐい引っ張ってくれる娘の方がいいのかもなぁ」
などと言って一人でうんうん頷いている雄兄のボディに一発叩きこむ、残念ながら私の腕力では雄兄の腹筋を貫いてダメージを与える事はできなかったが、うっと呻き声をあげて、喋るのを止め
「佐久間さん、青木さん、そろそろ移動を調査を始めたいんですがいいですか?」
そう言って、エリカ嬢がこちらに声をかけるので、私は雄兄を置いて彼女達と方へと向かう。
すぐに雄兄は私に追いつくと、小さな声で、油断するなよとアドバイスをしてくる。
「それではダンジョン探索に参りましょう、まずは1階の休憩地点へと向かい、そこで佐久間さんに【鑑定Ⅰ】と〈解体〉のスキルを使って様々な物を調べてたいのですが、よろしいですか?」
エリカ嬢にそう問われ、私は頷く事で返事を返す、さてさて、今日は一体どんなことになるのかな?
不思議と心が高揚している事に気づいて、私もまだまだ若かったのかな?と苦笑するのだった。
エリカ嬢「計算通り!ギャップ萌えで好感度ゲットね」