ダンジョン26話
元25話になります。
このお話の前に新25が投稿されており、また閑話を別の場所に移動した結果最新投稿の数が大きく減っています、作者の都合で紛らわしくしてしまって、申し訳ありません
キララ嬢のライブから少し経ち、私の生活に特別なまだ変化はなかった。
最近では私も今の生活にすっかりと慣れた物で、行き帰りに車で聞くお気に入りの曲を選んだり、帰りに車を運転しながら食べるコンビニでの買い食い等を楽しむ平穏な人生を送っていた。
そうこの日までは……
おかしいと思ってはいたのだ、朝起きた時に、背中に寒気が走った、探索者になってから風邪や夏バテ等と言った体調不良とは無縁だったのに……
とはいえ、休むほどの体調不良ではないだろうと思い、着替えを済ませて、車に乗り込もうとした時、目の前を黒猫が横切った。
偶然だと、自分に言い聞かせていつものようにダンジョンの入り口に向かい、1階に1歩踏み出した時
「よう、太郎、元気か?」
そう言って、雄兄に声をかけられた、私は声のする方へと視線を向けるとそこには、雄兄と、2人の女性と1人の老紳士が立っていた。
この瞬間これまで生きてきた中で最大の震えが体を襲う、多分、雄兄に殺気を向けられた時よりも酷かっただろう、私はその集団に背中を向けて脱兎のごとく逃げようとして
「知らないのか?強制イベントからは逃げられない」
そう言って雄兄に肩を掴まれた、決して強くつかんでいるわけではない、だけど決して逃がさないと言う確固たる意志を感じる瞳をこちらに向けていた。
「違うんです雄兄、何が違うのかは私にもわからないけど違うんです、私は決してここにいてはいけないんです、ここからいなくなるんです!」
そんな風に支離滅裂な言葉を話す私に対して、雄兄はただ、ニコリと笑い続けるだけだった、時に笑顔とは100の言葉よりも雄弁なのだと、私はこの時に知った。
雄兄は私にこう言いたいのだ、ただ一言
「諦めろ」と
「それでそちらの方々は一体どちら様で?」
すっかり諦めた私は、視線を雄兄から、後ろに立つ3人に移す。
それはまぁ、異常な集団だった、3人の中で1歩前に出て、私の方を見ているのは、身長150cm程の少女?だ、
腰まで伸びた黒い髪に、切れ長の目、全体的に華奢で、肉付きがいいわけではないが、綺麗な少女だ、人によっては踏まれたいと思うだろう。
装備はしっかりしている、一切の露出がないしっかりとダンジョンを歩く格好と言えるだろう、ただ、体のラインが出ているので北原君がいたなら目の毒だっただろうか?
いや、最近の彼はおっぱいさんな彼女に一途だから他の女性に目を奪われることはないか、ゆりか嬢も妊娠2ヶ月だとか言ってたし……爆発しねえかなぁ、下半身と命は失うとゆりか嬢が可哀そうだから、こう、過去の黒歴史ノートとかゆりか嬢に見つからないかなぁ、
現実逃避はこの位にして、残りの2人を確認する、一番おかしいのは多分この男性だろう、だってダンジョン内なのにスーツ着てるんだもん。
50代位の男性でしっかりと鍛えられた肉体と広い肩幅等、色々と特徴があるのだが、彼を一言で表すならこうだろう。
セバスチャンッ!
背筋を伸ばしピンと立ち、白い手袋をつけて、自分の前に立つ少女をまるで孫を見守るかのような優しい眼差しを向ける彼はまさにセバスチャンッ!
さて、最後の一人だが、彼女もまた少し特徴的だった、いや、率直に言おう、見た目の怪しさでは彼女がナンバーワンだ。
身長は160cm程だろうか?薄汚れた白衣を着ているので科学者なのだろうか?俯き気味に、長い前髪で目元を隠し、それでもしっかりとこちらを睨むように見ている。
私が視線を向けると、へへっと言う笑い声を上げて視線をそらされた、手元にはノートとペンを持っていて、ノートを見ずにペンを絶え間なく動かしている。
もしかしてあのノートには私の事が何か書かれているのだろうか?
人を見かけで判断してはいけない、だが、あまりにも、あまりにもテンプレなのだ、THEマッドサイエンティストなのだ……
(私分解でもされるんだろうか?)
そんな事を私が考えていると、黒髪の少女?が私の元に近づいてくる。
その顔には満面の笑みを浮かべており、思わず私が警戒するほどだ。
……初対面の美少女が満面の笑みを浮かべて近づいてきたら、警戒するのは当たり前だよね。
そんな私に、少女は笑みを浮かべたまま近づいてきて、2歩ほどの距離で止まると、笑みを浮かべたまま、私に手を伸ばし
「総理大臣、小尾の協力者をしています、明智エリカと申します、本日より、貴方と共にダンジョンの6階以降を攻略していく仲間ですわ」
目の前の少女の言葉に私が茫然としているうちに少女は私の手を取る、私は思わず雄兄の方を見て、どういう事か目で問い詰めるが、雄兄はそれよりも前を見ろと言うかのように、明智嬢を指さす。
私が雄兄のジェスチャーに渋々ながら向きをエリカ嬢を見ると
「ああ、これが現在日本で唯一、解体のスキルを取得した人間の手なのですね、一体どういう原理で貴方の手はモンスターを干渉しているのでしょう、気になりますわ、知りたいですわ、切り落として持ち帰っては駄目でしょうか?」
そこには私の手を撫でまわしながら、恍惚とした表情を浮かべる明智嬢が居た。
この日から私は、自分の体が出すどんな些細な反応も見逃すことなく生きる事にしようと、強く心に誓ったのだった。