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死なない僕が英雄になるまで。  作者: 穂藤優卓
序章
8/33

第八話 入学試験 2

 僕はスライムに向かって走り出していた、それと同時に他の数人もスライムに向かって走り出しているのが木の上から確認出来る。だがその人達に負けじと木々を伝って最短距離で飛び移っていき、僕は巨大スライムの前に立つ。


 近くで見たらその姿は圧巻でだった、見上げるほどの大きさに口を開けて見上げる。

移動速度は早くない、だがそれでも大きさというのはそれだけで脅威になる。

 スライムの弱点はゲームの知識でならば核を破壊する事や凍らせる事、僕は半透明な身体を凝視し核を探すと、意外とすぐに見つかる。

体内に丸い脳みそのような形をした何かが体の中心から少し上の部分に一つだけ存在した、たぶんあれが核だろう。しかしあの核に破壊するには短剣では刃渡りが短く破壊する事は困難だろう。

そんな事を考えていると周りには他の受験生が集まってきていた。


「ありゃぁ無理だな、他探すか」


 皆は口々にそういった、だがそれも無理はない決定打が無いのだ。

だが僕は諦めるという選択肢を取ることが出来なかった、今年を逃せば来年も受験出来るが、来年になれば僕は実質26歳になる、月火にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

僕はスライムの周りを一周し、対応策を思考していく。試しに一本の短剣をスライムに投げ入れると、チャポンと池に落ちたような音を立て短剣は徐々に沈んでいった。


「これならあの手を使えば行けるかもしれないな」


 そんな独り言を呟くと、辺りを見渡し一番高い木を探す。付近にスライムよりも大きな木を発見した。

すかさず僕はその木の頂上まで登り切ると、スライムの核の位置を確認する。頭上から確認するとすぐに核の場所は把握できた、僕が今から行うのは紐無しバンジーである。

 この方法は実践では使うことは出来ない、スライムの柔らかい体と先生が召喚し安全に配慮した試験だからこそ出来ることだ。

僕は精一杯枝を蹴り天井すれすれまで飛び上がると、短剣を下に向け自分の体重に重力を上乗せし真下へと落下していく。

 

 一つ間違えれば即死だろう高さからの安全具なしでの落下、はたから見れば自殺行為だと思われても仕方がない。だが僕の短剣は核の真上を捉える、粘着性の液体を周囲にばら撒きながら短剣は核めがけて下へ沈んでいく。

 そして短剣は核を捉える、刃先が核の中へめり込みむとスライムは体を激しく動かし最後には溶けるように崩れ去っていった。


 飛び散ったスライムの破片を体中に浴び気分が悪くなったが、それもすぐに消えた。

一息つこうと地面へ腰を下ろした時、誰かからの嫌な視線を感じた。僕はその視線を浴び反射的に臨戦態勢を取り辺りを見渡すが、誰も居ない。

 気の所為だったのだろうと僕は再び腰を下ろそうとした時、発煙弾が打ち上がった。

試験の残り時間五分前の合図だ、だが僕の体力は底をついていた、森の中で現れたボスの様なスライムを倒したのなら試験は大丈夫だろう。

 

 休憩していると一人の受験生が僕を見ながら歩いてくる、先程の視線はこの男からだろうか、しかし彼からは嫌な視線は感じなかった。


「お前やるなぁ、あのデカイ奴との戦い見てたぞ、命知らずだと思ったがああも見事に倒すとは面白い物を見せてもらったぜ」


 何処かで見たことのあるような彼を僕は思い出そうとするが、思い出せない。

しかし悪い人ではなさそうだ、彼は何故あんな行動を取ったのか、倒せると確信してたのかなど根掘り葉掘り聞いてくる。その問にも時間は経過していき試験終了間際になっていた。


「そろそろ行かないとな、お互い受かるといいな。それじゃ俺はいくわ」

「え、あぁうん」


 台風の様な人だった、身長は高くガタイの良い彼の背中を見送る。彼は武器の類は何も持っていなかったから、素手か武器がいらない異能力を持っているのだろう。

だがそんな事を考えている暇は僕にもなかった、考えていたことを頭の隅に置き、急いで集合地点へと向かう。

 僕が到着した頃には既に大半の受験生が集まっていた、皆も満身創痍といった様子だ。

その中に混ざると先生が次の指示を出している、どうやら一旦別室で待機となるらしい。

結果は今日中に出るらしく別室での待機時間は30分程を予定されているらしい。その後、合格者の受験番号を読み上げ結果発表となる。


 僕たちは体育館から出ると皆、最初に集まった部屋へと移動し、受験番号が記された机に座る、ちなみに僕の番号は152番だ。

椅子に座り結果発表を待つのみとなった、他の受験生も緊張してかそわそわしている人もいれば、疲れたのかそれとも割り切ってるのか眠っている人も数人居る。

 僕も疲れたから30分だけでも仮眠を取ろうと机に突っ伏していた、だがそれも肩を叩かれすぐに起こされることになる。誰だろうかと思い、僕は振り向くとそこには一人の女の子が立っていた。

元気の良さそうな美少女って感じだ、いったい僕に何のようだろうか。


「君さ、あのおっきいスライム倒してた人よね、凄いよ!」

「そうだけど、えーと……」

「あっ、いきなりでごめんね、あたしの名前は観月愛莉だよ愛莉って呼んで」

「わかった、僕の名前は伊藤優っていうんだ」

「優君ね、それよりさあのスライムどうやって倒したの?」


 それから、僕は愛莉にスライムを倒した経緯を話し始める。話の内容を愛莉は頷きながら目を輝かせて聞いていた。


「今回限りの方法だろうけどあたしには出来なさそうだね、間違えたら死ぬかもしれないじゃん、勇気あるんだね」

「危ない時は先生だよりだったんだけどね、愛莉ちゃんは試験はどうだったの?」

「あたしはね―――」


 僕は待ち時間は二人で試験の内容を語り合っていた。

こうやって試験の内容を語り合い、改善点を見つけていくことは初めてで、疲れも忘れ話に没頭した。

試験での愛莉は持ち前の機動力を活かし、見つけては倒しを繰り返していたらしい。

残念ながら異能力について話すのは恥ずかしいと言われ、それ以上は聞かなかったが、どんな生物と戦ってきたのか話を聞くだけでも僕と同程度かそれ以上の数を倒してきたのじゃないだろうか。


「結構話し込んじゃったね、あっ先生来たみたいだから、席に戻るね」


 愛莉は手を振り自分の席へ戻っていく。

僕も改めて前を見ると先生が紙を手に持ち立っていた、どうやら今から合格者の発表があるようだ。

普通の学校ならば後日発表が当たり前だが、この学校は違う。僕は受かってくれと祈りながら鳴り止まぬ心臓を落ち着かせるために深呼吸をする。


「皆さん居ますね、それでは今から合格者の発表を始めます。合格者は受験番号で呼びますので呼ばれた方はこちらの扉の奥で待機をしてください、それで合格者を発表します―――」


 先生は合格者の番号を読み上げていく。合格者は60人で約5人に1人は合格する計算だ。

淡々と読み上げられる番号。僕の番号までは時間があるが、それでもすでに十数人も不合格者が出ている。

 ここで見覚えのある人も合格したようだ。スライム討伐の時話しかけてきた男と先ほど話しかけてきた愛莉も合格したようだ。僕は愛莉に軽く手を振ると、笑顔で喜びを僕に表現してきた。

 受験番号が100を超えた、既に三十人近くの受験生が別室へ移動している。

不合格者は机に突っ伏して泣いている人も居るようだ、それもそうだ今日の日の為に汗を流し毎日頑張ってきた人達ばかりだろう。

 

 そして先生が遂に僕の番号の一つ前である151番を読み上げる。

次だ、次……、これが僕にとっての最後のチャンス、掴み取らなければならない。


「151番の方別室へどうぞ、では次の合格者は受験番号152番の方」


 あっさりと呼ばれる自分の受験番号に一瞬思考停止する。

今、僕の番号が呼ばれたのだろうか、戸惑いながらも席を立つと、先生からおめでとうの一言で実感が湧く。


「そうか……受かったんだ……」


 他の人達と比べ短い期間だろうが入院中からここまで約半年間、毎日繰り返してきた事が報われた瞬間。心臓の鼓動が煩く感じる、受かったことへの喜びで目頭が熱くなる。

だがようやくスタートラインに立っただけだ、入学してからが本番になる、僕は気合を入れるように拳で胸を叩くと別室へと移動した。


 別室へ移動すると、既に四十人近くの受験生が待機していた。すぐに愛莉と目が合うと、愛莉は小走りでこちらに来る。


「優君も受かったんだねッ!これから一緒に頑張ろ」


 愛莉は右手を差し伸べ握手を求めてくる、僕はそれに答え手を差し出した。

これから三年間の学生生活を共にするのだ。戦闘科のクラスは二つあるらしいが、愛莉と一緒になれればいいなと僕は思った。それから愛莉と先ほどの会話の続きを話し始めた。


「そっか、優君も今回が最後のチャンスだったんだね」

「家族に迷惑かけるわけにもいかないからね、愛莉も今回で受からなかったら諦めてたの?」

「うん、母子家庭で、お母さんの負担が大きくてさ。今回が駄目だったら普通に就職するつもりだったよ、そういえば優君の家族ってもしかしてさっきの先生だったりする?」

「え、なんでわかったの」

「普通に顔が似てたし名字が同じだったからね、お姉ちゃんが先生なら色々便利そうだね」

「う、うん、まぁあまり学校外では頼らないようにするけどね」


 月火と僕の関係は結構な人達が察しているようだ。

スライムを倒したせいで少し目立ってしまったのがバレてしまうのを早めたのだろうか。

それより、愛莉は月火を姉だと勘違いしているようだ、僕が兄なのに……、それでも事の成り行きに任せよう、話がややこしくなる事は避けることにした。


 愛莉と話しているとどうやら合格者60名が決まったようだ、最後の一人と先生が一緒に部屋へ入ってくる。僕は愛莉との会話を名残惜しいが途中で終わらせ席に着くと、先生が合格者全員を確認しはじめる。

それも終わると、これからの入学までの流れの説明を始めた。


 制服や運動着の採寸や教科書の購入は後日行うとの事、そしてこの学校には新入生歓迎会なるものがあるらしい。入学式前に在校生と新入生の全校生徒と複数名の先生で行う食事会の様なものだとか。

新入生は出席が確定しており、新入生歓迎会後に採寸や教科書を購入するらしい。そして学生として一番楽しみであるクラス分けは入学式後に行われるとの事だ。


 一通り先生が説明を終えると、今日は解散となった。

受験番号は僕が高校受験の時の番号だった記憶が・・・。

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