表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/89

六十五話 いつかの休日

今回は、イラスト担当のわしさんが書きました。

─────第一帝国戦より少し前の話、とある休日の事である




「俺、もうダメかもしれない」


机に突っ伏しながら、小声で呟く。サセッタ二番街にある木造の寮の一室。

小さな窓からは外から陽が差し込み、かすかに外の往来が生まれていた。


早朝からの突然の弱音に、ノイアは身支度を中断し、戸惑いながら返す。


「急にどうしたの、シオンらしくないよ。朝の髪型のセットはしなくていいの?」


「最近、気が滅入る事が多かったからな…それに、セットはとっくの昔に済ませた」


問いかけに伏せたまま答える。普段よりも2トーン低い声と芝居がかった落ち込み様、

何かあったといわんばかりの振る舞いである。それとは対照的に髪型と身だしなみはきっちりと整えられている


「どうしたの?また星座占いが12位だった?それともランプに朝ご飯取られたとか?」


「確かにラジオ占いは2日連続12位で、今日はやることなすこと全て裏目に出るとか言われたり、

ランプに朝食のウィンナーを取られたりしたけど、そんなちっぽけなことはどうでもいいんだ。」


「うーん、デヒダイトさんに奇抜なシャツいっぱい貰っちゃったとか?」


「…まあ、確かにあれはもらっても普段着れないし、捨てる訳にはいかないからなあ…

でも、寝間着にすれば問題ないし、最近は貰ってないから大丈夫だ。もっと重要な───」


「えー、なんだろ…あ。もしかして、アイネの事」



すると、水を打ったように場に沈黙が訪れる。そして、


「そうなんだよ!最近そっけないんだよ。話しかけても、

あーとか、そう…しか言わないし、俺の事避けてるような気が…」


せきを切ったようにまくしたてるシオン。どうやらよほど気にしていた様子だ。

そのさまに苦笑してしまう。


「あー、そうなんだ。うん」


ノイアはぎこちない表情をしながら曖昧にかえす。


「なんか悪いことしたかな」


「そんな事ないよ。シオンにも…うん、きっと良い事あるよ」


「…ノイア、お前なんか知ってるな」


「え」



心の内を見透かされ、狼狽するノイアを横目に大きくため息を吐くシオン。


「孤児院の頃から、隠し事をしている時は引きつった笑いになるからなー。

お前の事なんてお見通しなんだよ」


「べ、別に、隠し事っていうほどの事じゃないよ」


ますます動きがぎこちなくなる。それにシオンは呆れながら


「どうせお前ら・・・ぐすん。俺のいないところで何かやってるんだろ!

いいよいいよ。あー、鬱だ。」


「そんな事しないよ~。あ、僕今日用事あるから先に行くね」


これ以上は付き合っていられないと、それを言った直後、カメレオンの能力を行使し、姿をくらますノイア。

あっという間にどこかへ行ってしまったようだ。


「俺を置いていくのかーーー!!!」


誰も居ない部屋で、床に両膝をつき、慟哭するシオン。


「バカヤロー、バカヤローーー!!!」


彼の迫真の叫びはクロテオードが注意するまで続いた。







「悩み事なら、おねーさんにドーンと任せるの!」


ランプは両手を腰に当て、ドヤ顔でシオンを見据える。


ただ、シオンより一回り小さいその姿は、どうにも心もとない。


「本当に相談して大丈夫なのか…?」


「もちろん!でびたいと隊一の頭脳を持ってる私にかかれば、

どんな悩みも朝飯前の三文の得なの!」


「いや色々違うだろ」



寮の1階である共有スペース。時間は既に昼過ぎを指している。


クロテオードに注意された後、二度寝を決め込んだがどうにも気が晴れないシオン。

気分転換に移動した場所で、運悪くランプに遭遇してしまい、事情を説明する羽目になっていた。


「あ、シオン…」


すると幸か不幸か、丁度寮の玄関にアイネが立っていた。

買い出しから帰ってきたのだろうか、大量の荷物を両手に抱えている。


絶好のタイミングに、シオンは間髪入れず口を開く。


「アイネ、俺また何かやっちゃったか?借りてた漫画の端がおれてたことか?

それとも、頼まれてた掃除当番適当にやってたことか?」


「え、いや、違うけど…」


「もしかして、孤児院の時にアイネのお菓子食べちゃったことか?」


「そんなことやってたんだ・・・」


「あ、いや、これは違うんだ」


自ら地雷を踏んでしまったようだ。その様子を見たランプは、


「悪いことをしたらあやまる。これで万事解決なの!」


と彼女らしからぬ、合理的なアドバイスをする。


的を得た助言を聞き、瞬時に頭を下げ、手を合わせる。


「あ、アイネ、ごめん。謝るから」


「わ、悪いけど私用事あるから!じゃね」


だが、必死の弁解もむなしく、アイネは荷物を持ったまま、


また外に足早に引き返してしまった。部屋に残された2人は


「アイネ、怒ってたの」


「ああ、怒ってたな」


と呟くしかなかった。



「あやまりかたが足りなかった気がするの。私がクロちゃんに謝るときは地面にうつ伏せになって謝ってるの!

サセッタどげざってやつなの!」


「! それってどうやってやるんだ」


先ほど、アイネに逃げられてしまったシオンは藁にも縋る思いでランプに教えを乞う。


「こうなのー地面に伏せてー」


「こうなのか?こうなのか?」


二人とも板張りの床で仰向けになっている。


楽しそうにはしゃぐランプとは対照的に、必死になっているシオンの姿はどこか痛々しい。


「ランプ、シオンに変なことを教えるのはやめい」


すると、クロテオードが見ていられないと部屋の奥から出てくる。


「シオン、そんなに気にすることは無い。気晴らしに外でも行ってみたらどうだ。」



「最近ロクな目にあわないな…」


サセッタ三番街。屋外の人工的な風が心地よく通り過ぎていくのを肌で感じる。


「今日のラッキーアイテムはたしか…ネックレスか」


街路を歩きながら呟くシオン。小一時間外を歩き回りながら、ぼんやりとそれを考える


「ただ、今の世の中簡単に手に入らないよなー。持ってなかったらラッキーもへったくれもないよな」


双極帝国戦争が起きて以降、一部の帝国を除き、娯楽品や嗜好品の類は急速に出回らなくなった。


それは、サセッタでも例外ではなく、アクセサリー等も市場にはほとんど出回ることはなかった。


子供の頃は母さんからもらったものがあったが脱走の際、紛失してしまった。


別に装飾品が欲しいわけではないが、あればいいなと思う時もあった。


まあ、占いなんてあてにならないし、気にすることもないが。


「シオン氏、こんなとこにおったん?」


不意に後ろから呼びかけられる。振り返ると、巨漢のカルーノがいた。


「探したンゴよー、ルナ氏が手伝ってくれなかったら、見つからなかったンゴ」


カルーノの後ろにはルナがいた。能力を行使したからか、


小さな体躯に不釣り合いな、大きな純白の翼が背中から広がっていた


「俺に何か?」


カルーノがシオンを呼び止める場合、大抵は対戦ゲームの相手を探す場合である。


だが、ルナに手伝ってもらってまで、探す事は今までなかった。


「うん、アイネ氏がシオン氏を呼んで来いって」









寮に帰るとアイネとノイアが両手を後ろに回して待ち構えていた。


アイネはいざしらず、ノイアは何かニヤニヤして気味が悪かった。

俺の弱みでも握っているといわんばかりの様子だった。


わざわざ、先輩であるカルーノを使ってまで呼んだのである。


さっきの出来事で怒っているとしか思えない、いや、絶対そうだ。


謝り方が足りなかった気がする─────というランプの言葉がフラッシュバックする。


どうすればいい、高速で考えろ。この展開をひっくり返す行動を…!



──サセッタどげざ──




──悪くねえ賭けだ…ッ!!







刹那、シオンは動いた。








「ごめん、俺が悪かった。この通り謝るからッ!」




二人を見た瞬間、玄関にうつ伏せになるシオン。急に床に伏せたからか、額からゴッっと音が鳴った。


瞬間、頭上からパンッと乾いた音が鳴った。


うつ伏せのシオンは突然のクラッカーの破裂音に目を丸くした。






「なんで私に教えてくれなかったの!」


ふくれっ面のランプ、アスシランは、


「ランプに教えたら作戦の成功率が下がるだろー。絶対誤魔化せないじゃん」


「わたしもできるのー!演技できるのー!!」


リビングにはデヒダイト隊全員が集まっていた。


「この日の為にアイネちゃん、綿密に準備してた。まじめ」


「まあ、誕生日なんて祝うことないけど、どうしてもって言われちゃったンゴからねぇ」


「小僧の特別な日だ。隊をあげて祝うのは当然のことだな」


「ノイアも頑張ってたからな、あとから礼でも言っておきな」


そして、全員の中央にいたアイネが一歩踏み出し、小さくささやかな包装が施された箱を手渡す。


「誕生日おめでとう、シオン。これささやかだけど、私たちからのプレゼント」





パーティの片づけを終え、寮の一室のベッドの上でシオンは横たわっていた。


部屋には極彩色の鯖と書かれたシャツや小奇麗に包装されたプレゼントがおかれている。


ノイアは既に疲れていたからだろうか、スヤスヤと寝息を立てていた。


占いも案外捨てたもんじゃねえな


ネックレスを手にしながら呟いた。その横顔はわずかに、ほころんでいるようだった。







次回更新は4/1予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ