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五十七話 六戦鬼 ホークゲン




サセッタが正面門から突入し、城下町を走り抜ける。

一般市民と思われる人影はない。恐らく、侵入するより早く避難させておいたのだろう。

その事実はサセッタとしても好都合だった。

一切の邪魔なしに帝国城に向けて意識を集中できる。


中央通りを半分ほど終えたところで、サセッタの集団は三手に分かれる。

山のように屹立する帝国城内から、いよいよ大部隊に編成された軍隊が見えてきた。


その数、20万強。

対するサセッタは一万人弱。

万人が見てもレジスタンスが不利なのは明らかだ。


しかし、不敵にもサセッタは侵入スピードを緩めるどころか加速していく。

このままいけば、住居が開けた先の帝国城前にある中央広場での激突となる。


中央広場は帝国城を中心に据え、囲うように半径1.5kmの円でできている。

地面は埋め込まれているバザルトは極限まで磨き上げたためか、街灯に照らされると気品ある黒光りの光沢を放つ。


間違いなく戦場となるのはこの場所だろう。

帝国兵らは被害をできるだけ最小限に抑えるべく。

そして、サセッタは障害が無い場所で、セリアンスロープの能力を解放するべく。


帝国軍は正面から迫るサセッタの三分裂に対応するように、同じくして大部隊を三つに分け対応する。

扇形に陣を展開させ、サセッタの主力が最も集うだろう中央の層を厚くする。

手にはレーザー銃を構え、いつでも撃てるように引き金に指を掛ける。


一方でサセッタ。

中央通りを軸に、左方に展開している集団が軍隊長ミラージ率いる部隊。

真逆の右方に集まり移動している集団が、軍隊長アイリスが率いている部隊。


そして、真ん中―――中央通りを駆け抜けている大部隊が二人の軍隊長、タモト、コールルイスらが率いている軍である。その少し距離を置いた後方では、医療部隊でもあるコェヴィアン隊がいた。


それぞれの部隊が各々に形印(コントラー)を浮かび上がらせ、体型をセリアンスロープのものへと変態させていく。


翼。鉤爪。鱗。

嘴。鎌。針。尾。


人からヒトへと成り、人ならざるものへと変貌する。



そして―――



今、両者が激突する。



「撃てェッ!!」


人造人間兵の持つレーザー銃からは、綺羅星の如く閃光が飛び出る。

総勢20万近くの兵士たちが、ほぼ同じタイミングで引き金を引いたのだ。

その瞬間の周囲の光量は、太陽でも落ちてきたのではないかと錯覚するようなまばゆさだった。


「あらあら、危ないですわね」


緊迫した状況下でも、まったりとした口調を崩さずアイリスは言った。

人造人間兵と邂逅するまでの間、溜めに溜めていたセリアンスロープの真髄を発揮する。


右側に展開していたアイリスが、大地に自身の足から文字通り根を下ろして体を固定する。

そのまま右手を大きく振りかぶったかと思うと、腕が数倍にも膨張していく。

無数の蔓が噴き出し、融合していくと一つの巨木にも似た集合体が天にそびえる。


「はあぁッッ!!」


掛け声と共に振りぬかれた右腕は、さながら天から大陸を断絶せしめる太刀のように、サセッタと帝国軍の間に割って落とされる。


全てのレーザー弾が巨大な蔓に着弾し、弾けさせる。

中には貫通するレーザーもあるが、しかし、それは最前列にいるタンク役を担うセリアンスロープが身を以て防ぐ。


帝国軍の第一波の攻撃をアイリスの能力で防ぐと、サセッタは蔓を乗り越え、いよいよ人造人間兵に牙をむく。

見えてきた軍隊の多さを目の当たりにし、


「さすがに多いねー。ルイスっち、ビビってない? 大丈夫?」


「……大丈夫ですよ。だてに最年少でサセッタの軍隊長やってませんから」


「そっ、ならいくよー!」


中央通りの先陣を切って走るタモトとコールルイスが、形印(コントラー)を顕現させる。

タモトが息を思いっきり吸い込むと、周囲に上昇気流が生じたかのように空気の乱れが生じる。それらは全て彼女の肺へと取り込まれていく。


「パッッ!!」


タモトから炸裂音にも似た高音が響くと、正面の人造人間兵らがまるで磁石にでも引き寄せられるかのように、一点に引き寄せられ体の自由を失う。


重力を失い夜空に上昇したかと思うと、今度は地面すれすれまで急降下していき、再び上昇していく。そのまま円をかたどるように高速回転していくうちに、体の部位が捩じり取れる。

中には上昇と同時に天に投げ出され、そのまま地面に叩きつけられ、ぐしゃりと潰される者もいた。


タモトの正面に壁となって立ちふさがっていた人造人間兵は、高速回転しながら後方に吹き飛んでいく。

やがて回転が収まり、引き込まれていた人造人間だったものが地面に落ちていく。

金属片や半導体といった素材が飛び散ったものだ。もはや原形をとどめていなかった。


タモトが口から放ったのは空気の塊だ。

しかし、ただの空気ではない。イルカのセリアンスロープによって体の筋肉にため込んでいた莫大な酸素や二酸化炭素をバブルリングの要領で放出したのだ。


その際に加速器として、口輪筋や咬筋などの口周りの筋肉、果ては胸筋から腹筋に至るまで、息を吐き出すうえで必要な場所を最大限に活用する。


そうして放たれたエアーリングは一種の竜巻のように、空気の引力に触れたもの全てを巻き込んでいく。

その先に待ち受けるのは、10000回転/minで高速回転し続けるリングでの圧殺だ。


生身の体は血肉が裂け、三半規管の感覚が失われ、脳が液体となり鼻から漏れ出す。

当然、人造人間であっても一度この渦に巻き込まれれば、一巻の終わりだ。


それは、現状が物語っている。



タモトのセリアンスロープで帝国軍の一部に風穴があく。

その隙を逃すまいと、タモトとコールルイスは走り抜けるが、すぐにその穴は有り余るほどいる人造人間兵によって埋められる。


通り抜けられたのは軍隊長二人と数名の仲間のみ。

後ろからは、いよいよ本格的に戦いが始まったことを告げる戦闘音が響き渡る。

怒号が飛び交い、悲鳴、爆撃音がそこかしこで聞こえた。


しかし、コールルイスやタモトは振り返らない。

戻って加勢する、という考えは彼らの頭にない。


そもそも、サセッタは戦闘で勝利する必要などないのだ。


目指すは人造人間を完全にコントロールする統括管制室。クラッキングを行いヌチーカウニ―の人造人間を、支配するコマンドを送ればその時点で勝敗は決する。

背後で戦っている仲間たちは、それまでの時間稼ぎをすればいいのだ。


だが、時間が経てばたつほど、形勢が不利になっていくのは火を見るより明らかである。

いくら個の力が突出していようが、現在の二十倍近い兵力差を覆すことは難しい。


サセッタが相手取るのはそれだけでない。


さらに、城壁外で五か所に散らばり索敵していた帝国兵が、猛スピードで帰還しているのである。

あと十分もしないうちに、現在交戦している場所にたどり着くだろう。

前後から挟まれれば、サセッタの壊滅は免れないものとなる。


「時間がないよー、ルイスっち。できるだけ早くしないと。掻い潜ってこれたの私たちだけだし、この人数で何とかたどり着かないと」


「ごほっ、ごほっ……。分かってますよ。場所は既に把握済みですし、五分とかからないですから。ほら、エントランスを抜けて、ずっと行ったところにある通路の隠し―――」


そこまで言ったところで言葉が止まる。

否、そうせざるを得なかったのだ。


まさに、今ヌチーカウニー城の正面扉を突き破り、やけに広いエントランスに足を踏み入れた時だった。



「なんの場所を把握してるのかな。一つ俺にも教えておくれよ」



背筋が凍るような声で、二人の背後から何者かが耳元に囁く。

刹那に目に飛び込んできたのは、音をも置き去りにするように繰り出された貫手(ぬきて)

タモトは反射的に自らの足元に空圧波(エアー・クランプ)を放ち、それを推進力として距離を取る。


コールルイスもほぼ同じタイミングで上体を反らし、攻撃を躱す。

しかし―――


「遅いよ」


その言葉にコールルイスは目を見開く。

矢継ぎ早に繰り出されたもう一つの貫手が、既に自分の胸を貫いていた。


「がはッ……」


深紅の液体が地面に滴り花を咲かせる。


「串刺しレジスタンス一丁あがり、っと」


コールルイスの胸部に貫通させた腕を勢いよく引き抜く。

そのまま、刀に着いた血のりを落とすように、腕を血振りして余計な感触を取り除く。振り払われた血は、斑模様を直線状に描きながら地面を染め上げる。


体の中心にあった重心が、突如引き抜かれたコールルイスは、そのまま力なく膝から崩れ落ちる。


「ルイスっち!!」


タモトの声に強襲してきた男が目を向ける。


「いやあ、お前さん、あの至近距離から一気に五メートル近く離れるなんて、人間業じゃないでしょ。それが噂のセリアンスロープってやつかな」


「……六戦鬼(セクスセイン)、ホークゲン!」


片腕を深紅に染め上げ、何事もなかったかのように立ってる男こそ、双極帝国戦争を治めた六戦鬼(セクスセイン)の一人にしてヌチーカウニー帝国の守護者―――ホークゲンに他ならなかった。


眠たげな瞳の奥では獰猛的な光を宿す一方、どこか聡明さを漂わせている。


「おや、名前知っててくれたの。俺も有名になったもんだね」


白い歯を見せながら、はにかむ。


タモトの元に、共に移動していた部下たちが駆け寄る。


「タモトさん、どうしますか」


六戦鬼(セクスセイン)の相手は君たちじゃ務まらないよ。ここは()()()()()()()、先に行って」


その言葉に10人の部下たちは黙って頷く。


六戦鬼(セクスセイン)が化け物じみた戦闘力を有しているのは、大人ならば誰もが知る常識だ。

十年前に人類史上最多の死者数を出した双極帝国戦争を、たったの六人で終焉へと導いたことは記憶に新しい。


そこに一介のレジスタンスが、≪人類の叡智(カルタシス)≫を搭載する人造人間の頂点に戦おうとするなど、思い上がりも甚だしい。


そして、そんな六戦鬼(セクスセイン)に対抗すべく、ローシュタインによって選抜されたのが、サセッタが誇る七人の軍隊長なのである。

その軍隊長であるタモトが「任せろ」というのだから、それ以外に選択肢はない。


意を決した部下たちは、タモトの元から離れ、全員が同時にそれぞれ違う方向に走り出す。

行動範囲を絞らないことで、作戦を読みづらくさせると同時に、攻撃の的を集中させないようにする。何度も訓練で仕込んだパターンだ。


加えて今いる大理石で作られたエントランスは、収容人数1000人を超える広さである。

一度距離を取ってしまえば、六戦鬼(セクスセイン)といえども同時には手を出しづらくなる。


八方には二階へと続く階段が設計され、その下を通る通路は、一階各棟に繋がるメイン道。

六人が別々の階段を登り、残りの四人が下の通路を走る。


だが―――


「逃がすと思う?」


ホークゲンは不敵に笑う。

ポケットに手を突っ込んだかと思うと、取り出したのは親指程の石つぶて10個。


「分子構成、RESET―――原子より再構築開始。

構成終着領域(プロチェッソ・デ・リクレアチオーネ)Fe()を想定し、素粒子にELECTRON干渉を実行、――形状変性せよ」


真上に投げると、どこにでも転がっていそうな石つぶては、みるみる形を変えていく。

見た目だけではない。

性質そのもの―――存在そのものの構成を、別の在り方へと変えていく。

それはまさに錬金術と呼ぶにふさわしい。


宙に浮いた石つぶては、幅10cm・長さ1mにもなる鉄の針へと変わり果てる。

切っ先は大理石すらも貫通する凶器と化し、その矛先は散らばったレジスタンスへと向けられる。


「避け損ねると痛いよ」


乾いた音が立て続けに鳴り、大理石でできたエントランスに響き渡った。


その瞬間、鋭利に研ぎ澄まされた鉄塊が、風を切り裂きながら空中を走り抜ける。

死へと(いざな)う凶器は、次々と10の方向に散ったサセッタに襲い掛かる。


1つは心臓を貫き。

1つは脳天を弾けさせ。

1つは腹に穴をあけた。


中には攻撃に気付き、とっさに躱そうとするも、それが仇となる。

太腿を貫いた鉄が壁に突き刺さり、標本のように張りつけ状態にされる。


生き地獄とはまさにこのこと。

じわりじわりと流れ出る鮮血を前にし、成すすべなくただひたすらに激痛が体を駆け抜ける。

もがけばもがく程、鉄の針は体に食い込みさらなる痛みを引き起こす。


ホークゲンはその姿を遠目で見つめ、やれやれとばかりに肩をすくめる。


「だから言ったでしょうよ。避け損ねると痛いよって」


軽くため息をつき、10通りの攻撃先を改めて見直す。

二階に続く階段で四人、一階のメイン通路で二人が血の海で横たわっている。


「四人も逃がしちゃったか。実践なんて十年ぶりだから、やっぱりブランクがあるね」



刹那、ホークゲンは背後に気配を感じる。


エントランスに侵入してきたレジスタンスの場所は全て把握済みだ。

一切の見逃しもない。


五メートル先の正面にいる女。

散って行った十人のレジスタンス。内、六人は殺害済み。

生き残った四人の逃げた先は、全て視界に入っている。


エントランスに入ってきたのはこれだけだったか。


否。

一人いる。


侵入してきたと同時に、殺した男が―――。



ドス、と背後からの鈍い衝撃がホークゲンの体を揺らした。


「ごほっ、ごほっ。……油断したな、六戦鬼(セクスセイン)


ホークゲンの背後から、眼の下のクマを一層濃くしながら言ったのは、軍隊長のコールルイスであった。

手には短刀が握られ、その刀身は人造人間の核たる位置を捉えていた。


「……なんで生きてんの?」


「答える義務はない。核は潰した。じきにお前は―――」


そこまで言ったところで、言葉を止める。

ホークゲンが薄く笑っているのが目に入ったからだ。


その時、コールルイスはある違和感に気付く。

人造人間の核を貫いた感触が全くない。

確かに背後から不意を突いた一突きで終わったはずだ。


手に持った短刀に目を落とす。


そこには、ホークゲンの体を貫いたはずの刃が、途中でそぎ落とされたかのように綺麗になくなっていた。

代わりにあるのは、消えずに残っていた刀身から、砂時計のようにきめ細かい砂が下に落ちていく理を外れた光景。


刀身は正確に言うと無くなったのではない。

変えさせられたのだ。

錬金術よろしく、刃そのものを異なる物質に変換させる人智を超えた能力で。


これこそがホークゲンの≪人類の叡智(カルタシス)≫ ―――『可異転生(デミウルゴス)』。

肌に触れた万物を任意の物質・形状に創り変える。

それは時として理を崩し、神の領域すら侵しかねない技術結晶だった。



「くッ……!!」


コールルイスはすぐさま距離を取ろうとする。

しかし―――


「だから遅いよ」


左足を軸足として、振り向きざまに放たれたのは上段蹴り。

さらに、履いているブーツを『可異転生(デミウルゴス)』によって、一部をギロチンへと創り変える。


今度こそ死を確約されたことを告げる鈍い斬撃音と共に、大理石の上にコールルイスの頭部がボールのように一回弾んだ。


「ふう、流石にこれは死んだでしょ」


地面には頭と胴体を切り離されたコールルイスの死体が、力なく横たわる。


やれやれとばかりに肩を鳴らすと、ふと視界にあるものが入る。


「……どういうことだ」


眉間にしわを寄せながら見つめるその先にあるのは、最初に胸を貫いて殺したコールルイスの死体だった。

思考が混乱する。


では、今首を落としたのは―――。



ホークゲンが気付いた時には既に手遅れだった。


地面に転がっていた頭部と胴体の切断面の肉塊がうごめいたかと思うと、そこからズルリと組織が再生する。

すなわち、切り離された部位がどちらも復元し、二人のコールルイスが異なる意識の元、新たに生命活動を開始したのだ。


「まじかよッ!」


想定外の出来事に六戦鬼(セクスセイン)の対応がおくれる。


再び意識を宿した片方のコールルイスに、足払いをされ体勢を崩す。

そのまま胸元を掴まれ体が前のめりになったところで、両足の裏で上空に蹴り上げられる。


宙に舞い、視界が上下感覚を狂わせる。

そんな中で、瞬間的に目に映ったのは二人目のコールルイスだった。

まるでそこにホークゲンが飛んでくるのを予測していたかのように、ドンピシャに飛び蹴りで狙われていた。


「させるかよっと」


体勢が整わない空中でホークゲンが繰り出したのは、またしても『可異転生(デミウルゴス)』。

手をコールルイスに向ける。


「血液をTiC(炭化チタン)へ」


当然、人造人間のホークゲンに血液などない。

それは先ほど一人目のコールルイスと組み合った時に、手のひらに付着したものだ。


血液は瞬時にその在り方を変え、分子構成をTiC(炭化チタン)へと再創造される。

それだけでは終わらない。

小粒だったTiC(炭化チタン)は、宙に浮く二人の間に厚い壁となって展開される。

鈍色の壁の表面からは、長さ2mにもなる巨大な針が無数に出現していた。


突如として現れた針の巣を前に、飛び蹴りをかまそうとしていたコールルイスに成す術は無い。

慣性に逆らうことは許されず、自ら針に飛び込む結果となる。


行きつく先は文字通り針の筵。

瞬く間に百をも超える紅い風穴が体にあく。


だが、ホークゲンは二人のコールルイスによる攻撃の対応をしていたせいで、背後から迫りくるもう一つの影に気付いていなかった。


「私もいるの忘れないでよね!!」


重力に従い落下しているところに現れたのはタモトだった。地面を蹴り上げ宙に飛ぶと、ホークゲンのどてっぱらを殴りつける。

しかし、鍛え上げられた女性とはいえ、見た目は華奢そのもの。ノーガードでその拳が入ったところで、どれほどのダメージがあろうか。

一見して何の変哲もない時が流れる。


だが、タモトは不敵に笑う。

彼女の放った拳はただの攻撃ではない。

そして彼女もまた、ただの人ではない。セリアンスロープだ。


能力により発動させた、きりもみ状に流れる空圧波(エアー・クランプ)が拳を纏い、衝撃を数十倍にまで引き上げる。

その威力たるや、想像を絶するものだ。


エントランスの中央で繰り広げられていた戦闘場所から、ホークゲンが弾丸のように吹き飛ばされ、30m先にある大理石の壁に激突する。

轟音と共に壁は崩れ落ち、砂塵が舞い上がる。


タモトは地面に着地してそれを見届けた後、コールルイスに親指を立てる。


「ナイス死んだふり、ルイスっち!」


「いや、実際3回死んでますから……。フリではないですよ」


ゆっくりと立ち上がりながら自らの死体を指さす。


胸を貫かれて横たわる自分。

串刺しになった自分。


コールルイスはそれらを感情無く見つめる。


「まあ、自分が死んだ姿は飽きる程見てますけど、やっぱり慣れないですね」


「レアだもんねー」


「……タモトさんってたまに無神経になりますよね」


「えっ? なにが?」


タモトのきょとんとした顔に、コールルイスは溜息をつく。

この人と一緒にいるのは疲れる。

踵を返して歩き始めた。


「何でもないです。早く統括管制室に行きましょう」


「えー! なによー、なんか私変なこと言ったー!?」


タモトが必要以上に大声を上げて後を追う。



その時だった。



「なるほど。その統括管制室とやらがサセッタの一発逆転の切り札ってわけだ」



壁の崩壊によって立ち込めた砂埃の中から低い声が響く。

タモトとコールルイスが振り向いた瞬間、砂漠色の霧の向こうから、切っ先が研ぎ澄まされた無数の鉄針が群星の如く飛来する。


避ける隙間などどこにもない。


それを前にして、タモトは臆することなく一歩前に足を踏み出す。

息を限界まで吸い込むと、それを一気に放出させる。


エントランス侵入前に敵陣に穴をあけて見せたエアーリングだ。

突風が起こったかと思うと、飛んできた全ての鉄針の慣性を相殺させる。

勢いを失った凶器は、カランと次々と乾いた音を立てて地面に落ちる。


その物体は一瞬のうちに、六人のレジスタンスを串刺しにしたものと同一の武器であった。


そしてそれが崩れた壁の方から飛んできたとなれば、導き出される答えは一つ。


「詳しく話を聞かせてもらわないとね。その統括管制室についてさ」


はたして砂埃から影を濃くして姿を現したのは、六戦鬼(セクスセイン)ホークゲンだった。

タモトから攻撃を受けた腹部は、タンクトップこそ弾けたように破れているが、外傷は何一つ負っているように見えない。


「さあ、少しだけ力を解放しようか。全力だとお前さんたちが死んじゃうからね」


ホークゲンは不気味に笑ってそう言った。




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