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五十話 三つの障害




土の壁で覆われた人ひとりがようやく通れるトンネルを、ひたすら歩み続けること五分。先頭を行くデヒダイトがようやく足を止める。後ろを振り返り隊員を確認する。


 シオン、ラウン、カルーノ、ジョン、全員口元に小型の酸素ボンベをつけ緊張の面持ちを露わにしていた。

 唯一、シオンだけは違う意味での張り詰めた表情をしているのがデヒダイトには分かった。彼がなぜそのような顔色を浮かべているのかは、なんとなく察していた。


 班決めの際に、彼は頑としてアイネとノイアの二人と一緒にいたいと言ってきたのだ。デヒダイトは、シオンが二人を大切にしていることを痛いほどよく理解していた。


 しかし、情だけで組織の土台を崩すわけにはいかない。最終的にシオン一人よりも、他の隊員が複数人側にいる方が安全だということで説得したが、不満げな表情は消えていなかった。


 故の今の顔つきなのだろう。

 しかし、デヒダイトは言葉をかけることなく片耳に付けているインカムに手を伸ばす。


「こちら、A班デヒダイト。クロテオード、配置についたか?」


 所定の位置に着いた後、デヒダイトは通信感度を兼ねた確認を開始した。一瞬の砂嵐音のあと、応答が返ってくる。


『こちらB班班長のクロテオード、感度良好だ。ポイントにて待機中』


 暗闇の中、副隊長のクロテオードが応答する。後ろから班員の緊張している声が聞こえる。B班にいるのは、クロテオード、アイネ、ブロガント、ルナ、ランプの五人だ。


 続いて、C班のガルネゼーアからの返答が返ってくる。


『私の方も問題ないよ。ただ、こっちには一人うるさいのがいて困るんだけど』


 通話越しに『そんな目で僕を見ないでくれよ~』と、相変わらず軽薄な口調で喋るアスシランの声が聞こえる。C班にいるのは、ガルネゼーア、ノイア、アスシランの三人だ。


本来なら、A班・B班の2つのみの編成であったが、突入一時間前にローシュタインの指示によって、C班が加わり今回の編成が成された。


 全員の確認が取れたところで、いよいよデヒダイトは本題に入る。


「残り五分前後で突入開始だ。念のため、最後にもう一度ミッションを確認するぞ。先兵特化部隊である俺たちの任務は、ヌチーカウニ―帝国を取り囲む城壁の動力炉機能停止、および予備電力部の回線断絶だ」


 ヌチーカウニ―帝国は国土の中心に行政機関―――シオンが地上で見た城にも似た巨大な建造物のことなのだが、そこに人造人間(レプリオン)を管理することができる管制室が存在する。


 本来ならば、闇に紛れ一気に強襲をかけ制圧したいのだが、サセッタにはそこに至るまでに三つの障害が存在した。


 その一つ目の障害が、国土全域を囲っている城壁である。


 城壁からは、帝国全体をドーム状で覆うように張り巡らされている不可視センサーが出力されている。

そのセンサーにわずかでも引っかかれば、自動索敵迎撃(ホーミング)システムにより確認した対象が消滅するまで、無限に攻撃が行われる。同時に、内部に侵入できないよう、普段は地下に収納してある対戦車用シェルターが出現し広大な帝国全土を覆い尽くす。

その表層には1,000万Vを上回る超高圧電流が流れ、触れた瞬間に焼き焦げる仕組みになっている。

また、シェルターが覆いきれない上空には高エネルギー膜が展開し、空からの侵入や空爆から帝国領域を守護するようになっている。


シェルターが起動すれば最後、サセッタが外部より攻略する術は無い。核弾頭に匹敵する威力を持つ爆弾でも使用しないことには、傷ひとつつけられない。



すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



まさに難攻不落の要塞。馬鹿正直に城壁を超えて侵入をするのは、実質不可能であった。


しかし、どんなものにも必ず死角がある。

ローシュタインが目を付けたのは地面の下であった。事前の調査から、厄介な不可視のセンサーは地下にまでは張り巡らされていないことが分かっていた。


地下には50mを超えるシェルターが格納されているが、そのさらに下をくぐり、城壁を管理している電力発電部に侵入し動力炉を止めることで、彼は第一の障害を無効化する手を打った。


その、まさに今回の第一帝国戦(ファーストエディション)における肝たる任務を遂行するのが、先兵特化部隊デヒダイト隊だった。


「俺たちが成功させなければ、この後に控えている総攻撃の準備が藻屑の泡と化す。全員、気を引き締めていくぞ」


電力供給所は東西の正反対に一か所ずつ。東はデヒダイト率いるA班が、西はクロテオード率いるB班が制圧する手はずだ。


C班は人気の少ない帝国内部の陰から侵入し、敵の動向を随時、各隊長と総隊長のローシュタインに報告することになっていた。


サセッタは支援活動をする一方で、三か月をかけて、地中で生活を営むモデル生物を持つセリアンスロープを動員し、地下50mを超える侵入経路を完成させていた。


だが、当然のように地上と比べ酸素が少なく、装備なしでは五分もしないうちに肺が圧迫され意識が遠のくだろう。その先に待ち受けるのは、死だ。


シオンたちが対策として口元についているのは小型酸素ボンベだ。

呼吸と共に鳴る機械音は、周囲の岩のようにかたい壁に吸い込まれていく。暗闇は暗視コンタクトによってはっきりと周囲を視認できている。


時計の指針にも似た音がインカムから流れ、刻一刻と事が差し迫っていることを告げる。

悠久の時がこのまま流れ続けるのではないだろうか。体感したことのないほどの長い時間が流れる空間に、誰しもが鼓動の速さと外界との時の乖離を感じた時だった。



遂に、インカムから作戦開始時刻を告げる機械音が鳴った。

それに合わせるように、デヒダイトが吠えた。


「総員、作戦開始!!」







サセッタの第一帝国戦(ファーストエディション)作戦本部として設けられたのは、ヌチーカウニ―帝国から5km離れた町にある、今は廃墟となったデパートだ。屋上からは帝国が見渡せ、外部から状況を把握することができる。


常闇の中に白く咲く、一輪の花のような満月に照らし出される壮年の男がいた。

サセッタの創設者であり、現総隊長を務める男―――ローシュタインである。歳の衰えを感じさせない鋭く光った双眸は、ヌチーカウニ―帝国を真っすぐとらえていた。


「作戦開始時刻になりましたネ。デヒダイト達はうまくやるでショウカ」


彼の隣でそう言ったのは、同じように帝国を見つめる軍隊長の一人、コェヴィアンだった。普段は能面のように表情の変わらない彼女も、今日ばかりは顔が強張っているのが一目でわかる。


「……不安なのかい?」


「えぇ、流石に人数が少なすぎるかト……。例え制圧して動力部を停止させたとしても、異変に気付いた人造人間(レプリオン)兵が駆け付けるデショウ。そうなったらひとたまりもない気ガ……」


「彼らは白兵戦に特化した部隊だ。実際、シミュレーションで行った模擬戦で、彼らの失敗は一度としてなかっただろう? 彼らは必ず遂行する。むしろ私が気にしているのは、どれだけ城壁の機能を停止させてられるかだ」


「確かシミュレーションでは10分前後でしたネ。それが彼らが生還を前提とした、援軍を押しとどめられる限界時間(タイムリミット)


彼女の言葉にローシュタインが頷き、表情をより一層険しくさせる。


「―――問題は内通者だ。そいつがどこまで情報を伝達しているか。根幹となる動力炉制圧の作戦だけは全員が知っているからな」


「なるほド。予め想定している警備人数が大幅に違うかもしれない、ということですカ。……その場合、敵も迎撃態勢が整ってますから、援軍の到着も早くなりそうですネ」


「地下通路はサセッタの中でも極秘で行ってきたため、現状あそこを知っているのは、私と直属の部下たち、そして君とデヒダイト隊だけだ。建物の中へ直通だから、意表を突くことは十分可能とはいえ、制圧するのには時間がかかるだろう。そして、城壁機能停止時間も大幅に短くなるだろうな。長く見積もって五分、といったところだろう」


「……本来の半分以下の時間デスネ」


コェヴィアンの声が硬くなる。


シミュレーションでは、デヒダイト隊が援軍相手に持ちこたえられる時間は10分。

それ以上は大幅に生還できる確率が落ち込んでしまうという結果を、模擬戦からサセッタの保有する人工知能≪Phantom-ereaM≫が算出した。


その条件の下で行われた第一帝国戦(ファーストエディション)の模擬戦が成功確率80%だ。


内通者によって情報が洩れ、警備が堅くなり援軍の準備が整っているとしたら、当然、動力炉を止めておく時間も短くなる。


デヒダイト達の占領時間が短くなれば、最悪、総攻撃のために待機させている本部隊全部が入り込むことができない可能性も出てくる。

そうなれば、第一帝国戦(ファーストエディション)の攻略成功確率が大幅に落ちることは、火を見るよりも明らかである。


内通者―――これこそが、サセッタの抱える第二の障害であった。



やがて、ローシュタインが踵を返し満月に背を向ける。


「時間がどうだろうと、やるしかないんだよ。それらに対策を立てるために時間を浪費しても、資源も人数もはるかに上回る敵がより十全な体制を整えてしまう。今、ただ私たちにできることは、デヒダイト達が動力源を抑えたという報告を待ちながら、突入待機することだけだ。……さて、そろそろ君も準備をしてくれ。真の作戦の指示はタイミングを見計らって出す」


そう言い残すと、白衣をはためかせながら、ポケットに両手を入れたまま屋上から姿を消していった。サセッタのコートを夜風になびかせ、コェヴィアンは一言、「承知しましタ」とつぶやいた。






ヌチーカウニ―帝国の中枢を担う城内。

金で染め上げた装飾に、気が遠くなるほど高い天井からつりさげられた豪勢なシャンデリアの数々。床にはレッドカーペットが敷かれ、その脇には騎士の鎧を身に着けた人造人間(レプリオン)兵が立ち並ぶ。

現実離れした圧巻のオーナメントは、さながら、おとぎ話に出てくる城の内装を連想させた。


ホコリひとつない赤いカーペットの先には、これまた派手な装飾によってこしらえられた王座があり、そこにはヌチーカウニ―の帝国王が鎮座していた。


鼻から延びた黒い髭は、もみあげとつながり口元を覆い隠し、豚のように肥え太った姿は、この世の快と悦を貪った成れ果ての姿に相違なかった。


「それで、本当にくるの? ロリータだか、サンタだか知らんが、問題のレジスタンス集団は」


 帝国王が丸い指を鳴らしながら、目の前のかしずく男に、贅肉で圧迫された細い目を向ける。立体映像(ホログラム)で投影されたその男は、頭を垂れたままピクリとも動かない。


「敵さんの名前はサセッタだって、王サマ。ロリコンは自分のことでしょ」


そう訂正したのは、王座の隣に唯一立つことが許されている六戦鬼(セクスセイン)―――ホークゲンだった。

白いタンクトップとゆとりのあるズボンという簡素な出で立ちだが、彼こそがヌチーカウニ―帝国の絶対的守護者として君臨する男だ。


六戦鬼(セクスセイン)は四つの帝国にそれぞれ守護者として点在し、いざその国に危機が訪れた際にいかんなくその実力を行使する。≪人類の叡智(カルタシス)≫によって双極帝国戦争の戦況をひっくり返したという、折り紙付きの強さは圧巻そのものだろう。


彼こそサセッタが第一帝国戦(ファーストエディション)に臨むにおいて、最も警戒しなければならない重要人物であり、同時に強大な敵でもある。


すなわち、レジスタンスの第三の障害となりうる要因は、ヌチーカウニ―帝国が誇る六戦鬼(セクスセイン)―――ホークゲンに他ならない。

彼を倒さなければ統括管制室でのクラッキングの邪魔をされる恐れがあるどころか、制圧に時間がかかり、他帝国から援軍が来る可能性が出てる。そうなれば、サセッタの全滅は免れない。



その守護者たる六戦鬼(セクスセイン)の不躾な物言いに、ヌチーカウニ―帝国王は片側の口角を痙攣させる。


「ホークゲン、ちみ相変わらず朕のこと馬鹿にするよね。今度こそ処すよ?」


帝国王の舌足らずで『君』という言葉が、『ちみ』と聞こえるのは、彼にはもはや慣れたものだった。


「そんなことないってば。いつも尊敬してるじゃない、王サマのいけず~」


「あー、もう処す! 絶対処すから!」


 常にやる気のなさげな六戦鬼(セクスセイン)に、唾を散らしながら苛立ちを隠すことなく喚く。荒唐無稽な帝国王の暴言は毎度のことではあるが、やれやれといった感じでホークゲンは無精ひげをなでる。


「そんなことより、ホラ。お客さんがさっきからずっと、かしこまったままじゃない。せっかくサセッタの情報を持ってきてくれたのにさ。とりあえず話しようよ」


ホークゲンが流し目で、かしずいている男に視線を向ける。立体映像(ホログラム)による投影越しでもハッキリと分かる、太陽のように明るい髪の毛が特徴の青年だった。


 この青年がコンタクトを求めてきたのは今日のお昼過ぎ。ちょうど帝国王が三時のおやつを食べようとしていた時だった。


『サセッタが今夜、いよいよ動き出します。最初の標的はヌチーカウニ―帝国です』

 

 その一報が入り、帝国王は対応に追われる羽目になり、おやつを食べる時間を失った。


 まずは最初に攻め込まれる場所であるという、城壁の電力機能管理施設に通常の10倍ほどの人数を。そして、城壁外に警備兵を通常の5倍、城内に20倍の人員を動員し、その数およそ50万に届くと考えられる。

単純計算でサセッタの50倍の戦力である。


 おかげで休むことなく働かされてた帝国王は、太陽が沈んでからもずっと機嫌が悪かった。

 ホークゲンに促され、ようやく立体映像(ホログラム)で謁見に伺った青年に目を向ける。


「で、お昼から色々と対応に追われたけど、来なかったらどう責任取るの、ちみは。えーっと、名前なんだったかな。ドセロイン帝国の……バ、バ、……バームクーヘン君」


「バーキロン君だよ、王サマ。バームクーヘンはお昼に食べたでしょうよ」


「食べれなかったわ! まさしく! 目の前の! こやつのせいで! 朕はバームクーヘンを食べ損ねたのだ!」


忌々しさを前面に押し出した口調で、バーキロンとホークゲンに言葉を吐き捨てる。


「ふん! まあよい! もし攻めてこなかった時の責任は、ドセロイン帝国に貸しという形でとってもらう。それで、奴らはどうやって侵入してくるというのだ? 要塞と言われる朕の帝国に、入り込む隙は無いと思うのだが?」


 バーキロンは、かしずいたまま面を上げずに問いに答える。


「恐れながら申し上げます。レジスタンスに潜り込ませている諜報員からは、残念ながら侵入経路の情報は得られませんでした。しかし、敵の手の内は把握しています。改めてお話しさせていただいてもよろしいですか」


 帝国王は豚鼻を鳴らしながら、「かまわぬ、申してみよ」と言った。


「敵はまず、ヌチーカウニ―帝国が誇る絶対防御壁の動力を停止させるべく、発電所の制圧を行います。機能を停止させると同時に、城壁を乗り越え、一挙にこの城に向けて包囲するように総攻撃を仕掛けてくるとのことでした」


「ふん、そのことはもう昼に聞いた。朕はもっとほかの情報を期待しているんだ」


 バーキロンは返答に窮す。彼の持ちうる情報は今話した事が全てであり、それ以上のものは無かった。さすがに夜になるころには情報の一つや二つ増えるだろうと、たかをくくっていたが、何度催眠で操ろうとも返ってくる返事は同じものだった。


 地面を見つめながら唇を一文字に結ぶ。


 最も知りたい侵入経路の情報が無いのは大きな痛手だった。制圧個所とレジスタンスの動向を掴んで浮かれていて、功を急ぐあまり重要な情報が盲点になっていたのだ。



 しかし、そんな彼にも一つ隠していることがあった。


 人造人間(レプリオン)の完全制御装置についてだ。

内通者から送られてきた今まで聞いたことのなかった言葉に、最初は戸惑いを隠しきれなかった。


もし、それが本当であるならば全世界を騒がすほどの、トップシークレット情報だ。


 確かにそれが真実ならば、圧倒的な人数差による戦力をひっくり返すことが可能だ。

少なくとも、個の戦闘力ではサセッタが上回ることはアダルット地区やサーモルシティーで確認済みである。


であれば、秘密裏に併設されている統括管制室のコンピューターをクラッキングするまでの時間を稼げば、その時点でサセッタの勝利ということになる。


 だが、それを進言する度胸はバーキロンには無かった。心のどこかで嘘であってほしいと願っている自分がいたからだ。

 しかし、それが作戦の要になっている以上、人造人間(レプリオン)完全制御装置の存在は裏付けられているようなものだった。



そうこうしてるうちに、目の前のヌチーカウニー帝国王の苛立ちが、時間が経つごとに増していくのが分かった。


 バーキロンが意を決して、隠していた情報を話そうとした時だった。

 勢いよく背後の扉が開き、一人の騎士の格好をした人造人間(レプリオン)兵が入ってくる。


「何事!? いきなり入ってくるなよ! びっくりするだろ!」


 王座に縮こまるように身を丸めながら、王が吠えた。


「申し上げます! 地下60m付近にセンサーにかかった生命反応を確認しました! 進行方向からして、東西にある電力機能管理施設に向かっていると思われます!」


「おぉ! でかした!! ……ん? でもなんで地下にセンサー張ってるの? 朕、そんな指示出してないよね」


「あー、それ俺がやっといたよ、王サマ」


 そう言ったのはホークゲンだった。

先ほどまでのやる気のない眠たげな声とは打って変わって、鷹揚な物言いだ。


「敵さんだってアホじゃないんだから、ウチの城壁の機能ぐらいご存じのはずだ。まず間違いなく正面切って突っ込んでこないよ。命がいくつあっても足りないでしょうよ。加えて、ウチの帝国周辺には水辺や河川といった類の物がない。だから、超高性能の蒸留システムと循環機能が他国と比べて異様に発達していて、全ての物事が自国内で完結できるのは赤子でも知ってる。そんなもんだから、侵入経路になりそうな外部に通じている排水路やダクトなんてものは存在しない」


「そんなもん言われんでも分かっとるわ! 朕を誰だと思ってる!」


「まーまー、王サマ。話は最後まで聞いてよ」。ホークゲンは笑いながら王座にもたれかかる。


「八方ふさがりだけど、敵さんは何としてもウチを落としたい。となれば、いよいよもって侵入経路が絞られてくるわけだ。上空も地上もだめ、ならもう地下しかないでしょ。地下には50mのシェルターが格納されてて行く手を阻むけど、それ以上深く掘り進めたらどうだろう。シェルターさえ超えれば、あとは電力機能管理施設にまっしぐらって寸法がとれる」


 そこに今までのやり取りを聞いていたバーキロンが割って入る。


「で、ですが、50m以上もの穴を掘り続けて電力施設につなげること自体、普通に考えて準備だけでも相当時間がかかるはずです。ましてや、人数の少ない組織で掘り続けるなんて……」


「いや、だって敵さんセリアンスロープなんでしょ? バーキロン君、君がわざわざアダルット地区で小型偵察機を使って撮った映像の上映会で、敵さんはいろんな動物の力を使うって結論にならなかったっけ? だったら、なんか穴掘る動物の能力使えば、効率よくできるんじゃないの? 知らんけど」


 そう言うと、バーキロンを一瞥する。


「そうやって舐めてかかってるから、いつもドセロイン帝国は後手後手に回るんだよ。……まー、ボリスがトップだから当然っちゃ当然なのかもしれないけどさ」


 同じく六戦鬼(セクスセイン)であるドセロイン帝国の守護者に対して、随分とそっけない言い方だった。


「侵入してくるとしたら地下以外にない。そう踏んで、バーキロン君が教えてくれた作戦開始時刻の30分くらい前に、地面の下に不可視センサーを展開させておいたんだ」


 その言葉に側にいたヌチーカウニ―の帝国王は、口をあんぐり開ける。


「お、おまっ……! センサーって、不可視センサーのこと!? しかもそれを地面の下って、アホかー!! そ、それじゃあさっきまで、朕の国って……」


 驚愕の事実に続きの言葉が出てこない。餌を求める金魚のように口をパクパクさせる。

 その姿を見て、ホークゲンはやれやれとばかりに肩をすくめる。


「ご想像通り、この30分間、ウチの帝国は要塞もへったくれもないただの城だったってこと。城壁を乗り越えられても不可視センサーは地下に展開してるから、自動索敵迎撃(ホーミング)システムも対戦車用高圧電流シェルターも高エネルギー膜も、自動では起動しない状態だったよ」


「馬鹿かーーー!! 貴様バカだろ!! 処す!! 絶対この戦いが終わったら処すからな!!」


耳をつんざくような大声量で、これまでにないほどの唾をまき散らす。

しかし、ホークゲンはどこ吹く風。余裕の表情を浮かべたまま、王座の傍を離れる。


「大丈夫だよ、王サマ。まあ見てなよ。作戦ってのは、大胆に相手の裏をかいた方が勝つんだ」


そう言うと、白い歯を見せ不敵に笑った。





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