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三十一話 課せられた使命




大型のハイジェットに揺られながら、コバルトは歯をむき出したまま目を閉じていた。向かう先はサーモルシティー。そこにサセッタが来ると、潜り込ませているスパイの情報により動向を把握していたからである。


しからば、戦闘になることは必然。そのための瞑想。

コバルトは今一度、自身の心を見つめなおしていた。


現状、率いている人造人間(レプリオン)兵は7000人、アダルット地区でのカース率いた出兵数の比ではない。しかし、あくまでも偵察という目的のための派遣であったため、出兵人数に規制がかかってしまった。たかだか偵察のために7000も動員する必要があるのかと訝しまれたが、そこは六戦鬼(セクスセイン)の特権で譲歩された。


対してサセッタ陣営の人数は当初より大幅に減って800~1000人。救難活動には少し多すぎるような数字ではあるが、サーモルシティーという地区の規模を考えれば納得のいくものだ。



―――この人数差なら圧勝でしょうねぇ……。



コバルトは内心ほくそ笑んでいた。

戦闘に関してはなんら杞憂はない。万が一、敗北したとしてもここまで秘匿してきたサセッタの情報、すなわち本拠地の座標をこの戦いでつかんだとしてそれを開示すれば、ドセロイン帝国にとってはお釣りがくるほどの戦果である。


懸念することがあるとするならば、とコバルトは一人の青年の顔を思い浮かべる。



―――バーキロンさん、彼がこの戦いに来てくれるでしょうか。一応、軽い暗示はかけておきましたけども。



彼がここまでバーキロンに執着するのには理由があった。

コバルトと同じ六戦鬼(セクスセイン)の一人、同じドセロイン帝国の守護者として身を置くボリスの存在だ。

ドセロイン帝国では、現在ほとんどの実権をボリスが握っているといっても過言ではない状態にある。同じ六戦鬼(セクスセイン)であるにもかかわらず権力に差がついてしまったのは、ひとえにボリスとコバルトの戦闘スタイルによる差であった。


集団を催眠下に置き圧倒的統率力で敵を制圧するコバルト。

重力を駆使し、百人単位で圧殺を可能にするボリス。


どちらが素人目に見てインパクトがあるか明らかであった。

戦場でこそ統率力というのは勝敗を左右するほど重要なものであるにも関わらず、上層部はボリスの、≪人類の叡智(カルタシス)≫の方が重要であると位置づけていた。


そのため、公のドセロイン帝国としての指示は、実質ボリスの権力行使によるもので、民からの血税もほとんどが彼の懐に入っているのが現状であった。



コバルトとしては、別に市民がどれだけ搾取され苦しんでようと、内政がどうなろうと特段興味を示す男ではない。彼の興味は信仰と研究、ただそれだけであった。


しかし、ボリスが徐々に権力を拡大するようになってからは、支給される研究費が従来の半分以下にまで削減されてしまった。


これには流石のコバルトも上層部に訴えかけた。しかし、予想以上にボリスの手は内部まで伸びており、帝国王すらもすでに手中に収めていた。コバルトが彼らを催眠下に置くのは容易な話ではあったが、すぐさまボリスによって代わりの人が用意されるだろう。


それならば、とコバルトはボリスに直接、≪人類の叡智(カルタシス)≫による支配を試みようと思い立つも、彼には一切の隙が無かった。


目を合わせるだけ、肌に触れるだけ、20秒話しかけるだけ、そのどれかだけで事足りるのだが、どれも施行させてはもらえなかった。まるでこちらの思惑を完全に見透かされているようだった。



ボリスに催眠をかけることを断念したコバルトは、複数いる彼の直属の部下の大失態による失脚をもくろんだ。最初に目を付けたのは人一倍強欲なカースだった。結局失脚にまでは至らなかったものの、信頼を揺るがすことには成功した。


しかし、まだ足りない。


そして次に目を付けたのが、バーキロンであった。

彼は焦っている。何かを成し遂げようと必死になりすぎるあまり足元が疎かになっている。そういった人間は御しやすい、催眠を使うまでもない。



―――彼が待機命令を無視してきてくれれば二度目の失態。もはやボリスが政権に口出しすることは無いでしょう。



コバルトは緩やかに目を開ける。

その視線の先にはサーモルシティーの建造物が遠く建ち並んでいた。









「ひどいな、これは」


三本の黒いストライプが入っている白いコートを纏ったデヒダイト隊。耳には常に連絡が付くよう小型のインカムをつけている。サーモルシティーに着くや、早々に彼らを襲ったのは強烈な死臭だった。


HKVが流行してからはや10年。今が潜伏期間が終わるピークなのだろか、過去類を見ないほどに世界は感染による死を観測していた。中でも悲惨なのが、人造人間(レプリオン)になることを許されない敗戦国。ここ数か月、ほとんどの街ではインフラが停止し人としての営みが保てなくなっている。


以前まではサセッタが救難活動に駆け付けた際には、まだ人々に若干の冷静さを保った人間がいた。発病した“人だったもの”を埋葬したり、物質を届けにきたサセッタに対し感謝の言葉を述べるなど、人としての矜持をギリギリのとこで保っていた。


しかし、今は違う。


街には遺伝子から変異を受け、一瞬のうちに人としての機能を失わせ、原形をとどめないほどの寄形になった死体が転がっている。それを誰も埋めようとも端に寄せようともしない。道には酒やクスリにおぼれた大人であふれかえり、女子供は暴力の対象となっていた。これはサーモルシティーに限った話ではなかった。



訪れたサセッタに対しても食べ物や飲み物を強奪するかのように奪いとり、挙句の果てには唾を飛ばしながらこう叫ぶ。



「あぁ!? 救世主気取りかよ!? なんだその眼はよぉ!! お前らは死なねえだろうが、俺たちは死と隣り合わせなんだよ!!」



そして最も重要であり数に限りがある『神雫(ティアー)』。サセッタでは子供を優先的にその接種対象にしている。しかし、そのことを伝えると必ずと言っていいほど大人たちの暴動がおこる。


それを抑えるのもサセッタの使命であった。




現場に着いたデヒダイト隊はあらかじめ決めてあった通り三つの班に分かれた。


A班―――ガルネゼーア、ルナ、アイネ、ランプ、ラウンの五人。


彼女たちは着くと同時に、仮拠点施設となっている場所に向かった。使命は暴動の鎮静化および抑圧・整頓。


仮拠点にはサセッタが来ていると噂を聞きつけ、生き残っている町中の人間が集まっているのではないかと思うほどに人が溢れかえり、罵詈雑言が飛び交っている。


先に着いて準備していた血色盛んなエクヒリッチ隊ですらも後手に回っている状況だった。


アイネは仮拠点に溢れかえる人々に対し、精一杯声を張り上げて落ち着くように求める。


「お願いです!! みなさん落ち着いてください! しっかりと人数分の『神雫(ティアー)』はありますから、どうかまず適性検査から―――」


「うるっせぇ!! ガキは引っ込んでろ!!」


理性を無くした大人たちから心無い言葉を浴びせられる。アイネは最初のころは何度も涙していたが、経験するにつれ自分の心が麻痺しているのか、それとも慣れてしまったのか、感傷に浸るようなことは無くなった。とはいっても、何とも言えない心を締め付けるような感覚だけは未だに慣れていなかった。


諦めずにアイネは叫ぶ。



「そこの方! しっかり並んでください! 順番はしっかり―――」


「っるせえ!」


言葉と共にアイネに浴びせられたのは拳だった。見事にアイネの顔面に入ると、血が飛び散る。鼻から一筋の血が垂れる。


「へへっ、ナマ言いやがるからだぜ」


男はそう言うと人混みが作る行列の中に姿を消す。

アイネは今までに自分に向けられた拳や蹴りは30を超えてから数えていなかった。


人間、堕ちるとこまで堕ちるとこうも醜くなってしまうことに、サセッタに入ってからまざまざと実感させられた。他人を蹴落とし、生き延び、人としての心を忘れる。果たしてそれで命を取り留めたとして、その人は幸せなのだろうか。


そう思うほどアイネはやりきれなくなる。

同時にやはり。HKVを人造人間(レプリオン)生産のためだけにばら撒いたマセライ帝国を、何としても倒さなければならないと、アイネは己の心と右腕に巻いた紅い布に誓った。






B班―――クロテオード、ノイア、ジョン、ブロガンド、カルーノの五人。


彼らの使命は死体処理および衛生管理。

まず街に転がっていた奇形死体を複数個所にまとめ、街から運び出し火葬を行う。

とはいっても、火葬というほど整えられた設備ではなく、サーモルシティーから数キロ離れた土地に溝を掘って薪木や石・土器でそこを覆い簡易的な火葬場をしつらえている。

その中に運び込んだ死体を入れ、火を放つという単純なものだった。


あらかじめエクヒリッチ隊が用意していた仮火葬場に向け、この一連の流れを行う。これは想像以上に体力を使う仕事であり、存外、意識のない人間の体を運ぶというのはゴム肉の塊を運んでいるようなものでかなり重いのだ。また、死体を間近でみて、生きているかを見極めなければならない。それなりの忍耐力・精神力も要した。




ノイアはサーモルシティーで死体を引きずりながら汗を流していた。自身の白い肌とは対照的に、黒くくすんだ肌に変色した死体を内心気味悪く思う。最初見たときは何度も吐き、夢にも出てきたものだった。今はそんなことは無いのだが、しかし、こればかりは何度やっても、何度見ても、ノイアを慣れさせることは無かった。


ジョンが遠くから叫ぶ。


「ノイアくーん! そっちの状況はどうなってるー?」


「この人で最後です! 僕の担当範囲は終わりです! あとは消毒巻くだけになりました!」


「了解! もうすぐ搬入車くるから少し急いで!」


「わかりました!」



じりじりと照らす太陽がノイアの体力を奪う。

以前の彼ならばとうに体力が底をつき、精神的にも挫け音をあげていただろう。


しかし、この二か月、ノイアとて遊んでいたわけではない。誰よりも訓練に励み、誰よりも遅く残り 師であるガルネゼーアの拳法を身につけんと必死になった。鍛え上げられたのは拳や身体面のみではなく精神面すらも以前を凌駕するほどにタフになっていた。



―――今度こそ、僕は変わるんだ……!









C班―――デヒダイト、シオン、アスシランの三人。


彼らの使命は生死の選別。


生きている者であっても手の施しようが無い人間たち―――例えば、栄養失調によって身体機能の回復の見込みがない者、理性を失った男たちに嬲られ続けた虫の息の女子供、HKVが発症し苦しみもがいた挙句に植物人間になった者、それら全てを苦しみから解放させるため殺すことが彼らに課せられた仕事だった。



シオンの手には鉛の入ったハンドガンが握られている。銃の扱いを覚えさせられた遠き日を思い出しながら家の中に入り込む。


薄暗い部屋には人がいた。否、もはや喋ることすら叶わずベッドで寝転がる人。もはや男女の区別がつかないほどにやせ細り、外皮の上からは骨や内臓が見てとれる。肺がわずかに動いているところを見ると生きているようであったがそう長くはないだろう。


シオンは玄関に刺してあった傘を持ってくると、左手で傘の先を寝ている人間に向け広げる。そして、右手で撃鉄を下ろし銃口を向けると、パンっと乾いた音と共に硝煙が上がった。


飛び散った血はシオンにかかることなく、見事傘に勢いよく付着する。


シオンのその眼には何の感情も宿ることなく、その一連の動作を流麗に行っていた。




「やっぱりてめえは俺と同じだな。表に出すか、仮面の下に隠すかの違いだ」


誰もいないはずの部屋から男の声がした。

すぐさまシオンは振り返り銃を構える。


「お前は……」



鋭い目つきに鈍く光る銀色の髪、そこにいたのは見間違えるはずもなく、ギンガその人だった。

選抜試験に合格していた彼はエクヒリッチ隊に所属していた。そのため今彼が着ている服はシオンたちと似たようなサセッタのユニフォームを羽織っていた。


サーモルシティーでのギンガの役割はシオンと同じ内容が与えられていた。


シオンは銃を下ろす。



「何か用か?」


「ハッ! 初めて会った時にてめえの目を見て思ったぜ、オレと同じ目をしてやがる。醜く、死を味わい、死を与えた奴の目だ。死神が見えてるぜ」


「……無駄話をしてる暇はないからな。そこ通るからどいてくれ」



ギンガの脇を通り抜け家を出る。

しかし、ギンガもその後ろからついてくる。


「まあ、待て。オレは忠告しに来てやってんだぜ、人生の先輩としてよ」


シオンは歩くスピードを緩めず、隣のアパートに向かう。

ギンガは構わず話し続ける。


「てめえ何歳で初めて人殺したよ」


「……」


「いつ死にかけた」


「……」


「てめえのあの友達ごっこしてる奴ら、なんて言ったかね―――」


そこではたとシオンは立ち止まり、振り返りギンガをにらみつける。その眼はおそらくアイネやノイア―――果ては家族だった孤児院の子供たちにさえ見せたことのないような、薄暗く凍り付いたような目をしていた。


ギンガは唇をめくり、にたりと笑う。


「殺人鬼かよ」



すると、目の前のアパートの部屋の一室が開く音がした。二階の中央にある扉の傍に、服を血で真っ赤に染め、泣き叫ぶ男の子がいた。見たところかなり幼いように見えた。


シオンが真っ先に走り出し、その後からギンガが優雅に歩きながらついていく。



「大丈夫か!?」


シオンは少年の傷を確認するも、それらしいところは見当たらない。

部屋の中を覗くと、血反吐を吐き、倒れた親だったものが地面に転がっているのが見えた。完全に黒く変色した奇形死体は、間違いなくHKVによるものだった。


シオンの後ろから後からやってきたギンガはずかずかと部屋に入り込む。


「こりゃ、大惨事だ。……ん? 何だこの粉、大麻か?」




部屋を荒らしまわるギンガをよそに、シオンはすすり泣く男の子を抱き寄せ落ち着かせる。


「大丈夫だ、お兄ちゃんたちが来たからもう安心だ」


「うぅぐっ……お母さんがぁ……お、お母さんが……」


「大丈夫、大丈夫」


頭を撫で、強く優しく抱きしめ、人のぬくもりを与える。パニックに陥った時や心の整理がつかないときは一番効果的な方法だと、シオンは身を持って体験済みだった。


ギンガはその様子をつまらなさそうに眺めていた。




しばらくして、少年は落ち着きを取り戻したのか、シオンの元をすっと離れる。


「もう大丈夫か?」


シオンは立ち上がる。


「……うん」


「うん、偉いな。……じゃあ、ちょっとだけ腕出してもらえるか?」


そう言ってシオンが懐から取り出したのは小型の保護ケースに入った『神雫(ティアー)』の注射器であった。仕事中に仮拠点に行けない生き残りに遭遇した時に接種させることができるよう、皆、予備に三本ずつ携帯している。



シオンは何の気なしに、ただ純粋に助けたいという一心から取り出した注射器。

しかし、それは目の前の少年には人間を救うための道具ではなく、壊すための道具に映って見えていた。


それもそのはずで、HKVによっていつ死ぬか分からない状態で正気を保っていられなくなった少年の夫婦は、クスリにおぼれていた。先に父親が憔悴して自殺し、残された母親はより一層クスリを自分の腕に打ち、その後に粉を燻して吸い込むようになった。


そして母親の最後は、先ほど部屋でHKVによる変死を迎えたのだった。


故に。落ち着きを取り戻した少年は、注射器の針を目の当たりにすると、表情を一転させ青ざめる。溢れる涙は優しかった両親の変貌を目の当たりにした恐怖の記憶から流れてくるものだった。



「やっ……! いやだ! ……ぐすっ、やめて!」


そんな事情など知る由のないシオンは口を一文字に結ぶ。



―――しまった、まだ落ち着いてなかったか!?



その瞬間だった。


少年の目が見開いたかと思うと、体中にひびが入ったかと錯覚するような黒い筋がみえ、やがてそれが全身を飲み込む。少年の腕は膨れ上がり体毛が一瞬で伸びる。



「あ……、あぇ……? ぃだ……ょ、がが、あががが!」


頭が膨れ上がり脳漿が額を垂れる。もはや、シオンの目の前にいた少年の姿は見るも無残な形に変わり果てていた。


HKVの発症で間違いなかった。

シオンも発症現場を生で見るのは初めてだったが、サセッタで見た発症事例映像と酷似していたため見誤ることは無かった。



こうなってはもう遅い。


神雫(ティアー)』は必ず発症前に接種しなければ意味をなさない。これはどうしよもないくらい()()()()()



目の前で起こる出来事は覆しようのない事実であり、発症した後に接種しても無駄だということは過去のサセッタの報告書で何度も挙がっていた事項だった。



予備とはいえ貴重な『神雫(ティアー)』を目の前の少年に使うわけにはいかない。シオンは懐にケースを戻し、代わりに腰につけた銃を取り出す。


サセッタの長年のデータで証明されてる以上、迷うことは無かった。

少年を襲う痛みが、苦しみが、悲しみが、絶望が、これで最後になることを祈りながら、シオンは引き金をためらうことなく引いた。






「ハッ、てめえどんだけ厚いツラの皮かぶってんだ。多重人格者かなにかか?」


アパートの二階の通路に横たわり、頭部を撃ち抜かれた少年を見下ろしながらギンガは言った。


「……怖がってたから慰めた。HKVが発症したから、残り数秒の命だろうと彼が苦しまないように仕事を全うした。おかしいところは何もないだろ」


シオンは少年を抱き上げ、B班が回収しやすいように道路に運ぶ。


「あぁ、ひっじょ~に合理的だ。お前はおかしくないぜ」


「……」


「予想以上のガキだな、てめえ。だからこそ尚更に壊したくなるぜ……。ガキ、俺と一戦、今から()らねえか?」


「…………やる意味がない、もう選抜試験は終わってるだろ」



その瞬間だった。南方で爆発音がしたかと思うと青い空に黒い煙が立ち上った。

シオンは急いで道幅の広い道路に飛び出す。


黒い狼煙が上がる遥か後方で、信じられないほどの大群が押し寄せているのが見えた。


サセッタではない。


シオンにはその大群の兵士たちが着ている軍服に見覚えがあった。

見間違えるはずがなかった。




―――ドセロイン帝国!? どうしてここに……!? それになんだ、あの兵士の数は! アダルット地区の時とは比べ物にならないくらい多い!



シオンは生唾を飲み込む。



「おーおー、攻撃された場所は仮拠点かー? こりゃあ楽しくなってきたなぁ、おい!」


ギンガのその言葉を聞き、改めてシオンは黒煙の上がる方角を見る。

確かにその場所は仮拠点のある方角だった。建物に遮られ実物は見えないが、距離的に見ても仮拠点が攻撃されたことに間違いはないだろう。



シオンは黒煙に向けて走り出し、耳につけたインカムを起動する。


「アイネ! 応答しろ!」


しかし、返答はない。

シオンは下唇をかみしめチャンネル先を変える。


「ノイア! 応答してくれ!」


『あ、シオン! 今街ですごい爆発があったみたいだけど大丈夫? 僕、今火葬場にいるんだけど―――』


「あぁ、俺は無事だ。よかった……、お前も無事みたいだな。そのまま安全な場所に避難しておけよ」


シオンはそう言い残すと、再び通信先を変える。


「デヒダイト隊長、ドセロイン帝国の兵士を確認しました。目測ですがその数は5000人以上かと思われます」


一瞬の接続音のあと、デヒダイトが応答する。


『こちらからも視認済みだ。小僧、お前の位置から爆撃された場所までの距離は』


「……300です」


『よし、なら小僧は仮拠点に向かい、一般人の安全を確保しろ。敵が来た場合、戦闘を許可する。他に近くにいる奴がいたらそいつも向かわせる。無茶はするなよ』


「了解!」


通信を切りシオンは700m以上離れている仮拠点に向かう。



「おい、何で嘘ついた」


後ろを同じように走りながらついて来ているギンガが聞く。


「……倍速で走れば300と同じくらいの時間で着ける」


「ハッ! つくづく面白い奴だ! ―――だからこそ、さっき言いそびれた先輩としての忠告をハッキリといっとくぜ。矛盾は抱えるな、ソイツはてめえの身をいつか引き裂くことになるからなァ!!」


その時のシオンの姿でも脳内に思い浮かべたのだろうか、ギンガの狂気じみたその笑いは悪魔のそれに近いものだった。


「まぁ、せいぜいオレの忠告を聞いて生き残れ。そして、死ぬときはオレをたぎらせてから死ね!」


そう言い残し、シオンから離れていった。ギンガの目指す先は、おそらくより敵の多い戦地だろう。



そんなギンガに脇目も振らず、シオンは目的地のみに意識を集中させる。


二重加速(ジ・アクト)!」



挿絵(By みてみん)



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