のんびりと
かちこちと時計の音が聞こえる。
「今年も終わりだねぇ」
リビングにあるテレビを見ながら、桜はみかんを食べた。
「あっという間だったな」
幌は、ミカンを剥いて、それを半分に割いてから桜へと渡す。
テレビは手野テレビにチャンネルが合わされていて、すでに笑神降臨と呼ばれるお笑い番組も終わり、社寺の様子を生中継していた。
「探訪の前半が終わると、年明けかぁ」
気の早い友人から、桜のところにメールがすでに来ていた。
「明けてないけどおめでとうだってさ」
「気が早すぎるだろ」
笑っている幌には、それでも楽しそうだ。
かちこちと、時計の音が聞こえてくる。
「今年も、いろいろあったねぇ」
まるでおばあちゃんのようだ。
「過去を懐かしみだしたら、年寄って言われるらしいぞ」
「マジか」
「本当だって」
それが本当かは、はっきりと言えないわけであるが、桜は幌の言葉に対してすこし落ち着いていた。
「ま、もうすぐ20だしね」
大学入学、そしてもうすぐ後期も終わる。
来年早々にある期末考査にさえ目をつむれば、全体として楽なものだ。
「しかし、今も大学生っていう実感がないなぁ」
「私もだよ」
桜が幌に答える。
テレビの中では、いよいよカウントダウンが始まった。
「ねぇ」
「ん?」
桜が幌に聞く。
「来年、どうかな」
「どうって何がさ」
テレビの声が、キュウと聞こえた。
「いい年かな」
ハチ
「そうだろうさ」
ナナ
「どうして」
ロク
「どうしてって……」
ゴ、ヨン
「姉ちゃんとさ」
サン
「いっしょだから」
ニイ
「かな」
イチ
「…え?」
ゴォンと鐘の音がテレビから響いた。
無事に年明けを迎えれた証しだ。
「それってどういうこと」
桜は聞こうと思ったが、ミカンが無くなったということと、幌宛てに大量のメールやSMSがやってきた。
桜のところにもきた。
「おっと」
立ち上がって、結局この話はうやむやのまま、終わった。
去年のことは去年のこと、その話はもう終わり。
ただ、幌は恥ずかしかったのかもしれない。
その証拠に、いつもよりも頬が赤くなっていたような気が、桜はした。