篤史が感じていた思い
事件が解決して、美術館の前で進太郎と亜美と別れてた篤史達三人は家路に向かう事にした。別れ際、亜美は自分の気持ちだけを信じるように、と留理に一言言った。
里奈は付き合い始めた彼氏が事件の犯人だった事にショックを受け、ずっと泣いている。その姿を見て、留理でさえも声をかける事に躊躇ってしまう。
「里奈、泣くなって……」
篤史は思い切って声をかける。
「信じられへん。篤史が事件なんか解決するからこんなことに……」
里奈は彼氏を失った事に篤史に八つ当たりをする。
「事件を起こしたんはオレのせいやないんやけどな」
篤史は参ったなという表情を浮かべる。
泣きながらの里奈はそんなことわかっているというふうに篤史を睨む。
「まぁ、しばらく忘れられへんと思うけどゆっくりでいいんと違うか。どれくらいで出てこられるかはわからへんけど、理由が理由なだけにすぐに出てこられると思うで」
篤史は言葉を選びながら里奈に言う。
それは聞いた里奈は安心したのように頷く。
そして、涙を拭いて留理の腕を掴む。
「アップルパイ持ってきた?」
涙で声を震わせながら留理に聞く里奈。
「うん、持ってきたよ」
留理は戸惑いながらもアップルパイを持ってきたと答える。
「ちゃんと渡しなよ。私、先に帰るね」
里奈は今は一人きりになりたいという思いから、篤史と留理を二人きりにする。
「り、里奈!?」
急な二人きりにどうしていいのかわからないでいる留理。
「行ってしまったな。今は一人きりになりたいやろうし、そっとしてあげようや」
篤史は今日は仕方ないとため息をつく。
「あの……篤史、アップルパイを持ってきたんやけど……」
留理は思い切って持っていた袋を渡す。
袋を渡された篤史は戸惑いながらも袋を開ける。中には三切れのアップルパイが入っている。
「留理が作ったんか?」
自分の好物が入っていて嬉しい気持ちで聞く篤史。
「うん。昨日、留理から聞いて急いで作ったから、あまり味に自信ないけど……」
留理は恥ずかしそうにしながら答える。
そして、アップルパイを一切れ手にして食べる篤史。
「めっちゃ美味しい! 前に部活の差し入れでもらったアップルパイより美味しいし! 里奈も作ってくれたけど、味はイマイチやったな」
篤史は留理が作ったアップルパイを絶賛する。
「ホンマに?」
恐る恐る聞く留理。
「うん。お菓子作るのが得意な留理やから、アップルパイが作れて当然なんやろうけどな」
「ありがとう」
留理は嬉しそうに礼を言う。
「それより里奈に彼氏が出来てヤキモチ妬いてた?」
アップルパイを食べている篤史に留理は何気なく聞いてみる。
「ヤキモチというかなんというか……。里奈に彼氏が出来たのは高校生やしいいねん。でも、里奈は高校生で彼氏作らへんって思ってたからショックといえばショックやったかな。今日、初めて岡田に会って、コイツはなんかやらかすやろうなとは思った」
篤史の中に幼馴染である里奈に彼氏が出来たというショックな気持ちが、ヤキモチに似た感情があり、なおかつ初めて会った昌弘が、何か事件を起こすのではないかという思いが渦巻いていたと話す。
「結果、事件が起こってしまったんやけどな」
篤史はこれは仕方ない事で、昌弘を責める事は出来ないという意味合いを込めて言う。
自分が予感していたのなら、昌弘を止めていれば何か違っていたのかもしれない。だが、自分はそれをしなかった。篤史は自分でもわからないが、止めなかった。それは里奈の彼氏である昌弘を心のどこかで信じたかったのかもしれない。
「篤史は里奈の身を案じてたんやね」
里奈を心配していて、それが好きだと自分が勘違いしたという事に気付いた留理は、なんとなく情けなくなっていた。
「うん。岡田がオレの事を知ってたかどうかわからへんけど、里奈を事件に巻き込もうとしてたんかなと思うと悔しいねん。理由がどうであれ、相手を傷つけたのには変わらへんからな」
篤史は悔しさと声に出す。
「そんなことないって信じたいもんね。それにしばらくは立ち直れへんけど、また里奈の笑顔が見たい」
留理は里奈の事が好きでヤキモチを妬いていたのではないとわかり、内心ホッとすると共に、早く里奈の笑顔が見たいと思う。
「そうやな。里奈が立ち直るまで時間がかかるやろうけど、オレらは見守る事しか出来ひんからな」
篤史も同じ事を思っていたが、幼馴染が立ち直るまでそっとしておこうと思っていた。
二人は夕暮れの中、ゆっくりとした足取りで家路に向かっていた。