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舞台劇ゴジラ

舞台版『ゴジラ』のネタバレしています。

 テレビで舞台劇の『ゴジラ』の放送を観たのは四半世紀ほど前になります。昭和から平成に変わったばかりの頃。舞台演劇で『ゴジラ』ってどんなことを演じるのだろうと興味を持ちました。今までの特撮映画のお話のアレンジなのかしらと思っていたら、大間違いでした。

 ゴジラと人間の少女が恋に落ちて、それを認めてもらおうと、少女の家庭に向かおうとするドタバタから始まります。

 丁度、昭和の終わり頃、『ゴジラ』映画はしばらくお休みしていて、小林桂樹や沢口靖子、宅麻伸が出演した『新ゴジラ』が制作、上映された後の作品です。平成の『ゴジラVSビオランテ』の前です。『新ゴジラ』って、今は呼ばないのかな? ただ『ゴジラ』かっこ昭和五十九年制作と区別される程度かしら?

 この映画は確か小林桂樹演じる総理大臣が、諸外国からゴジラに核攻撃をせよと迫られても「非核三原則」を持ちだし、そして「あなたがたの国にゴジラが現れたら核兵器を使用するのですか」と言って黙らせています(ここらへん『シン・ゴジラ』と対になっていますね)。ゴジラにもほかの動物と同じ帰巣本能があるとかなんとかで誘導し、三原山の火山に追い込んで封じ込めるという内容だったと記憶しています。

 舞台劇のヒロインやよいは祖母から世の汚れを知らぬように躾けられ、本人は天使のような人間になりたいではなく、天使そのものになりたいと願うような女性です。そのやよいが三原山でゴジラと出逢い、どうしてなのか、恋に落ちるのでした。

 登場するゴジラもほかの怪獣たちも着ぐるみやお面は被っていません。普通の人間の格好をしています。演技やパントマイムで怪獣らしく振る舞い、観客もそのつもりで観ているのがお約束です。

 ゴジラとの結婚を許してもらうためにやよいの家に向かうのに、男優が、「ぶつからないように尻尾を押さえてね」、「そこは住宅地」とかやよいが言うと、合わせて尻尾を抱える仕草をし、大股で歩く動きをし、なかなか受けます。

 やよいの家では単に「会って欲しいひとがいる」としか言っていないので、祖母や両親はどう振る舞ったらいいかとしょうもない家族漫才状態、双子の妹たちがワイワイ騒ぎ、やよいの幼馴染でやよいに恋する警察官のハヤタが拳銃を持って興奮しています。

 そこへやよいがゴジラを連れて現れました。普通の花嫁の父ポジションじゃないと愕然とする父。世間体や攻撃対象になるんじゃないかと口にする母。天真爛漫なやよいに惚れ直しているらしいハヤタ、姉の浮世離れに呆れる妹たち。人間以外の生物と真剣な恋愛の経験をした祖母は一定の理解を見せますが、ゴジラにはミニラという隠し子いると暴露し、ゴジラに孫に苦労をさせるな、引き下がれと強く言い放ちます。

 やよいとゴジラは諦めません。双子の妹たちが歌うと、その家の守護神モスラが姿を現します。

 町工場のおやじさんふうのモスラ。ゴジラは「モっちゃん」と声を掛け、モスラは「兄さん」と呼びます。守護神じゃないのかい!

 怪獣の生きる道は大変だよ、とモスラは生活苦を訴えます。ゴジラはふらふらしていて、映画に出演するくらいしかやることないんだとか抜かして、モスラはこんなのと一緒になるのかとやよいに言います。やよいは覚悟していますと、告げます(モスラは生活が大変で、繊維業の資金の遣り繰りが上手くいかなかったら首を括んなきゃいけないと愚痴ると、やよいは「どこが首なんですか?」と訊くくらい無邪気です)。

 モスラとその妻のピグモンも二人の決意を聞いて、結婚を応援することとなりました。

 マッタクどーなっている! とまたやよいの家族や円谷監督を思わせる人物(人名を出すのに問題があったのか、その中継では日本特撮の父と呼ばれていましたが、戯曲では円谷英二になっています)が出てきます。監督はゴジラをバカ息子と叱り飛ばします。父がゴジラはただ暴れて、破壊するだけの怪獣じゃないかと言いながら、ゴジラにやよいを託そうと言葉を掛けます。

 そこへハヤタや地球防衛軍がゴジラを攻撃しにやってきます。ゴジラの前に化学兵器は無力です。期待どおり、ハヤタはウルトラマンに変身してゴジラと戦います。ゴジラはウルトラマンさえ倒します。

 ゴジラは勝利したものの、沈んだ、悲しい顔をしています。

「やはり自分は怪獣で、やよいさんには不釣り合いだ。山に帰る」

 その言葉に誰もが驚きます。特にハヤタはここまでやり合ったのだから、堂々とやよいさんと一緒になれ、やよいさんを傷付けるなと、拳銃を向けました。

 しかし、ゴジラは去ろうとします。ついにハヤタ発砲。銃弾はゴジラの胸を赤く染めました。

「この銃弾で血を流し、傷付き、死にゆくことで、人間としてあなたを愛しはじめることができるのです」

「わたしが愛したのはゴジラのあなた、人間ではありません!」

 人の姿のゴジラだから、この台詞の辛さがリアルです。

 ゴジラは血を流しながら去っていきました。

 舞台暗転――、三原山の噴火の為に島民避難の状況です。家族やハヤタがやよいに早く逃げるように声を掛けながら、先に行きます。

 やよいはじっと虚空を見詰めています。

 そこへ一人の男性が避難のために通りかかります。やよいはその男性に気付いて、思わず「ゴジラ!」と声を上げます。

 なんのことか解らないと男性はやよいを見ます。しかし、見詰め合い、二人は手を取り合います。二人はそのまま舞台を去ります。

 ドタバタで始まりながら、悲しい余韻のあるお芝居でした。

 作者は大橋泰彦、戯曲は白水社から出ています。東京で活躍されている劇作家、劇団の方だそうです。

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