貝喰みの池とキツネノカミソリ
わたしは「龍澤山 善寳寺」を知らなかったのですが、大きな山門があり、五百羅漢堂や五重塔がありました。
おお、羽黒山以外にも五重塔がある! 塔の一階部分の欄干には十二支が彫刻されており、自分の干支の方向から拝むとお利益があると説明がありました。
山門から本堂に入り、受け付けを済ませました。ご本尊を拝観するには五百円を支払い、祈祷を受けた後に案内され、説明を受けるようになっていました。タイミングよく、受け付けしてすぐに祈祷の時間でした。祈祷が終わり、お坊さんから案内され、ご本尊のある龍王殿に入りました。
小さな厨子に、普賢菩薩様、そしてその前に並んで龍王、龍女の立像です。父が龍のナンタラと言っておりましたが、仏体でいらっしゃいます。今まで秘仏とされていましたが、この年このお寺を開いた龍華妙達上人の生誕千百五十年祭で、初めての開帳だそうです。大きくはないものの、歴史を感じさせる森厳さがございます。
隣には有栖川宮家のご位牌が祀られていました。普段は一般の人が入れない場所なので、外の扉に菊のご紋を入れて、皇族の方が祀られていると、示しています。そのまた隣にはそこのお寺を開いた上人様や道元法師のお姿とご位牌、歴代のご住職のご位牌が祀られていました。禅宗のお寺ですので、達磨大師の像もありました。
蛇の姿が浮き上がったように見える石がお寺の中に八つ展示されていると説明がありましたが七つしか見付けられませんでした。逆鱗に触れないように鱗の流れに沿うように撫で、体の痛むところを撫でるとご利益がありますよ、とありましたので、見付けられた石は、そっと撫でてまいりました。
こうして本堂や龍王殿を見学し、お庭や宝物殿を拝見しました。僧房や信徒会館まであり、大きなお寺です。ここまで来たのだから人面魚で一躍有名になった「貝喰みの池」が徒歩十分の場所であろうが行ってみようとなりました。
山道に歩きやすいように石やコンクリートを敷いた道を進みました。また別の幟が建てられている場所を見付けて、そこを上りました。
そうしますと、広い池が見えてきました。
「池と沼の違いって何だろう?」
「わかんない」
などと言いながら、到着です。
まず鯉よりも亀を見付けました。
「外来種がいる」
と、二男が言います。
「え、あれはクサガメじゃないの?」
「耳のとこ赤い線の入ったのがいた」
「ミシシッピアカミミガメ?」
ここの入口には、龍神が住む聖域の池だからペットを連れ込まないでくださいと立て看板が何枚か立てられていましたが、そういう事態になっているようです。
亀が括りつけられて池に浮かべられている木に並んで甲羅干ししていたり、のそのそ、或いは素早く泳いでいたり、しております。鯉がたくさん泳いでいます。もう少し池のほとり近くに降りていきますと、鯉のほかに鯰、亀、スッポンの姿が確認できます。
この中に、伝説の龍王、龍女の化身がいるかも知れないんだ、と眺めておりました。わたしは、話題自体は知っていましたが、んなもん鯉の頭頂部分の模様がそんなふうに見えただけで気のせい、見間違いの一種と人面魚を探そうなんて気は毛筋ほどありません。良人も同様のようでしたが、ふざけて、「あれあたり、それっぽいな」と指差していました。
二男は亀の観察に夢中になっていました。
池の観察が楽しかったのですが、午後三時を回り、そろそろ実家に向かわなければなりません。名残り惜しくありましたが、二男にも声を掛け、ここを出ることにしました。道を戻りながら、池とは反対側の山の斜面に野草の小さな立て札を見付けました。
「きつねのかみそり」
? そこにはそれらしい植物がありませんでした。しかし、また行くと同じ説明の札。そこにはオレンジ色の花。細長い花弁で、小さな百合のような花でした。
「どうしてきつねのかみそりというのだろう?」
「なにか謂われでもあるのかな?」
お稲荷さん信仰のある二男も知らないようでした。
キツネノカミソリという花があると知ったのも、実物を見るのも初めてでした。
実に有意義な体験の一日でした。
実家に着いて、良人は父に水族館より善寳寺が良かったですと報告。父は、善寳寺は龍神さんを祀っているから船の持ち主が色々寄進しているらしいとか、話が続いていました。
父は娘の帰省より、婿が来ればお酒を飲めると歓待に忙しいのでした。
翌日は実家のご先祖の墓参りをしました。
帰宅して、キツネノカミソリを調べましたら、彼岸花の仲間の有毒植物と解りました。謂われまでは、まだ突き止めておりません。
パワースポットと言われる善寳寺にお参りし、ご先祖にも手を合わせてきまして、随分気持ちも改まりました。さて、凡俗の輩はまたぞろ文章なんぞを書いてみるのでした。