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故郷の味

三十と一夜の短篇第4回の没原稿です。

 祭りや観光地での出店を見るのはいつも楽しい。ありきたりの軽食や駄菓子が美味しそうに目に映る。

 子どもの頃はそうやって親に水飴やらどんどん焼きやらをねだっていた。

 出店や屋台というものに、地方色があると知ったのは結構大きくなってからだった。まあ、どんどん焼きとお好み焼きは違うものらしいともっと以前から知っていた。どんどん焼きは小麦粉を水で溶いて、熱した鉄板に伸ばし、焼きながら、魚肉ソーセージや紅しょうが、海苔を乗っけて、焼き上がったら割り箸にくるくると巻き付け、ソースをたっぷりと塗りつける。生地に卵を溶き入れるなど、多少の違いはあれど、割り箸に巻き付けるから生地は分厚くならない。

 対してお好み焼きは、キャベツを敷いたり、焼きそばを入れたりとボリュームがある。どちらが美味しいかは完全に好みであり、わたしとしては郷愁をそそられる方が勝つとしか言えない。

 郷里の山形での出店で必ずあるのはどんどん焼きのほかに玉こんにゃくがある。玉こんにゃくを醤油と出汁で煮しめて、竹串に刺して売っている。好みで辛子を付けて、食する。この玉こんにゃくを見掛ければ、山形出身の人間は必ずと言っていいくらい購入する。

 他県の人間が玉こんにゃくを見た時発した言葉に、わたしは驚いた。

「巨大なお団子かと思った」

 その発言をした女性は青森県出身だったが、彼の女の郷里では玉こんにゃくは売られていないのか。

 醤油で煮しめたこんにゃくを何故喜んで食べるのかも理解できない人たちもいるので、どう説明したらよいか困ってしまう。

 学生時代の春休み、古代史ゼミの面々で、先生の引率で奈良方面に研修旅行に行った。丁度あちらは花見の盛りで、神社や公園にお店が出ていたが、悲しいことに玉こんにゃくは売られていなかった。郷里では見かけたことのない、カステラ焼きがあった。

 恩師の好物であるカステラ焼きは美味であったが、屋台を見て歩くのに、玉こんにゃくがないのが寂しくてたまらなかった。

 良人は宮城県出身であるが、玉こんにゃくが好きだ。外出先で見掛ければ購入する方だし、自宅でこんにゃくに味が染みるまで煮詰める手間を考慮せずに、スーパーで玉こんにゃくを買ってきて、調理してくれということもある。

 食の一致は長年一緒に暮らすには大切なことだとしみじみと思う。

 しかし、良人からトンデモない言葉を聞かされた。

「おまえが好きだという山形の○○屋のラーメンを何度か食べたが、それほど美味いと思わないなぁ」

 子どもの頃から慣れ親しんだ味は絶対であり、それを書き換えることはできない。眩暈がするくらいの真実である。

 そして、山形の蕎麦屋のメニューに何故ラーメンがあるかなどわたしは説明できない。とある蕎麦屋で始まった「冷やしラーメン」が全国的に有名になったとは。

「冷やしラーメン」自体はそう好きではないが、そこの蕎麦屋の普通のラーメン、そしてそこの師匠筋の蕎麦屋のラーメンは、わたしのラーメンの基本の味である。

 食の不一致はやはり存在する。

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