第26話
なんとか投稿。
誤字脱字は後日修正します
あれから、エリスに睨まれたり怒られたりなんで女物の下着なんて持っているんだと問い詰められたりと……まあ、いろいろあったが、俺たちは帰還用転移ボータルに乗って独特な浮遊感の後、無事1階層の出口専用部屋に出てきた。
紆余曲折あったが、エリスはちゃんと着替えた。
涙目でブツブツ何やら言っていたが、ちゃんと着替えた。
その時に「下着…責任…」とか不穏な単語が今度は発動した【聴覚強化】を通して聞こえたため———俺は無言で端に行き壁に向き直って耳を塞いだ。
だから断じて衣擦れの音を聞いていろいろ妄想を掻き立てられたりしてなんてない。
「もう…全てを彼に———」なんて聞こえていない。
ないったらない。
……だから【聴覚強化】よ。君が優秀なのは分かった…。だから今は……!今だけはお願いだから黙っててくれ…!!
「どうしたのだ?遠い目なんてして」
「…なんでもない。気にしないでくれ」
これは何が何でも【聴覚強化】のメカニズム解明が必要だ。
そんな決意をしたことなど当然知らないエリスは、訝しげに首を傾げていたが、すぐに前を向いて歩き出した。
正直に答える訳にもいかなかったので、この反応はありがたかった。
「ここが出口か……」
「? 何を当たり前の事を言っているのだ?」
エリスが古めかしい木製の扉に手を掛けつつそう言って振り返ってくるが———そうか。彼女は事情を知らないんだった。
自分の迂闊な発言に頭を掻く。
どうやら、安全地帯に戻って来て気が緩んでいるらしい。
幸い周りに人気はなかったが……危ない危ない、気をつけないと。
「あー、それも含めてこれから話す」
「……そうか。色々と複雑な事情がありそうだな」
エリスはそれだけで色々と察してくれたらしい。
それ以上は何も聞かずに扉を開けた。
どうやらここは入口のすぐそばにあるようで、扉を開けた瞬間、しばらく見ていなかった光が、扉と同時に突如として聞こえて来た喧騒と共に入って来た。
どうやらここは、防音の加工でもされているらしい。
開けるまで、まったく音がしなかった。
俺たちはそのまま賑やかな入口に向かって歩く。
「戻って来たな」
「…そうだな」
色々とこみ上げてくるものがあったのだろう、エリスの声はどこか湿っぽかった。
俺は何も言わず、それにそっけない返事を返すと、辺りを見回した。
そこには中世風の服を着た人々や商人っぽい装いの人、防具に帯剣と物々しい格好の人々が通りを賑わせて——————いなかった。
いや、その言い方だと少しおかしいのか?
俺が知っているような感じの世界観じゃなかったって言えば伝わるだろうか。
服装はどこか現代に近い様々な服装の———だが、どこか現代とは少し違う装い。
屋台や商いをする人はいるが、麻の茶色い布服とかではなく、その店の物なのだろうか、統一された制服にロゴが入ったエプロンをしている。
そういった人々の中で、服装は変わらずに更にその上から防具を纏い帯剣した…いわゆる冒険者だろうか———が街中を歩いている。
そんなどこか歪な風景が俺の視界いっぱいを覆った。
思わずエリスを振り返る。
そんな俺を見て、エリスはしばし不思議そうにしていたが———何やらピンと来たらしい。
とりあえず、どこかに入ろうと俺を促して歩き出した。
俺は言われるがままにその後をぼけっとついて行く。
そして、エリスは他の家屋よりも一回りどころか二回りも大きい木造建築の建物の前で立ち止まり、大勢の人の出入りが途絶えない入口に入って行った。
どうでもいいが、ドアが無くて大丈夫なんだろうか。
いや、こんなに人が出入りしてたら逆に邪魔なのか?
そんな事を考えながら後に続いて中に入る。
「おお~~」
自然と感嘆のの声が漏れる。
目の前に並ぶ長いバーカウンター。
そこに感覚を開けて制服を着た老若男女が並んでおり、そこで防具や帯剣をしている人達———冒険者と呼ぶ事にする———が素材らしきものを渡していたり、銅貨や銀貨を受け取ったりしていた。
それは、俺が知っている物と少し違うが、間違いなくギルドだった。
その中の一人にエリスを見つけて近づこうとしたら———なにやら彼女の前に二人組の冒険者たちがいて話し込んでいる。
知り合いだろうか。
空気を読んで少し待とうとしたが、どうやらそう言った雰囲気ではなさそうだった。
「で? 一人でどこまで潜れたんだよ」
「どうせ中層に行くのが怖くて逃げ帰ったんだろうさ」
「それじゃぁ憧れの騎士様には成れねえなあ!!」
「「ぎゃはははは!!」」
「……っ」
エリスはそんな彼らの声を無視していたが、顔は不機嫌そうに歪んでいる。
「おいおい!天下の騎士様を目指す孤高のエリス様ぁ、無視は良くないぜえ」
「そうそう、いくら事実でも少しは言い返したらどうなんだよ!」
「……」
「チッ」
「Cランクに上がったからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「俺らより剣術スキルが低いくせになんでお前なんかが———」
「お前らさ、人の連れにちょっかい掛けてんじゃねえよ」
「…っ! コクラン」
エリスは見られたくないところを見られてしまったとでも言うように、気まずそうな顔をしていた。
まあ、そりゃそうだろう。
誰だって、自分が馬鹿にされている所なんて見られたくはない。
つーか俺だったらソイツ等をぶん殴って喧嘩になっていると思う。
まあ、それも度合いによるが———これはいくらなんでも酷いだろう。
「なんだお前」
「こっちは今お取込み中だ。餓鬼が出しゃばってくんじゃねえ」
男たちは、最初いきなり割り込んできた俺に呆気にとられていたが、状況を理解するにつれて俺に怒気を孕んだ口調で睨みつけてくる。
両者ともに遥かに俺よりガタイが良く、鍛えられているのが良く分かった。
そんな奴らが俺にチンピラみたいにガンを飛ばしてくるが———魔物の威圧に慣れているこちらからするとそれはちっとも怖くない。
黙っている俺に、相手はビビったのかと勘違いでもしたのだろうか。
気を良くしたように更に顔面を近づけて威圧してくる。
「おいっ、貴様ら———」
慌てて止めに入ろうとするエリスの言葉を無視して男は意地悪そうに顔を歪めて俺を見る。
「今なら見逃してやるぜ?」
「帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
「「ぎゃははははは!!」」
「鬱陶しいからその汚ねえ顔面を離せ。落ち着いて話もできやしねえ」
男は俺の言葉にピタリと動きを止める、ついで自分が何を言われたのかその言葉を理解するにつれてワナワナ震えだした。
そして顔を怒りと羞恥で真っ赤にして男たちは激昂する。
「このガキャァ…!」
「言わせておけば調子に乗りやがって……!! 俺たちが冒険者の流儀を教育してやる!」
そう言いいながら掴みかかってくる男を、横に避けて懐に入る傍らその勢いを利用して投げ飛ばす。
男は訳も分からないと言った様な表情を浮かべながら遠目に野次馬になって見ていた人ごみに飛んでいった。
そして、それは俺の予想以上に飛んでいき、そのまま野次馬の人ごみを飛び越えて壁にドゴッ…痛そうな音を立ててぶつかった。
そのままドッ……地面に倒れた男はみっともない格好のまま痙攣している。
どうやら気絶したようだ。
その場の空気が凍る。
一体いま目の前で何が起きたのか、理解の及ばないその出来事にポカンと口を開けて立ち尽くす。
俺を含めて。
そして、現状を理解するにつれて周囲でどよめきが起こった。
ざわざわと、俄かに騒がしくなった室内で、俺より少し早く立ち直ったもう一人の男は、「ひっ」と情けない声をあげながら慌てて男に駆け寄ると男の状態を確かめ、肩に担いで逃げて行った。
そんな男たちを尻目に俺はマジマジと自分の手を見つめる。
我ながら凄い飛んでいったな。
そう他人事のように頷きつつ、俺は呆けた顔をしているエリスに近づいた。
「大丈夫だったか?」
「……え? あ、ああ、いや、うん。あ、ありがとう」
エリスはその言葉にしどろもどろになりつつも頬を赤く染めてお礼を言った。
どうやら照れているらしい。
もじもじしながら、ちらっちらっと俺を窺い見ては目が合うと恥ずかしそうに視線をそらす。
きっと、さっきのやり取りを俺に見られたことで恥ずかしくなっているんだろう。
その証拠に顔がいつも以上に真っ赤だ。
これは触れないようにしてやるのが優しさってもんだろう。
俺は話題を逸らすことにした。
「で、あの失礼な奴ら誰なんだよ」
「……ああ。あれは私にいつも絡んでくる馬鹿どもだ。気にしなくて良い」
どうやら、それ以上言いたくなさそうでさっきとは打って変わり急激に不機嫌そうな顔になってフンッと鼻を鳴らす。
どうやら、俺は選択をミスったらしい。
どう答えたもんか逡巡しているとエリスはため息を一つ吐く。
「まあ、今はあいつらの事なんかどうでもいい。とりあえず、そこで飲みながら話そう」
エリスはそう言って隣に備え付けられている酒場っぽい場所を指さすと俺を促して自分一人でスタスタ歩いて行ってしまう。
「あ、おい!」
俺は慌てて彼女の後を追った。
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