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第24話

遅くなって申し訳ないです。

更新ペースを取り戻す以前にけっこうごたついてます。

申し訳ないですがこれ、ゴールデンウィークまで続きそうです。

「選ばれた?」

 俺はその言葉に顔を顰める。


「どういう事~? ボクちゃん分かんないよ~!!って顔してるね!!」


 コイツ…!

 人を小馬鹿にする様なその言い方に神経を逆なでされる。

 だが、分からないのは事実だ。ここはじっと耐える。


「ちぇっ。つまんな~い」

 思った様な反応を俺が返さなかったからか、彼女はつまらなそうに唇を尖らせる。


 この場にそぐわない、ふざけている奴の態度でつい忘れそうになるが、彼女のこのふざけた態度の中にはその底知れない———文字通りふざけた力も含まれている。


 今の俺じゃ、たぶん…いや、ほぼ確実に勝てない。

 勝つには悔しいが、まだまだ情報も実力も圧倒的に足りない。


 感覚的に分かるんだ。


 例え全力でやったとしても、上手くいって五分(ごぶ)にすら満たない、分の悪い賭けだ。

 相打ち覚悟でいけば分からないが———それも現時点での話。

 というより死にたくないから相打ち何て端から選択肢に入れたくない。


 それに———俺の本来の戦い方に必要なモノは、今回の戦いの条件に使用できないとしてギルドの定期メンテに出してしまっている。

 まさか自分がこんな事態になるとは、あの時思ってもいなかっからな。


 それに彼女はまだ手札を隠している。

 あのエリスを完封した動きだって、まだまだ余力を残している様に見えた。


 要するに、まだ何もしていないに等しいのだ。


 ならば、どちらにせよ———まだこちらも切るべきではないだろう。

 ここは情報収集に徹するべきだ。

 本人曰く今は敵対する気はないみたいだしな。


 ほかにどんな手を残しているのか、それが分かるまでは少なくともコイツと事を構えたくはない。


 …つーかなんで今ここに出て来たのかも解んねえし、ここで下手に出れないのは痛いぞ。

 正直なところ、早くどっか行ってくれないかなってのが本音だが、こいつは何かを知っている。

 だったらそれが分かるまでは、我慢しなければならない。

 迂闊な事は…できない。


「ま~いいや。 もうあんま時間なさそうだし~? ちょっとだけ、お姉さんが教えてあ・げ・る」

 パチンッと片手を腰に当て前屈みにセクシーポーズを決めつつ、おまけでワザとらしいウィンクを飛ばして来る彼女は———だが残念な事に、女性としての起伏が乏しい。


 ラインは良いのにな…残念な奴だ。

 いや、ある意味バランスが取れているのか?

 神様とやらもそこまであげるのは反則だと感じたのかもしれない。

 まあ、これはこれで好きな奴は好きそうだ。


 俺は断然ある方がいいけど。


 そんな俺の視線を感じたのか、彼女は不機嫌そうに傘をクルクル回しだす。


「今、失礼な事考えたでしょう」


「いや、そんことはないぞ。ただ胸を強調するやつは選択ミスだなって思っただけだ」


「そ、そう?ごめんなさい…!やっぱりこの胸じゃ無理があったわね。次は違うポーズで攻めるわ———って何言わせるのよ!! というよりなんで私が謝らないといけないの!? ちょっと気にしてるのに!! というかよく考えたらそれ考えてるじゃない!!」


 そうやってムキ―ッと怒る彼女は、突然ハッと何かに気づいた様子で先ほどは打って変わり見る物を魅了する様な妖艶で悪戯っぽい笑顔を浮かべ、


「もしかして照れ隠し?」


「…悪いが鏡は今持ち合わせていないんだ」


「どういう意味かな!?」


「そういう意味だ」


「だからどういう意味よ!?」

 彼女は俺の反応が気に入らないのか不満そうだ。


「まったく失礼しちゃうなあ!そんなこと言われたの生まれて初めてだよ!」


「それより早く話せよ」


「まさかの逆切れ!? だいたいそれよりってなによ!! なんでアンタが不機嫌そうにしてんのよ!! 言っとくけどこれはアンタの所為でもあるんだからね!」


 どうでもいいが、こっちが素なんだろうか。

 興奮するとボロがでるみたいだ。


 そんな俺の態度に腰に手を当て、ワザとらしく頬を膨らませて見せる彼女は———呆れたのか大きいため息を一つ吐くと俺を見る。


「ま、いいや。んじゃ本題!君はさ———疑問に思ったことは無いかな」


「疑問?」


「そう、疑問」

 彼女は楽しそうに日傘を回す。


「それはさておき、君は何て言うゲームをしていたのかな?」


「さっきから何が言いたいんだよ」

 返事は無い。

 要領をえないその話の連続に訝しむが、


「いいから、いいから」

 どうやら、答えるまで何も言う気は無いらしい。

 彼女はニコニコしながら俺の返答をじっと待っていた。

 これじゃ先に進まないと疑問に思いつつも俺は素直に口を開く。


「俺がやっていたのは——————あれ?」


 ———何をやっていたんだっけ?

 いや、していたのが昨今当たり前であったVRMMOだというのは覚えている。

 フレンドの顔だって、世界観だって覚えている。

 だけど———


「タイトルロゴが思い出せない?」

 呆然と呟いたその言葉を、どうしても信じることができなかった。


 ……嘘だろ? 俺がコレをどれだけプレイしてきたと思っているんだ。

 そんなことがあってたまるか…!


「嘘だろ!? 確かにあったはずだ!」

 マジかよ。この年でボケが来たっていうのか?

 そのまま頭をひねって思い出そうとする、


「…ダメだ。なにも思い出せない」

 俺は何も言えずにそこに立ち尽くした。


「それはそうだよ~。だって———」


 ———最初から無いもの。


 彼女はどこか嬉しそうな顔で、そう言った。


 その言葉に目を見開いた俺を見つめ———

 彼女は語る———。


 曰く、ここはとある異世界だと。

 曰く、俺がプレイしていたのはゲームでは無く、ゲームに似せて作ったもう一つの仮想世界(・・・・)なのだと。

 曰く、そこは、ある条件を満たした者にしか手に入れる事はおろか、その存在を知ることもできないと。

 曰く、そこで、更にその者達をほかのゲームと同様にプレイヤーとしてプレイさせ、その中で優秀な者を見出し、尚且つ、条件を満たす者を選出すること。


 それがあの———俺がプレイしていたゲーム…いや、ゲームだったと思っていたモノの存在意義なのだと、そう彼女は語った。


 にわかには信じがたいその話は、俺の身に今現在起こっているソレが否が応にも否定させない。


「マジかよ……」

 言うべき言葉が何も思い浮かばなかった。


「ん~マジだよ?」

 人の気も知らないで暢気にそう返す奴に無性に腹が立つ。


「で、その条件は?」


「おおそうだった!」

 彼女はわざとらしくポンと手を鳴らす。

 そのワザとらしい動作一つ一つがいちいちむかつくんだが、なんとかならないかな。

 人の気も知らないで、彼女(やつ)は「んー」なんて言いつつ口元に指をあてて唸っている。


「あ、そうそう! 君が彼女を従属したからだよ!」


「彼女?」


「そうそう!あの子———獣神だよ」


「……ふむ。なるほど、すべての元凶はアイツか…」

 まさかここに来て衝撃の事実発覚だ。

 思い返せば最初からアイツは居たんだよな。

 くそっ、俺としたことが…!


 ……やることは決まった。


「アイツを八つ裂きにすれば帰れる訳だな?」


「違うよ!? どうしてそうなったの!? 発想が物騒すぎてお姉さん怖いよ!!」


「違うのか?」


「違うよ!! 自分で振っておいてアレだけどあなたの眷属でしょ!? もっと大事にしてあげてよ!!」


 アレって俺の眷属———ああ、そういえばテイムしたんだっけか。

 そうか……俺が、自分で、あんだけ苦労してテイムしたんだよな…。

 …うん。あんな性格だって知っていたらしなかったのに。

 過去に帰りたいわ。


「なんでそこで落ち込むの!?」

 奴が何か言っているが反応する気にもならない。

 はあ、ここに来てから一番憂鬱かもしれない。


「……おい」


「いきなりおい呼びだなんて、私は君の奥さんじゃないんだぞ?」


「……」


「ごめんなさい!私が悪かったから!謝るから何か反応してよ!だからその視線は止めて!!まるで私が痛い子みたいだから…!!」


 何をいまさら。


 コホンと咳払いをする奴を尻目に俺は口を開く。


「……俺は、帰れるのか?…帰れるとして、そのためにはどうすればいい?」


「それは——————っと。時間か」

 彼女は不意にそう零すと、忌々しそうに何もない虚空を睨みつける。

 その視線は相当不機嫌そうだ。


「いやいや、分かってるっつーの。そんなヘマはしないから」

 ブツブツと何かを呟いている奴は、そのまま何事もなかったかのように背を向けて歩き出す。


「お、おい!」

 そんな彼女を慌てて呼び止めた俺に、彼女は困ったような、申し訳なさそうな顔を浮かべて振り返ると


「———そうだったね。 さっきの君の質問は……残念だけど、答える事ができない」


「なに?」

 それはどういう意味だ———問いかけようとする俺に、だけど彼女は答える事は無く———


「じゃあね。また君に出会える日を楽しみにしているよ」

 そう残して消えて行った。


「なんだよそれ…」

 呆然と零したその言葉は———


 彼女が最後に残した儚げで、触れたら壊れてしまいそうなくらいに美しく幻想的なその表情と共に、彼女が消えた虚空へと空しく響き渡った。


 そのまま少しの間ぼうっとしていた俺は、ふと我に返る。

 そしてそのまま、さきほどから微動だにしないエリスに駆け寄った。


「エリス!!大丈夫…か?」

 どうやら彼女は座ったままただ気絶しているだけのようだ。

 とりあえず彼女にけがが無い事に安堵して、流石に床はマズイと彼女を自分の膝に横たえつつため息を一つ。


「…これからどうすっかなあ」

 何とはなしに零した声だけが鼓膜を震わせる。


「……異世界に来ちゃったんだよなあ」

 未だに信じきれないその事実を噛みしめる。


「帰れるのかなあ…」

 帰りたい。

 家族に、友人に会いたい。

 少し狭いが自分の生活していたアパートに戻りたい。

 向こうの思い出を、出来事を、一つ思い出すたびにその思いは強まっていく。


「帰りたいなあ」

 その時、変化は起きた。

 思わずそうぼやいたその言葉に応える様にして、目の前の視界が突如輝きだす。


「うわー」

 そう呟いた俺は悪くないと思う。

 だって、見るからにアレだよ。なんか起きる前兆だよ。

 もうそういうのはお腹いっぱいだっての。


 そう考えている間にその輝きは強まり———それが治まった時、そこには一人の女性がいた。


「はあ、やってくれましたね…! あの女! 私の術式に細工をするなんていい度胸です!今度会ったら覚えてなさい…!」

 彼女は、そのままなにやらブツブツ恨み言を吐きながら振り返った。

 つまり俺の方へ。


「あっ……」

 一瞬の静寂。

 彼女はしまったって顔をすると咳払いを一つ。

 そして、


「試練をクリアした者達よ! 汝らに褒賞を与える。望みを言うがいい」


「帰れ」

 何事もなかった様に話し出した彼女に対して反射的にそう口走った俺は悪くないと思う。









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