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第23話

とりあえず、今の私は履修登録で死にそうです。

「……うぅ。すまない、取り乱した。今の事は…えっとその、できれば忘れてくれると嬉しい」

 あれからしばらくして。

 ようやく落ち着きを取り戻したエリスが何やら恥ずかしそうに俯き、頬を赤らめながらもじもじしつつ、おずおずと上目遣いに窺ってくる。

 そこにはもはや出会った時の様な凛とした面影はなく、ただの年頃の少女然とした姿しかない。


 だけど、その姿が彼女の本来の姿なんだろうな。

 今のエリスは、何て言えばいいんだ? そう、外行きの体裁と言えばいいんだろうか。それが無くなっているように感じる。


 まあ、人前で粗相をやらかしたらそんな事をする意味なんてないんだろうが。

 俺だったらむしろ開き直ってやるね。……いや、訂正。恥ずかしさのあまりその場から逃走しそうだ。


 なんてどうでもいいことを考えつつ、サイクロプスをインベントリに無造作に突っ込み終えた俺は頬を掻きながら視線を逸らす。

 その時に辺りに飛び散った奴の血が全て蒸発するかのように霧散したのには驚かされた。

 それをエリスも一緒に驚いていたことから、それはありえない事態だったらしい。


 試練と何か関係があるのか?

 …考えても結論はでないか。


「わかったよ。今のは忘れる———様に努力する」


「そこは嘘でも良いから言い切ってくれ!!」

 俺の言葉にすぐさま顔中を、かぁあああ———赤らめたエリスの悲鳴に近い突込みが入る。


「……今のは忘れる」


「もう遅い!」

 今度は生来から鋭い目を更にキッと吊り上げたエリスに恨みがましげに睨みつけられて怒られた。

 …何て奴だ。せっかく言われた通りに言い直してやったというのに。我が儘なやつめ。

 心中ではそう思いつつ、これ以上余計な事を言って怒らせるのは面倒だと俺は話題を逸らそうと口を開く。


「エリス」


「……なんだ?」

 不機嫌そうに鼻を鳴らしつつも律儀に返事する辺り、根は良い奴なのだろう。

 だが、短気なのはマイナスポイントだ。

 素は良いのに……もったいない。


「今、何か失礼な事を考えなかったか?」


「いや、気のせいだろ」

 なんで俺の周りはこうも鋭い奴が多いんだよ。

 あの自称乙女も鋭かったし。

 …そういや、今どうしてるんだろうなアイツ。

 まだ嵌ってんのかね。

 いや、案外抜けてあちこち走り回ってたりしてな———うわ、ありえそうだ。

 なんか嫌だな、ソレ。


 どこかで盛大なクシャミをぶちまけてるアイツが見えた気がした。

 ……アレってクシャミするのか?

 そんなどうでもいい事が頭を過る。


「聞きたいことがあるんだけど良いか?」

 その俺の言葉を聞いたエリスはすぐに表情を真剣な様子に戻し、一つ頷く。


「ああ、大丈夫だ。私もきさ…あなたに聞きたいことがたくさんある」

 その半ば予想していた通りの言葉に、サイクロプスを回収してどこか広々としたフロアを見渡し頷きを返す。


「じゃあ、場所を移そう。ここじゃ寛ぐこともできそうにないしな」


「そうだな。ここにはエルトもプッチもない。詳しい話はギルドで話そうか」

 俺の冗談めかした言葉に彼女がそう返し笑うと空気が少しだけだが和らいだ。

 まあエルトやプッチっていうのはよく分からないが、流れ的に食べ物かなにかだろう。

 ここでそれがなにかを訊ねて今の空気に水を差すほど空気が読めない訳じゃない。


 そして、話が纏まった俺たちがフロアの奥に出現した帰還用転移ボータルに移動しようとしたまさにその瞬間———


「ハイハイハイ! そこのお二人さんや! ギルドに戻る前にちょいとお待ちよ!」


「「っ!!」」

 そんなどこか気の抜けた声が俺達しかいない()部屋(フロア)に響き渡った。


 馬鹿な…!! ここには俺とエリスしかいなかった筈だ!! 感知できなかった!?


 俺は目を見開き、あらゆる可能性を模索する。

 だが、思い当たる可能性なんて今の俺には、何一つ浮かばなかった。

 あるのは現状に対する困惑と混乱。


 そんな事があるのか…? いや、俺の感知スキルは一応最大値だぞ? ありえない!


 それともここに来てから何かが変わったのか? だとしたら非常にマズイぞ…!


 慌ててその元凶から距離を取った俺たちの視界に映ったそれは———一人の女性。

 女性としては少し大きめな身長にスラリとしたその手足はモデルのようにしなやかで切りそろえられた髪は絹のようにサラサラとフロアから吹く微風に揺られている。

 だが、白地のワンピースと真っ白なピンヒールに包まれた服装からみえるその肌は———まるで血が通っていないかのように青白い。

 髪も服に劣らず真っ白で、唯一透き通ったサファイア色のその瞳だけが彼女の唯一違う色といっても過言ではなかった。

 整い過ぎた目鼻立ちと併せ持ち、その姿はまるで血の通っていない人形の様だ。


 その現実離れした人ではないような人。

 俺の手は自然と柄に伸ばされ、触れる。


「も~。そんなに警戒しなくてもいいじゃない」

 しかし、そんな見た目に似つかわしくないほどその言動は軽い。

 彼女は手に持っていた白い日傘を手元でクルクル弄びながら、何が楽しいのかクックッと笑っていた。


「別に僕は君たちを取って食ったりしないよ~?だからその手を放してくれると———嬉しいな」


「———っ!!」


 ゾクッ


 彼女がそう告げた途端、身体中を言い様のない悪寒が(さいな)む。

 その本能に訴える言い様のないプレッシャーに充てられた俺の足が、気がつけば自然と後ろに下がっていた。


「……へえ。本当だったんだね。…今なら私にもチャンスがあるのかな?」

 その事に気がついたのは彼女がソレを収めた数秒後の事。


「……何がだ」

 返事はない。

 彼女(やつ)はどこかおもしろそうに頷くと一人楽しそうに笑う。


「…何がおかしい!!」


「…ん?」

 いきなりの大声に驚きその方向に視線を向けるとそこにはそれを発した本人が相手を睨みつけながら、俺が渡したロングソードを抜刀していた。

 しかし抜刀した剣はカタカタ震えており、無理をしているのがまるわかりだ。


 そんな彼女の様子をみて、奴は興味を失くしたのか、エリスから視線をずらしてそれを俺に固定する。


「これは運命だ! この出会いに感謝を」

 彼女は腕を大仰に広げ上を見上げながら、そう何事もなかったかのように話しだした。

 その動作にどんな意味があるのかは知らないが、その目は陶酔していて、何かに憑かれているかの様な危うさがあった。


「き、貴様———!!」

 そんな相手の態度で、恐怖より生来のプライドが刺激されて怒りが上まわったのか、彼女は怒声を発しながらそのまま前に飛び出した。


「おい! 待て、エリス———」


「そうだよ~? 彼の言う通り、相手との力量差も分からずただ無謀に突っ込むのは下策……いや、わかってて飛び出したんだからただのおバカさん…かな?」

 慌てて発した俺の制止の言葉は———飛び出したエリスの目の前、それもなんの前触れもなく突如として出現した彼女が発したその言葉を前に、止めざるをえない。


「っ———!!」

 彼女は不自然に止まっている体制のまま、動くことが出来ずにいた。

 別にアイツが何かをした訳では無い、ただ、何が起こったのか理解できずに固まっているのだ。

 そして、それが意味する所を数秒遅れて理解した彼女は慌ててふり向こうとして———


「その意気は認めてあげてもいいんだけどね———次は無いよ」


「——————っ……!!」

 またも音もなく目の前に出現した彼女に、瞳を覗き込まれながら放たれたその殺気に充てられ、その場に崩れ落ちる。


 奴はそんな彼女を鼻で笑い飛ばすと、今度こそ興味を失くしたとばかりにあからさまにエリスの横をゆっくりと歩いて通り過ぎ、俺とちょうど向き合うくらいの場所で制止して、


「話は本当だったみたいだし、せっかくだから少し遊ぼうかと思ったけれど、興が冷めた。今回は止めておくよ」

 奴は足で———タンタン、独特なリズムを刻みつつため息を一つ吐く。


 とりあえず、今のコイツは敵対する気がないみたいだ。

 …こんな化け物(・・・)と戦うなんて冗談じゃない。


 こいつの動作が全く見えなかった(・・・・・・・・)


 内心でその事に安堵しつつも、俺はどんどん警戒心を高めながらさっきから気になっていたことを訊ねた。


「……さっきから言うその話っていうのはなんなんだ?」


「ん~? ああ。別に大したことじゃないから気にしないで」

 どうやら、それを教えてくれる気はないみたいだ。


「それよりさ———」

 彼女はその話には興味が無いのか退屈そうに純白の日傘をクルクル回すと、


「今の君がどうしてこんなところにいるのか、知りたくないかい?」


「なに?」


「お、今度は面白いくらいに反応したね!」

 彼女は嬉しそうにカラカラ笑いながら日傘をクルクル回す。

 その言葉に舌打ちする。

 どうやら今の反応は相当彼女のお気に召したらしい。

 奴はふふん!と得意げそうにクルクル日傘を回していた。


 どうでもいいが、さっきと回す向きが逆だ。

 偶然か? いや、どうでもいいか。


 今はそんなことより、やっぱりコイツは何かを知っているのか?

 そちらの方が優先順位は遥かに高い。

 反応してしまったので、もう率直に訊ねる事にした。


「お前は何を知っている」


「もう、そんなにガッツクとモテないゾ」

 語尾に星マークがつきそうな位にワザとらしいウィンクまでまぜてそう返され、結構イラついたが今は我慢だ。


 そんな俺の反応がお気に召さなかったらしい。

 彼女はつまんなそうに口を尖らせ、傘をクルクル回す。


「…んもう、連れないなぁ。 ……まあ、いいや。 じゃあ少しだけ、このわたくしが教えてあげよう!」

 ビシッ、指を立ててその指で目に見えないレンズをクイと上げる様なワザとらしい動作を一つしつつ、彼女は話し出した。


「まずね。君は選ばれたんだよ」

 彼女は楽しそうに笑いながら、事もなげにそう言った。














無事に入学式を終えた作者。

が、始まったら今までとのギャップに死にそうです。




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