第22話
すみません。
なんか予約投稿ができていなかったみたいです!
申し訳ない。
ひさしぶりなので短めです。
———生命の活動停止を確認。ボスは討伐されました———
———試練はクリアされました。討伐者並びに仲間へ報酬が授与されます———
俺の脳裏にあの無機質なアナウンスが流れ———いや、今回はエリスにも聞こえたみたいだ。
彼女は突如頭の中に響き渡った声にビクッと肩を震わせると、キョロキョロと辺りを警戒するように見渡す。
しかしそこには当然何も無くて、そんな今の状態を不思議そうに小首を傾げることで体現していた。
そしてそれは、そのまま俺と視線が交錯することで固まる。
「ぁ———っ……」
エリスは何かを言おうとして口を動かす。だが、何を言って良いのか分からないようで、そのまますぐに形の良い小さな口を閉ざした。
「……」
俺はそんなエリスの様子をスルーしてそのまま彼女に近づくと、口調を出来るだけ柔らめるのを意識しつつ話しかけた。
「大丈夫か?どこか怪我とかし…て———」
———ないか。そう続けようとして、しかしそんな俺の努力は空しく、紡ぎだしたその言葉は……ある一点を見て不自然に固まる。
エリスは、そんな不自然に止まった俺の声に不思議そうに首を傾げると、そのまま俺の視線を追うようにして徐々に目線を下げていき———
「なあっ…!?」
瞬時に顔中を真っ赤にさせて———パクパク、餌を求める魚みたいに口を開閉させつつ目じりに涙を湛えるという器用な真似をしながら、声なき声を上げて蹲った。
———己の下半身を隠すようにして。
だが悲しきかな、下がスカートタイプの鎧をしている所為でその動作にあまり意味は無い。
…いや、意味はあるのだろう……主にエリスの精神衛生上で。
そこまでどこか他人事のように達観している頭の中で結論付けると、俺の思考回路はあまりの衝撃からやっとの事で再起動を果たす。
それと同時にグルッ! 過去最高速といっても過言ではない俊敏さで体を180度回転させた。
そんな俺の脳裏に思い起こされるのは先ほどの衝撃的な映像。
彼女の安否を確認しようと様子を見た時、彼女の下半身は———ダメだ!!
慌てて思考を打ち切る。
きっとここから先は彼女の為にも触れてはいけない領域だ。
そして、そんな俺の脳裏に突如として過る、ふとした疑問。それは至極当たり前の事であり、おそらく誰もが考えつくであろう漠然とした素朴な疑問。
俺は今、なんて声を掛けたらいいんだ?
「……ひっぐ、グスッ」
そうやって俺が何も言えないままオロオロしていたら、そんな俺の様子を感じ取ったのかとうとう彼女は泣き出してしまったぞ…!!
より気まずい空気が辺りに漂い始める。
いくらなんでも今の彼女に接する方法を俺は知らない。
というか普通の人は知らなくて当然だと思う。
というよりそんな稀有な事例というか現場に遭遇する奴なんて皆無に等しいだろう。
だが。
俺は今、そんな宝くじで高額を当てた人の様な確率の現場に遭遇している。
これは事故が目の前で起きたのを目撃したって言う人たちよりも稀有な事例ではなかろうか。
しかも目撃者は俺一人。
野次馬はいない。
いやまあ、居たら居たでアウトだなうん…そう考えると彼女の名誉は守られた———ああ、俺が居るんだった。そう一人静かに納得する俺。
俺はそのままゆっくり目を閉じる。頭はきわめてクールだ。そう、これはまるで思考の海に埋没する探偵の様。
気分は修行をしてもうすぐ悟りが開けそうなお坊さん。
そして。
そんな中で俺は頭は努めて冷静なまま、薄く眼を開き上を見上げ仏様の微笑に応えるかのような過去最高の微笑を湛え、言った。
どうすれば良い!?
先ほども言った通り、ここには俺と彼女しかいない。
よって、他の人(この場合は彼女と同性の人)に任せるという選択肢は潰えた。というか最初から無い。
ならば警察とか———ここは異世界だった!
なら119番———だから異世界だって!!
それなら誰か携帯で人を呼んで———
だからここは異世界なんだよ!!!
俺の慟哭は一人寂しく心のうちに響き渡った。
どうやら俺は過去最高といっても良いほどにパニックになっているらしい。
自覚はあったが、個人的にはもうちょっと土壇場でアドリブが効く人間だと思っていたんだがな…。
我ながら自分の考えの少なさに絶望する。
何か、何か…!他にアイディアは———!!
そしてそのまま、俺は何かを求めるかのようにインベントリを開く。
そして目を皿のようにして探す、探す、探す……一縷の望みを掛けて探す———
そして———そんな都合の良いものはそうそうあるはずもなく、俺は今の状況に対して呆然とした。
「……うわぁ」
マズイな。
今のこの状況は非常にマズイぞ。
だが、このままじゃ埒が明かないのも事実だ。
……仕方がないか。
俺は、覚悟を決めるとそのまま後ろを振り返り今も蹲って泣きじゃくっている彼女の肩にそっと手を載せる。
「……っ!!」
エリスはビクッ 肩を震わせ、恐る恐る俺をうかがうようにして見上げてくる。
そして俺は決死の覚悟を決めながら、それは表には出さないように優しい微笑というマスクで隠し、まるで泣きじゃくる赤子を宥めすかす母親の様なオーラを纏いながら告げた。
「大丈夫だ。俺が墓までもっていってやる」
「…っ!!うわあああああっ…!!」
彼女は更に大声をあげて泣き出した。
おかしいな。
会心の出来だと自負していたんだが。
どこで間違えたんだろう。
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