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第18話

ちょっと短めです。

 ォォオオオオオオオ!!


 サイクロプスの咆哮が辺りに響き渡った。

 その咆哮はビリビリと大気を震わせ俺達の耳朶を震わせる。


 俺は背中に伝う嫌な汗を感じながら苦笑する。


 これはゲームでは味わえなかった感覚だ。

 ゲームの様なグラフィックで作られたようなどこか作り物に感じる———そんな存在ではなく、圧倒的な威圧と殺気が……奴は本当に存在していると、実在しているのだと、奴の存在感を如実に伝える。


 ———あんな奴の攻撃を喰らったら死ぬ。


 そう思わせるものが奴からは放たれていた。


「あ、あれはサイクロプス!?なぜだっ……なぜ…」

 エリスが愕然とした表情を浮かべ、掠れた声を漏らす。


「…エリス?おい、大丈夫か?」

 エリスの様子がおかしい。

 コクリと喉を鳴らし、顔は心なしか青ざめていた。

 先ほどまでのボスに臨む威勢はどこにも無く、遭ってはいけないモノに遭ってしまった———そんな表情を浮かべている。


「サイクロプス…ははっ。まさかAランク探索者がレイドを組んでも被害が甚大な魔物がお出ましとはな……私の命もこれまでか。短い人生だったな……申し訳ありません姉上。先立つ不孝をお許しください」

 その言葉はもう自分の生を諦めている発言みたいで———俺は嘆息する。


たかが(・・・)サイクロプス1体で何を大げさな…」

 この程度の敵、ゲーム時代なら中盤辺りからゴロゴロ出てきたのだ。

 この程度でビビる時期など当の昔に過ぎている。


 しかしそれはゲーム時代の話。


 ———今もその程度の敵だと、舐めてかかるのは危険か。


 そうエリスの言葉と、先ほどのゲーム時代では感じる事の出来なかった感覚を元に、そう判断を下す。

 Aランク探索者という基準はゲーム時代に無かった為に良く分からないが———聞く限りだと相当な熟練者たちが束になってもキツイ相手だという事は分かった。


 今は状況が状況なだけに用心するに越したことはない。

 もしかしたらゲームとは違って本当にヤバい相手なのかもしれないのだ。


 だが、それはそれ、これはこれだ。

 俺はエリスの言葉を聞き、あからさまなため息を吐いて見せる。


 そう結論を出した事など知らないエリスは俺の言葉とため息を見て、つり目がちなサファイア色の瞳を更に()り上げて激昂(げっこう)する。


 そんなエリスを見た時の俺は美人は怒ると結構迫力があるという話は本当だったのか、等と比較的どうでもいいことを考えていた。


「たかが…だと?それは本気で言っているのか!?相手はあのサイクロプスだぞ!?勝てる訳がない!!」

 エリスのその言葉を聞いた俺はむっとする。


「エリスが言う‘‘あの‘‘ってのは知らないが———本気で言っているに決まっているだろ。お前こそ戦いもせずに何でそんな事が言える?あんな‘‘雑魚‘‘程度に何をビビってんだよ?」


 そんな俺の態度と俺の言葉に———言葉は理解できずとも、馬鹿にされていると理解したサイクロプスは怒りの咆哮をあげ、右手に持った成人した男性よりも太い棍棒を振り上げながら突進してくる。


 ———思ったより早いな。


 ゲームの時よりも動きに無駄がない。


「ひぅっ」

 エリスはサイクロプスの形相とそれがかなりの速度で迫って来るのを肌で感じ、先ほどまでの怒っていた表情を恐怖に染まった表情に変えて、可愛らしい悲鳴を上げた。

 その背は先ほどまで魔物相手にひるまず盾を(かざ)していた時の様な大きく頼もしい背中ではなく、年頃の少女がする様なとても儚く小さい背中だった。

 目を閉じてプルプル震える姿は本人には申し訳ないがとても可愛らしい。


 そのあまりのギャップに俺は状況も忘れて絶句する。


 何この可愛い生き物。

 やばい。物凄く庇護欲をそそる。


 これがギャップ萌えって奴なのか———?

 不謹慎にもそんな事を考えてしまった。


 ———馬鹿か俺は。


 こんな時に何を考えている。

 エリスは本気で怖がっているんだ。

 それに対して抱く感情ではないし、今はそういう状況でもない。


 だが、その時に思ったこの感情は大事にしたい。


 ———絶対にこの子(エリス)を守る。


 年頃の女の子が怖い目に遭っているのに不謹慎な事を考えたという負い目も少しはあったのかもしれない。

 でも、この気持ちに偽りはないと思う。


 だから———


「ガァアアアアア!!」


 ゴォオオオオ!!


 暴風となって荒れ狂うサイクロプスが振り下ろした一撃を、【身体強化】で上げた身体と相棒の塵芥で難なく受け止め、目の前の光景を見て驚いて固まっているエリスに茶目っ気たっぷりな笑顔で笑いかけながら俺は告げる。


「な?俺が言ったことが正しかっただろ?」


 ———この子(エリス)は俺が守る。


「あっ———」

 エリスはそんなコクランの表情を見て息を呑んだ。











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