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第17話

 ボス部屋へ突入した俺たちは先ほどの勢いはどこへやら、立ち止ってそれを見上げた。


「あ、あれが…この階層の、ボス?」

 エリスが驚愕の表情を浮かべながらも紡ぎだした言葉が疑問符を浮かべてしまうのも仕方がない。


「なんだ…?あれは」

 かくいう俺も例外ではなく、そのボス(?)を見上げて戸惑っていた。


 見た目は振り子時計を大きくして、その周りに色々な装飾が施された外見をしている。

 だが、その振り子時計は指針も振り子も動いておらず完全に沈黙していた。

 辺りに響くのは俺とエリスの微かな息遣いと装備品から出る僅かな音だけ。


 俺がそれを見つめていると情報が表示された。


<戯神プァルプンテ:アイン>

等級:不明

ランク:不明

備考:使徒。試練を課す代行者。試練を乗り越えた者に恩恵を与える。

スキル:???


「ぎ…しん?」

 俺が呆然として呟くその声が切っ掛けとなったのか、戯神プァルプンテは動き出した。


 ギィ…と油を注していない機械音をかき鳴らしながらゆっくりと、だが確実に。

 徐々にだが早くなって行く時計の針は回転を始める。

 次いで振り子がゆっくりと動き出した。


 ボーン…ボーン…


 辺りに響き渡る振り子時計が鳴らす鐘の音(アラーム)

 そして時計が半分半ばからひび割れて行き、そこから大きい一つの眼がギョロリと姿を現す。

 その眼は何かを探し求めるかのように忙しなく辺りを見渡し始め———その眼球が俺達を捉えた。


「「!!」」

 俺たちは油断なく武器を構えて相手を見据える。

 警戒をしながらも俺はゲームで培った経験を生かして心を落ち着かせると、頭を回転させながら情報を分析し始めた。


 まず、ゲーム内では無かったランクという表記。


 たぶんこれはボスの格———つまり強さを現す表記なのではないかと思う。

 これでもゲームをたくさんやって来たんだ、ゲームでランクと言えばそれ位しか俺には思いつかないしその可能性が高いだろうと思う。

 いや、その言い方だとおかしいか…俺が知っているゲームのシステム(・・・・)が入った異世界(・・・)、だな。


 だからそう仮定しておく事にする。


 ランクと等級の違いは、たぶんランクがその強さで等級が種別だと思う。

 今まではその種別や備考が俺達の分析できた表示だったからな。


 当然スキル表記なんて攻略サイトも真っ青な情報は無かった。

 そう考えると今のこの能力はとても助かる。

 まあ、???と出ていて何のスキルなのかは見えないのだが。


 次に、ゲーム内でこんなボスの情報はあったかだが……ない。

 では固有(ユニーク)?まあ、見た目もユニークだから可能性は高いだろう。


 固有(ユニーク)ボスは例外を除いて基本的に一体しか存在しない為、情報が少ないのだ。

 だからもしかしたら居たのかもしれない。

 だが、俺の中でこんな奴と遭遇したという情報を聞いたことは無かった。


 まあ、横に表示された等級には不明と出ていることからそもそも固有(ユニーク)とは違うのかもしれない。


 そして名前の横にあるアインという表示。


 アイン……ああ、数字の1か。

 という事は他にも居そうだな。


 そこまで考えた所で俺の思考は止まる…(いな)、止めさせられた。


 それは聞き慣れた例のアナウンスが聞こえてきたからだ、

 出所は目の前の振り子時計。

 だが、いつもの機械的に淡々と告げる口調ではなく、その声には意志が宿っていた。


———条件は満たされた。故に(なんじ)に課そう———


———我が名はアイン。試練を課す代行者———


———世界を渡りし者よ。(なんじ)はこの試練を乗り越えられるや?———


「何だと?」

 その言葉に自然と声が漏れる。


「コクラン?」


 聞き捨てならない言葉だ。

 世界を渡りし者って…俺の事だよな?

 じゃあ、これはゲームとは関係ない事になる。

 俺が今一番知りたいことを知っている可能性のある奴だ。


 どうする?


 今ここでそれを尋ねる?


 ちらと横を見ればそこには出会って間もないとはいえ、ここまで共に来た仲間(エリス)が警戒しながらも俺を怪訝そうに見ていた。

 そいつの目の前で尋ねるという事は知られるという事になる。

 別に信頼していない訳じゃないが、信用しきるには一緒に過ごした時間は短い。


 だが、ここで尋ねなければもうチャンスは無いかもしれない。


 しかし情報が少ない今、こんな所で変に考え込み過ぎるのも余り良くない気がする。

 それに少しとはいえ、ここまで共に背中を合わせて来たのだ。ある程度の人となりは分かった気がする。

 それに条件はあっちも同じなんだ。

 あちらからすれば俺こそいきなり現れた怪しい奴だろう。


 あぁもう…ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃないんだ。

 もう……なるようになれだ。


 胸中でそうぼやいた。


「エリス」


「…なんだ」

 俺の呼びかけに沈黙しているアインを油断なく見据えながらも俺を見るエリスに言った。


「出会って間もない俺を信じろというのは難しいのかもしれない。だけど今は俺を信じてくれ」


「コクラン?」

 エリスの怪訝そうな声を聞き流しながら俺は何のアクションを起こす事もなく俺達を…いや、()を静かに観察している様に見えるアインに問いかける。


「なあ、質問していいか?」


———考え事はまとまったか。世界を渡りし者よ———

 ギギギィ…と錆びた機械音を上げながらアインは答えた。


「っ」

 その言葉に反応するのを堪える。

 やっぱり待っていたのか。いや…待っていてくれたと言った方が良いのか?


「ああ、おかげ様でな」


「なっ!?」

 側でエリスの絶句した声が聞こえたが無視して続ける。


「聞きたいことはたくさんあるが———これだけは確認したい」

 俺のその言葉にアインは楽しそうな雰囲気を滲ませた。


———許そう。世界を渡りし者よ———


「ここは俺が居た世界とは違う異世界なのか?そうだったとして、帰れるのか?」

 俺の質問にアインは時計の中心にある眼を細め、笑う。


———その質問の答えを聞きたくば、資格を得て我が主に直接尋ねよ———


「なっ———」

 俺は絶句した。

 だが、それは半ば予想していたことでもある。

 そもそもコイツが答える保証はどこにもない。


 考えたくなかった可能性の一つが的を射た、それだけの話である。


———主の命により初回はサービスせよとの言でな。だがそれも終わりだ———


「!!———待て!それはどういう———」

 意味だ!そう言おうとした俺の言葉を遮りアインは告げる。


———真相を求めるのであれば、見事試練を乗り越えて見せよ———


「「!!」」

 瞬間、視界を覆い尽くす光がアインから放たれた。


 眩いばかりの光の奔流が収まると、そこにはアインの姿は無く、代わりに(もや)の様な物が渦巻いていた。

 その靄は収束し始め、ゆっくりと何かの形をかたどっていく。

 靄はどんどん肥大していき、徐々にその全容が顕になっていった。


 そして靄が晴れると、そこには一体の巨人がいた。


<サイクロプス>

等級:不明

ランク:A

備考:一つ目の巨人。常に血に飢えており、強者を求め彷徨う戦闘狂。その腕から繰り出される攻撃は相手を粉々にする力がある。

スキル:【薙ぎ払い】【身体強化】【威圧】【バーサーカー】










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