第15話
2話同時投稿です。2話目。
「なぜ起こしてくれなかったのだ……」
目が覚めたエリスはぶすっとして不機嫌そうに怒っていた。
「いや、だから気持ちよさそうに寝ていたからだって言っているだろ?」
この何回も繰り返される問答にウンザリとしつつも、俺は律儀に返答する。
「おかげで疲れは取れただろう?」
「いや、それはまあ、確かにそうなのだが……!コクランが休めていないではないか!」
自分だけ休んでいた後ろめたさからか、申し訳ない表情を浮かべながらもエリスは不満そうに唸った。
「だから俺は平気だって。慣れてるし」
ゲーム時代の徹夜でな。
口には出さずにそう答える。
まあ、実際一睡もしていないのにも関わらず、俺に疲れは無かった。
あの徹夜独特の気怠さも無い。
寧ろ体力が有り余っており、間に軽食を食べたくらいだ。
大体あれから8時間くらいは経ったんじゃないか?
相当疲れが溜まっていた様でエリスはぐっすりと気持良さそうに寝ていた。
堅い床を枕に、よくもまああんなに幸せそうに眠れるものだと感心するくらいには気持良さそうだったと言っておこう。
そんだけ寝ればバッチリだろう。
エリスの起きた時の「そろそろ交代時間か?」は傑作だった。
思わず笑ってしまい、訝しんだエリスに問い詰められて今に至るという訳だ。
まあ、それも朝食用に出した<ミックスサンド>を食べたら一発で直ったのだが。
単純で助かった。
食休みを挟んで道具を片付け(主にエリスが、俺は何も出してない)立ち上がると俺はエリスに振り返る。
「さて、ボスに挑む前に確認しておくが、エリスはそのロングソード以外に使える武器はあるか?」
「む?一応槍を扱えるが、個人的にはロングソードが一番扱いなれているな」
エリスは訝しんでいたが素直に答える。
「そうか」
じゃあ、これで行くしかないか。
もし他に得意武器があるのなら戦術の幅を広げられたのだが、まあ、これはあまり期待していない。
一応念の為の確認という奴だ。
「それと、言っちゃ悪いがその武器じゃ火力が不安だからこれを使え」
「これは?」
「等級は生憎と固有だが、ロングソードだ。このスキルが一番エリスに向いているだろうと思ってな」
【執念の結晶】
等級:固有
備考:持ち主の相手に対する憎しみを取り込み過ぎた剣が変化した物。敵対した相手への膨大な憎しみが攻撃に加算される。受けた分だけ威力は向上する。
固有スキル:復讐の心
効果:受けたダメージを吸収し解き放つ。ダメージを受ければ受けるだけ威力は増大される。カウンター型。
「た、ただでさえ盾が…こ、こんな物受け取れない!」
慌てて突き返すエリス。
何を今更。
「これは戦力増加の為だ、使え。それともその剣には何か有用なスキルが付いているのか?」
「い、いや。そう言う訳ではないが……ってスキル!?」
この世界ではスキルが付与されている武器等そうそう出回らないという事をコクランは知らない。
故にゲーム時代のノリで普通に渡したのだった。
その時のエリスはスキル付きの武器と聞いて内心パニックになっていたのだが、コクランには知る由もなかった。
何をスキルごときで、と未だに渋るエリスを良いからと押切って渡すと、俺は腰に刺している相棒を見つめる。
ランダム部屋と聞いたからには用心するに越したことはない。
俺はエリスが寝ている間に、ゲームとの差異を思い付く限り徹底的に検証し、そしてゲーム時代にできなかった事を色々と発見した。
その時にこっそり部屋から抜け出して(もちろん警戒は怠っていない。近くの魔物で)色々試した。
まあ、それをエリスに言うつもりはないが、とりあえずエリスには新しい相棒の慣らし運転を兼ねてこれから少し魔物を狩ってもらう。
その時に新しい連携も身に着ける。
それからボスだ。
「じゃあ、それに慣れて貰うためにも、適当に狩るぞ。俺も新しい戦い方を色々試してみるから。新しい連携も試してみて問題なかったら、いよいよボスだ」
「う、うむ。この武器に見合う働きを出来るよう、誠心誠意努力しよう」
エリスは何かを決意した表情で頷く。
よし。
「じゃあ、行くぞ!」
ちょうど近くに魔物の反応がする。
こいつ等には悪いが犠牲になって貰おうか。
エリスは最初魔物を感知できることに驚愕していたが、今は慣れたもので素直にそれに従う。
俺たちはその反応に向かって歩き出した。
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「ハアッ!」
今まで【淵源の盾】で防いで溜まったダメージを攻撃に変換し、それを纏った【執念の結晶】がうっすらと黒い粒子を放ち始める。
それをエリスはガイコツ(大剣)に向かって振り下ろした。
ドゴォオ!!
凡そ剣が放つ音ではない轟音を響き渡らせ、残った最後のガイコツ(大剣)は当たりに骨をを撒き散らしながら粉々に散っていった。
「ふう……」
「お疲れ様」
戦闘が終了し、息を吐き出したエリスに近づいて労いの言葉を掛ける。
「何度試しても凄いスキルだ。最後のこの一撃は使っていて癖になりそうだ」
ちょっと危ない事を口にしながらエリスは微笑を浮かべる。
「そうか。それは何よりだ」
19階層をあえなく突破し、20層にて、あれから数えるのも馬鹿らしくなるほどの魔物を屠り、新しいスタイルも連携も実用的と言って良いくらいには身に付けたと思う。
新しく出て来た影に入って死角から攻撃してくるシャドーウルフや2メートルはあろうかという大きさのオークなんかも新たに出てきて苦戦はしたものの、今は問題なく狩れる。
おかげでこの階層の魔物は全て余裕をもって狩れるようになった。
体力の消費も最低限。
もう良いだろう。
「さて、これだけやれば大丈夫だろう。……行くか」
魔物をインベントリに片付けながら問いかけるとエリスも自信たっぷりに答えた。
「ああ。油断はできないだろうが、これなら行けそうだ」
片付けが終わり、休憩を挟んだ俺たちはボス部屋へと向かった。
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目の前には幾何学的な模様が描かれた荘厳な門が聳え立ち、俺達を睥睨していた。
見る者に畏怖を抱かせるその佇まいから自然とゴクリと唾を飲み込んでしまう。
見慣れている筈なのに、明らかにゲームの時とは違う異質な気配。
これはゲームでは再現などできないであろう。
「遂に来たな」
短く問いかける。
「ああ」
簡単な返事が返ってくるだけだ。
だがそれでいい。
「準備は出来たか?」
「大丈夫だ」
「そうか」
ここに来てこれ以上の会話は不要だろう。
じゃあ———
「行くぞ」
開きだした門は新しく来た獲物を歓迎しているように歓喜の声を上げた。
そこから漂う圧倒的な存在感。
俺たちはボス部屋に突撃した。
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