第13話
<ダックルの照り焼き>を食べて幸せそうにしていたエリスは、満足したのかそれから直ぐに寝息をたて始めた。
薄そうな毛布を鎧越しに巻いているが、あれで疲れは取れるのだろうかとぼんやり考えながら俺はステータス画面を表示する。
一応3時間で見張りを交代するという事になったのだが、よっぽどの事が無い限り起こすつもりはない。
俺があれだけ動いて全然疲れていないというのも理由の一つだ。
明らかにゲームの時よりスタミナを消費している筈だと、途中でスタミナポーションを飲もうか迷ったが、この際限界まで試してみようと思い、飲むのを止めたのだ。
まあ、少しでも兆候が出始めたら飲むことにはしている。
あくまで兆候が出るまでという意味で限界だ。
例え現れなくても万全を期してボス部屋の前には飲もうと思っている。
エリスは一人で居たことを考えるに、ここ最近碌に休めていなかったのではないか。
仲間が一人増えた安心感からかとても気持良さそうに、無防備に寝息をたてていた。
………。
俺が言うのもなんだが、あれは幾らなんでも不用心すぎじゃないか?
普通、会って間もない奴を目の前にして安心しきって寝るか?
こんな短時間で人を信用し過ぎじゃないか?
PKに遭っても文句は言えないぞ?
罠の可能性くらい考えろよ。
近くに仲間が待機していたらどうする。
一瞬考えただけで言いたいことがこんなにたくさん出てくる。
もっともそんな事をする気は端から無いんだが。
だがそれは結果論だ。起きたら注意くらいしておこう。
いくらなんでも不用心すぎるぞ。
……というよりここって、まだゲームの中なんだよな?
俺が兼ねてよりずっと悩んでいる事。
我ながら馬鹿らしいとは思うが、一概に否定もできない。
いや、もう否定する方が難しくなってきているのも確かか。
本物と見分けがつかない、いや、寧ろ本物としか言いようのないリアルな血のエフェクト、そしてあの鼻を衝く臭い。
ステータス画面に起こったバグの数々、そしてログアウトボタンの消失。
フレンドは皆ログアウト状態…オンラインゲームで?そんな馬鹿な。
周りの建物や音、嗅覚、肌を撫でる様な、リアルでしか感じえない空気の感触。
どれも全てゲームのグラフィックっぽい所が感じられず、本物みたいだ。
俺は自分の身体中を触ってみる。
その感触はおれが知っているゲームの時よりも、比べるのが馬鹿らしくなる程に、遥かにリアルだった。
寧ろ本物の自分の体と遜色ない。
「はぁ…。夢落ちって線は―――ないか」
そんな風に楽観視できないのはさっきまでの行動全般で思い知った。
その線は薄い。
というよりもだ。
「ゲーム内って寝る必要性無かったんだよな」
まず中で寝た場合、脳が感知して自動的にログアウトされる筈だ。
その線もさっきまでは俺も考えていたのだが、目の前のエリスが実践してしまった。
結果はいつまで経っても消えない。
まあ、エリスがプレイヤーじゃないからと言えなくもないが、これはその内自分でやる時が来るだろうからその時に試せばいい。
俺はステータス画面を今度はゆっくり一つずつ見ていく。
最初の時はゆっくり見ていなかったからいい機会だ。
まずは、無事だったインベントリ内から無難に見ていく。
自分の覚えている限りでアイテムが消えていないか、そのアイテムにバグはないか、説明文に変更はないか、見覚えのないアイテムが―――あった。
俺は直ぐにそれを選択して説明文を読む。
<大地の宝玉>
等級:不明
支配色;黄
備考:大地の力が篭った宝玉。王を屈服せし者のみが持つことを許された証。他に白、黒、青、赤、緑、無がある。全てを集めた者が****に会う資格を得る。
「……なんかのイベント様か?何言ってんのか全然解らん」
とりあえず、これの他にも後6個あるのは分かったが。
つーかここの****に会うって伏字はなんだよ。
肝心な所がダメじゃねえか。
支配色ってのはよく分からないが、まあ色の事だろう。
これってネメア戦で倒した時のドロップアイテムだっけ?何かのイベント様だったのか。
本当の事は運営にしか分からないだろう。
まあ、とりあえずこれは保留だな。
次にスキル画面だ。
まずエラー表示の物をタップしてみる。
何も起きない。
ただエラーが出るだけだ。
スクロールして無事な物を探す。
ほとんどバグっていてエラー表示が出る中、何個か無事な物を見つけ、その内の一つをとりあえずタップしてみる。
するとこんな画面が出て来た。
スキル【陽炎】
このスキルは****していません。
バグらせますか?【YES】―――【NO】
「は?」
自然と声が漏れる。
「……この選択肢はなんだよ」
このふざけた文面はなんだ。
というよりまた伏字かよ。
つーかシステムが進んでバグらせるとか訳わかんねえ。
何だよこれ。
もしかしてこのバグって意図的なのか?
思わずこの画面を睨んで考え込んでしまう。
…とりあえず押してみた方が良いのか?
………。
いや、今はまだ止めておこう。
スキルが使えなくなるのかもしれないし。
何よりも情報が足りない。
次に称号画面だ。
称号とは持っているだけで効果を発揮する特殊な物の事を差す。
例えば、【力持ち】という称号を持っていた場合、筋力値に補正が入ったりする。
入手方法はそれぞれで条件があり、それを満たしたものが手に入れることが出来る。
この称号補正値は何個でも重ね掛けできるのでいくらでも持っていて損は無い。
中には固有もある為、自分だけの称号を持っている者は少なからず居たりする。
ただ、中には外れ称号といって持ち主に害を齎すクソ面倒くさい奴もあるから注意も必要だ。
その場合は神官に解除してもらうか条件を満たして対抗称号を手に入れるか、解除条件を満たして消すかしなければならない。
そんな称号画面でアイテム同様ネメア戦で獲得した称号を探した。
まだ効果を確認していなかったからな。
あ、スキルもまだだったな。
だが、あんな画面を見た後だ、後回しで良いだろう。
そして見つけた。
【王を打ち倒し者】
種別:固有
備考:王を打ち倒した者にだけ送られる特別な称号。
効果:条件を満たしていない為、閲覧できません。
幸いバグってはいなかったが、全然分からなかった。
獲得したのに条件を満たしていないって矛盾しているだろう。
まあ、一応【固有】だって分かっただけ良しとしようか。
そしてもう一つ。
【単独攻略者】
種別:固有
備考:単独で王の迷宮を攻略した者に与えられる特別な称号。オン・オフ可能。
効果:限界突破
状態:オフ
限界突破?なんだよそれ。
……気になるな。
オンにしてみるか?
そう考えた瞬間、突然止めておけという予感が頭の中を駆け巡った。
……これは警告か何かなのか?
とりあえずその予感に従っておく事にする。
今は分からない事だらけだし慎重に行動するに越したことはない。
そうやってステータス画面を閉じようとした俺の視界にそれは映った。
称号一覧の一番下、数々のバグ称号の中でそれは異彩を放っていた。
その称号にはこう書いてあった。
【異世界を渡りし者】
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