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第11話

「グルルァア!」


「フッ!」


 ガキィッ!


 エリスがダークウルフの攻撃を盾で受け流す。

 攻撃を受け流されたダークウルフはバランスを崩した。


「ガァアアッ!」

 だがそこに追撃を掛ける暇はなく、次のダークウルフがエリスに襲い掛かる。

 それらを危うげなく対処しているエリスを横目に、俺はバランスを崩したダークウルフに迫る。

 

「シッ」


 ザンッ…


 俺が振り下ろした塵芥でダークウルフは声を上げる間もなく息絶えた。



 俺たちはあれから直ぐに移動を開始した。


 二人とも前衛ポジションだった為に連携を考えなければならず、今はその確認がてら色んな魔物を狩って様々なスタイルを試していた。


「これでラスト!」

 エリスが受け流し、体勢を崩したダークウルフに俺が止めを刺して戦闘が終了した。


「……ふう。コクランが居るだけでこうも楽に狩れるとはな。先ほどまでの苦戦が嘘みたいだ」

 エリスはそう言って笑う。


 この呼び方なのだが、最初は俺の名前を呼ぶ度にエリスは顔を真っ赤にして変な動きをするので大変だった。

 今は戦闘を経るに連れて普通に呼ぶことが出来るようになったが、そうなるまでが本当に長くて非常に面倒くさかったと言っておこう。

 まあ、俺もエリスほどじゃないが最初は少し恥ずかしかったからそこについては触れないでおこうと思う。


 それはともかく。


「いや、エリスの腕が良いからだ」

 エリスはパーティー戦でこそ真価を発揮する所謂(いわゆる)重戦士(タンク)の才能があるようで、あの猛攻を掠り傷負う事無く、それどころか余裕を持って対処していた。

 俺が駆けつけた時は盾を失っていたから苦労していたのだろう。

 ここまで(さば)ける奴なんて上級プレイヤーにも余りいなかった。


 こう言えばその凄さが伝わるだろうか。


「い、いや私なんてそんな……!」

 エリスは褒められ慣れていないのか顔を赤くすると照れた様に謙遜する。 

 その姿を見て俺は目を保養する。

 何というか血生臭い戦闘の後とは思えない雰囲気である。


「とりあえず今のが一番良いスタイルなのかもな……」

 そのままダークウルフの死体を回収しつつ俺はエリスに話題を振る。


「…そうだな。私が捌いてその間にコクランが倒す。一番早くて確実だ。それに―――」

 この盾もあるしな。

 そう呟いてエリスは手元の淵源(えんげん)の盾を眺める。


 それはエリスの手元に違和感なく当て嵌っていた。

 まるでそこが自分の本来居るべき場所だとでも主張するかのように。


「まあ、俺の手元で何もしないで(くすぶ)っているよりかはエリスに使って貰った方がソイツも喜んでいるんじゃないか?」

 本来なら、ネメア戦の後にギルドホームへ帰ってこの盾をウチの鍛冶担当に売り渡す所だったのだ。

 法外な値段で吹っ掛けて。


 今はそれどころか、ちゃんと帰還できるかも怪しいけどな。


 とりあえずここから出てみないと判断できないし、まだこれは保留だ。


「…その、コクランには悪いのだが、この盾、凄い馴染むんだ。正直前の奴より相性が良いと思う。あ、勿論ちゃんと返すぞ!こんな高価なモノを買いとるお金なんてないし……あっ!いや別に買い取ろうとか思ったわけではないとも言えないが……と、とにかく!ちゃんと迷宮を出るときに返すからそこは信用してくれ!」

 慌てて(まく)し立てるエリスを尻目に、俺は先ほどから考えていたことをエリスに話した。


「いや、それはエリスにやるよ。まだ出会ってそんなに経ってないが、エリスの人となりを見て渡しても大丈夫だと判断した。それにお前に馴染んでいるし、エリスが使った方がそいつも喜ぶだろう」


「なっ……!?」

 エリスは俺の言葉に絶句し、次いで嬉しそうに綻ばせようとした自分の顔をハッとして抑え頭を振りつつ顔を元に戻す。

 そんな器用な事をしながらエリスは慌てた。


「い、いや、流石にそれは不味いだろう。こんな高価な物をそれこそ出会って間もない他人に渡すなど…。それに仮に貰ったとしても私には払う対価がない。……私が身も心も捧げても釣り合うどころか足りないだろうし」

 自分で言ってて恥ずかしいのか、俺から自分の体を隠し頬を羞恥に赤らめる。


「い、いや。それで釣り合わないって―――」

 さすがに言い過ぎだろう。

 そう言おうとした俺の言葉を遮ってエリスは話し出す。


「い、いや!足りないだろう。仮にも伝説(レジェンド)級だぞ?本来神話でしか出て来ないような物だぞ!?私だって本物を見るまではそんな物お伽だけの話だと思っていたのだ。しかもその能力は国宝級でも聞いたことがない。いや、そもそもそんな物に値段を付けることが間違っているのだ!だ、だから受け取る訳にはいかない」

 エリスは先ほどの自分の言葉を引きずっているのか、やや上ずった声をあげて説明する。


 そう言われてもなー。


 本音としてはたかが伝説(レジェンド)級なのだ。

 これでも古代(エンシェント)級を渡していない分自重しているつもりだ。


 というか、今の話を聞く限りそれって凄いな。

 もし本当だったとしたら、俺のインベントリの中で肥やしになってるコイツ等、出したらどうなるんだろうか。

 ちょっと見てみたい気もするが、さすがにそれはやばそうなので自重しておく。


 上級プレイヤーになってくると自然とそういった等級の物との出会いも自然とあって、あまり珍しくも無くなってくるのだ。


 まあ、出会える確率は低いのだが。


 それでも括りが上級に入っている奴は最低でも一つは持っているだろう。

 まあ、上級の括りに入っている奴らが少なかったのもある。


 ほとんどのプレイヤーはせいぜい中堅が限界で、俺たちの領域に足を踏み入れるには固有(ユニーク)スキルや固有(ユニーク)称号などが最低でも必要になってくる。

 その為にはそれらを手に入れる、数値には現れないリアルラックも必要になる。

 要はそういう事だ。


 当然俺も例に漏れず持っていた。


 今はバグで残っているのかも怪しいが。

 いや、スキルも発動の仕方が変わっていたがあったのだ。

 これもその内試さねばなるまい。


「まあ、俺が良いって言っているんだし使えよ」


「しかし……!」

 尚も納得のしていなさそうエリスにため息を吐く。


「今の俺たちは、急場だがパーティだろう?仲間の生存率を上げる為にも必要なんだよ」

 その俺の言葉にエリスは「仲間……」とか何かを噛みしめる様に呟いてそれなら仕方ないな!とさっきまでのやり取りは何だったんだって程に機嫌がよくなり嬉しそうににへらっと笑う。


 その顔は普段とのギャップもあって少し見惚れてしまう程、可憐だった。


 俺はそれを気づかれないように表情を引き締めると歩き出す。


「ほら、さっさと行くぞ」

 

「あ、待ってくれ!」

 エリスが慌てて付いて来る気配を感じつつ俺は先ほどから懸念していることを考える。


 今はまだ、敵も比較的弱いから何とか複数で攻められても大丈夫だが、俺の経験からすると圧倒的に手数と火力が足りない。

 これから先の階層に進むに当たって今よりもっと強い魔物が、おそらく出るだろう。

 そう考えると大多数で攻められた時、危険だ。


 俺一人だったら最悪逃げ切れるが、それも今は難しいしな。

 エリスが決して弱い訳では無いが、やはり敵を倒すのに時間が掛かりすぎる。

 仲間が出来て俺の本来の戦い方が出来ないのも痛い。


 どうするべきか。


 それからほどなくして、次の階層への階段が見つかった。












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