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第10話

「ただの迷宮探索者が伝説(レジェンド)級の盾を持っている訳がないだろう……」

 俺の返答を聞いた女騎士は深いため息を吐いてジロッと俺を見る。


「……確かに」

 あまりにも正論過ぎて思わず同意してしまう。


 そんな俺をジトッとした目で見てくる女騎士。

 俺は慌てて取り繕った。


「いやいや、偶々(たまたま)そう!偶々固有(ユニーク)ボスを倒して手に入れたんだって!」

 うん、嘘は言ってないぞ。

 遭遇したのは偶々なのだ。

 迷宮アルカナの通路に見た事もない場所を見つけて興味本位で入ってみたらそいつが居たんだ、うん。


「いや、そもそも偶々で固有(ユニーク)ボスは倒せるものでは無いのだが……」

 固有(ユニークボス)とは、魔物が突然変異を起こした個体で基本的に1体しかいない魔物の事だ。

 倒せばその強さやランクに応じて世界でたった1つだけの、自分だけのアイテムが手に入る。

 それは武器だったり防具だったり、あるいはスキルや称号、果てはアイテムだったりする。

 それはどんなものであれ、多かれ少なかれ強大な力を持ち主に与える、ゲーマーなら涎物ばかりだ。

 

 だがその分固有(ユニーク)ボスは他の魔物やボスに比べてかなり強く設定されている。

 そして遭遇確率も極めて低い。

 見つけたらラッキー、倒せたらもっとラッキーだ。


 だが、単独(ソロ)で倒せる程甘くない為、見つけたら親しく信頼できる奴に連絡を取ってパーティーやレイドで挑んで倒すのが普通である。

 その理由として、ドロップアイテムに限りがある為絶対に仲間内で揉める事があげられる。

 これは基本的に抽選やパーティー内の役職に従って融通しあったりする。

 だが、そこに大して親しくもない奴が入ったらどうなるだろうか。


 絶対に揉めるだろう。

 寧ろ揉めなかったら奇跡である。

 争いに発展するのも珍しくない。


 だから、暗黙の了解として固有(ユニーク)ボスは見つけた奴が早い者勝ちで倒すことになっている。

 そして、それは俺も例外ではない。

 廃人を自称するだけはあって結構ステータスには自信があったりする。

 だから俺は、固有(ユニーク)ボスを含めてそういう争いを嫌ってよっぽどの事がない限り皆単独(ソロ)で挑んでいた。

 ゲーマーとしてアイテムを独占したいという感情もないとは言わない。

 男はそういう自分だけの物にロマンを感じるのである。


 まあ、それでも単独(ソロ)で倒せるほどやりこんでいる奴はそうそう居ない為、俺が例外として扱われているのは確かだ。

 単独(ソロ)で戦えるのには固有(ユニーク)スキルや称号を俺が持っているのも大きいと思う。


「え!?」

 そんなことを忘れて、ついフレンドに話す感覚で話してしまった俺は内心冷や汗を流す。


 しまった…!また墓穴を掘ったか。


「えーと、あー」


「それに先ほどの貴殿の言葉を信じるなら他にも色々とあるのだろう?」


 うわー、確かに言ったな俺。


「いや、それはー、えーと……」

 まさかの追い討ちに、咄嗟(とっさ)の言い訳が思い浮かばず、パニックになる。

 まったく、迂闊(うかつ)だったかつての俺を殴りたい。


「まあ、貴殿にも色々と事情があるのだろうからこれ以上詮索はしないが、本当にこれを使って良いのか?」

 俺が何て言い訳しようか唸っていると、女騎士はそう言ってふう、と息を吐いた。

 俺はその言葉に安堵する。


「使ってくれて良いから。というかお前の為に出したんだ、使ってくれなきゃ困る」


「お前の為……そうか」

 女騎士は一人何事か呟くと、ふいっと顔を背けた。

 その横顔は心なしか赤くなっている。


 俺はまた地雷を踏んだのか?

 そんな事を考える俺を余所に、女騎士はハッとするとコホンと何かを誤魔化すように咳払いをして俺に向き直った。


「これを出会って間もない私に託した貴殿の信頼を裏切らないよう、ありがたく借り受けよう。感謝する」

 そう言って女騎士は頭を下げた。


「固い固い。もっとフランクにしてくれ」


「いや、しかし……」

 さっきの事を引きずっているのか遠慮がちな態度をとる女騎士に、俺は頼み込んだ。


「そういう堅苦しいのは苦手なんだ。普通に話してくれないか?…な?」

 そう言って俺が目を見て頼み込むと、女騎士は少し顔を赤らめて貴殿がそういうなら、と了承してくれた。


「じゃあ、取り敢えず―――そういや、自己紹介もまだだったな。俺の名前はコクランだ、よろしくな」

 名を名乗るならまず自分から。その言葉に従い俺は名乗った。


 まあ、アバターネームだが良いだろう。

 さっき見たステータスにもそう書いてあったし。


「…コクラン……良い名前だな。私の名前はエリスだ。ダークウルフをあっさり倒す貴殿では足手まといになってしまうだろうが、精一杯努力する所存だ、よろしく頼む」

 そう言って頭を下げる女騎士改めエリス。


 そう卑下するほどでもないと思う。

 事実、あれだけの数だと中堅の上位プレイヤーだって油断すると危なかったりするのだ。

 そう考えるとエリスは十分強いと言えるだろう。


「いやいや、エリスさんだって十分強いって」


「呼び捨てでいい」


「いや、えっと、呼び捨てはちょっと―――」

 見ず知らずの人にいきなり呼び捨ては難しいって。


「……ダメか?」


「うっ」

 身長が175ある俺より小さいエリスは自然と俺を見上げる形になり―――その視線に俺は負けた。


「分かったよ。俺も呼び捨てでいい。よろしくな……エリス」


「っ~~~~!!」

 俺がそう言った途端、エリスはボフンッと音が聞こえてきそうなくらい瞬時に顔を真っ赤にすると俺から顔を背け、横を向きながら小さく「クッ…!今のは何だ!?」とか言っている。


 お前こそいきなりなんだよ。


 俺の中でエリスはちょっとおかしな子になった。













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