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プロローグ 改稿版

不定期ですがよろしくお願いします。

『ガァアアアア!!』

 大気を震わせる咆哮が辺り一帯に響き渡った。

 無数の雷光が(ほとばし)り、奴の周りには無数に発光する球体の数々が浮かび上がる。

 その球体からは時折りバチバチとプラズマが放たれ、仄かに薄暗い周囲一帯を煌々と照らした。

 

 ———雷撃を圧縮した球だ。


「チィッ!」


 慌ててその場から飛び退ると、先ほどまで俺が居た場所全体に落雷が轟音となって降り注いだ。


 余波が大地を震撼させ、その余波を喰らっただけで俺の体力(ライフ)が残り2割程にまで減少する。

 だが、奴の攻撃はそれだけでは終わらず、逃げた俺を追尾するかのようにそのまま追ってきた。


 ズドドドドド!!


 俺はそのまま迫る雷の群れを【韋駄天(いだてん)】で走り抜けてやり過ごすと、相手の動作反動(ノックバック)を利用して超上級回復薬(エリクサー)を飲み込んだ。

 柑橘系特有の甘味が舌に残るのを感じながらゲージ(バー)が全快した所を確認して、眼前の敵に視線を戻す。


 予想以上の威力にチャンスを生かせず内心舌打ちしながらも、次の攻撃に備えて油断なく相手を見据える。


 今のは奴の切り札の一つ【轟雷(ごうらい)】だ。


「……ふぅ」

 自然と止めていた息を一つ吐き出しながら、俺は笑みを浮かべた。


 ―――やっと来たか。


 切り札を切ったということはあいつの体力が残り1割を切った証拠だ。


 【百白(ひゃくびゃく)獣神(じゅうしん)ネメア】


 体高5メートルを超える体躯(たいく)に、大地を踏みしめる四肢(しし)は大木よりも太い。

 口元に並ぶ鋭い牙からは更に長く鋭利な二対の牙が飛び出しており、それらを飾る黄金色の立派な(たてがみ)は王者としての威厳や風格を(かも)し出しながらもどこか気品を携えている。

 堂々と(たたず)むその姿は正しく王と呼ぶに相応しい。

 迷宮アルカナの王神の一角にして最後のボスである。 


 通常のボスとは違い、こいつには出現条件がある。


 それは迷宮内全てのボスを単独(ソロ)で撃破し、なおかつ1時間以内に最深部の【獣王の間】まで来ること。


 迷宮アルカナは階層100からなる塔型の迷宮(ダンジョン)だ。

 上に登っていく仕様で、5層に中ボスに当たる魔物が、10層にそれを束ねる立場のボスがいる。


 そしてそのボスたちをすべて単独(ソロ)で倒さなくてはならない。

 更に、階層問わず一度でもどこかで死に戻りをした場合は条件(フラグ)がリセットされる。

 つまり、いままで行って来た条件諸々が全部無かった事になり、全て最初からになるってことだ。

 その苦労と難易度は推して知るべしだろう。


 だが、これには抜け道がある。

 裏ワザって奴だ。


 それは最後の―――つまり95層の中ボスを倒してから1時間以内という所。

 要するに、90層のボスまでは倒しても休憩が取れるのだ。


 運営の穴をプレイヤー側が突いた形だな。


 まあ、あの運営の事だ、本当に穴なのかどうかは分からないか。

 もしかしたらそういう仕様なのかもしれないし、本当の事は運営(うえ)にしか分からない。

 俺達(プレイヤー)側が勝手に騒いでいるだけだしな。


 俺の目的はこいつの固有(ユニーク)ドロップ並びに―――従属(テイム)

 奴の従属(テイム)条件はある戦闘条件かつ単独(ソロ)で挑み屈服させる事だ。


 その戦闘条件とは攻撃スキル無し―――つまり武器のみの火力で倒すこと。

 なお、身体強化系や、非殺傷のスキルは使用しても良い。あくまで相手にダメージを与えなければ良いのだ。


 戦い始めてどのくらい経ったか正確には分からないが、もうかれこれ5時間は経っている筈だ。

 自身の集中力を維持するために舐めていたハッカ味の飴も口から無くなったし、ちょうどいい。

 もうゲージ(スタミナ)を温存しなくていいだろう。


 ―――あと少しだ、油断するな。


 俺は自身を改めて鼓舞しながら手に持った太刀、塵芥(じんかい)を強く握りしめ、反動から回復したネメアへと駆け出した。


『グルルルォオオオン!!』

 威圧の動作(モーション)だ。

 刹那、音が爆ぜる。

 これを喰らうと俺のステータスでも(・・・・・・・・・)動作が一瞬硬直してしまう。

 だが———俺は口元を歪め、嗤う。


 ———もう慣れた(・・・)


 俺は奴の【威圧】を【強者の忍耐】をすぐさま発動して打消すと、そのまま止まることなく【縮地】で距離を縮め【韋駄天(いだてん)】で更に加速した。

 一瞬で距離を詰めた俺に———しかしネメアは動じることなく、それどころかそれに合わせて切り裂こうと右の前足を振り抜いた。


 ゴォオオオ!!


 大気を切り裂く様に、その巨躯(きょく)に見まわぬ速度で振り下ろされたその一撃を【乖離(かいり)】を使って躱し【多段ジャンプ】で空を蹴り飛ばし跳躍する。

 ネメアには俺が【乖離】のスキル効果、幻影で引き裂かれた様に見えた筈だ。


 奴は勝利を確信し口元が吊り上がる……が、それはすぐに幻想となって消えた。


 瞬間、スキルによって加速(ブースト)された塵芥が奴の眼に突き刺さる(・・・・・)


『ルォォオオオオ!!』

 奴の悲鳴が獣王の間にこだました。


 クリティカルを狙って抉るように、だが素早く塵芥を引き抜いて跳躍し、奴の苦し紛れの攻撃を回避するとそのまま奴の背に飛び乗りながら首元に向けて、更に塵芥を突き刺した。


『ッ———ギィァアアア!!』

 王としての威厳がもはや無くなった生物としての本能から来る絶叫が、俺の耳朶(じだ)を震わせる。


 そのまま塵芥の固有スキル【貫通】により、何の抵抗も感じさせずに突き刺さった塵芥をそのまま内から外へ———横に向かって切り裂く。


 煌めく血しぶき(エフェクト)


『――――――ッ!!』

 奴の声なき絶叫―――あと少しか。

 経験則に基づいた推測の元にそう判断して、俺の口元には自然と笑みが浮かんだ。


 そのまま(とど)めを刺そうとすると突如【危険察知EX】が警鐘を鳴らし慌てて飛び退く。


 俺が離れた刹那、奴の体が放電した。


「クッ!」

 咄嗟に飛んだためにスキルを使えず、俺は吹き飛ばされた。


 【受け身EX】と【多段ジャンプ】で何とか体制を立て直し、素早く体力ゲージを確認する。


 ———まずいな。


 体力が残り3割を切っている。


 だが、そんな俺に対してネメアは何もして来なかった。

 訝しんで奴に視線を向ければ、ネメアは雷撃を身体に(まと)いながらこちらを威風堂々と睥睨(へいげい)していた。


 その様は、まるで俺が大勢を立て直すのを待っているかのようだ。


 ―――面白い。


 俺はもう残り少ない超上級回復薬(エリクサー)を飲み込むと塵芥を構えて———唱える。


「【真名(まな)解放】塵芥素戔嗚(スサノオ)!」


 瞬間、手元の塵芥が(あわ)く紅い燐光(りんこう)を放ちだした。


 ———時間がない。

 【真名解放】を使った以上早期に決着を着けなければならない。


 【真名解放】とは、所有している武器の文字通り真の力を、時間制限(リミット)付きだが開放するスキルの事で、代償を支払う代わりにその真価を発揮する固有スキルだ。

 代償はそれぞれ違うが、どれも少なからず致命的な代物である。

 だが、それを差し引いてもそのメリットは大きい。

 ある武器は速さが数倍に跳ね上がっただとか、最上級魔法をスタミナ無視で連射したり等と聞くだけでチートだのなんだの言われても仕方のない、ぶっ壊れ能力を聞いたこともある。


 そんな能力の代償である。暫くの間、全パラメータ―半減だの、魔法の威力、数値に補正値マイナス極大だのと色々な種類のデメリットがあるのは当たり前。

 そういうタイプは遅延型と呼ばれ、使っている間は無敵だが、あとが怖い。


 だが、俺のは持続型…つまり現在進行形で代償を支払うタイプだ。


『グルルルルァアアアアア!!』

 ネメアが咆哮を上げて俺に眼にも止まらぬ速さで突進してくる。


 その姿、速さはまるで巨大な(いかずち)だ。


「行くぞデカブツ!!」

 俺は敢えて声を張り上げ気を引き締めると、全開で前に跳んだ(・・・)

 俺の真名解放の能力、それは―――


「ウラァァアアア!!」


 ―――破壊。


『ガァアアアア!!』

 正面に全開で振り切られた俺の一撃が、奴の自慢の牙を2本ごと砕き飛ばし(・・・・・)、その剣圧で巨躯を吹き飛ばす(・・・・・)


 正面から打ち倒すこの能力はこの最後の戦いに相応しい能力だ。

 あらゆるスキルを無効化し、打消し、破壊する。

 なにより、これはアクティブではなくパッシブ扱いな為、攻撃スキルに含まれない。

 あくまで武器の力を開放しただけ(・・・・・・)である。


 単純だがそれゆえに最強で最悪の能力(アビリティ)


 正しその代償は―――命。


「―――あと8割」

 視界の端に表示させてあるゲージを見て呟く。

 視界の端で起き上がったネメアが、雷速で迫り、腕を振り上げたのが視える(・・・)

 その腕の振りに合わせて、俺はそのまま塵芥(じんかい)素戔嗚(スサノオ)を振り上げた。


 ザンッ……!


 奴の腕が吹き飛んだ。


『グギャァアアアアア!!』


「―――あと6割」

 緩慢に(・・・)飛び散る飛沫(しぶき)を視界に捉えながら、体制を崩したネメアの両脚をそのまま【韋駄天】で駆け抜けざまに斬りつけ【縮地】で離脱。

 帰り間際に残りの(かいな)を深く切りつけ【多段ジャンプ】で限界まで空を蹴り、跳躍する。


「―――残り5割…!これで―――」

 俺が止めの一撃を入れようと腕を振り上げたそのタイミングで、四肢を斬りつけられて動きの鈍ったネメアは、そのまま視線を俺に固定して口元を開けるとブレスを収束し始めた。


(まだそんな奥の手(とっておき)を持っていたのかよ…!)

 焦る俺を嘲笑うかのように一瞬の溜めの後、その雷のブレスは放たれた。


「———ッ【天駆(てんく)】!!」

 間に合うかは賭けだが———やるしかない…!

 俺はそのまま【天駆】で(そら)を駆けて、そのブレス射程から外れようと走る。

 だが、これだけじゃギリギリ間に合わない。なら———


「【多段ジャンプ】!」

 俺は更に空を1歩蹴り、加速した。

 そして、抜けた。

 刹那、背後を熱閃が駆け、天を焼く。


「―――これで最後だぁあああ!!!」

 速度はそのままに、俺は軋む身体を気合いで捻じ込み向きを変えると(くう)を下に向けて蹴り飛ばして加速した。

 動作反動(ノックバック)で硬直しているネメアに向けて高速で迫る自身を感じながら、俺は塵芥素戔嗚を渾身の力で振り下ろす。


 ドガアアァァァン!!


 大気を震わせる轟音が部屋(フロア)中に響き渡った。

 ネメアは、そのまま手ごたえを感じさせぬままにその身を真っ二つに切り裂かれ、光の粒子となって消え失せた。


 それを見届け、


「―――解除」

 解放を解く。

 ゲージを見ると残り1割を切っていた。


 危なかった。凄いギリギリだ。

 だが———ついにやったぞ。


 そしてすぐさま脳裏に勝利を告げる言葉(アナウンス)が響いた。


―――【百々の獣神ネメア】を討伐しました―――


【討伐報酬】

 獣神の雷毛×4

 獣神の剛皮×3

 雷獣の牙×1


【単独討伐報酬】

 大地の宝玉(オーブ)



 スキル【王者の証】を手に入れました。


 スキル【獣王の心得】を手に入れました。


 称号【王を打ち倒し者】を手に入れました。


 称号【単独攻略者】を手に入れました。


―――条件を満たしました。獣神を従えられます。テイムしますか?―――


【YES】―――【NO】


 立て続けに流れるアナウンスを聞き流しながら、俺は今までの戦闘の感慨に耽りつつ、迷わず【YES】を選択した。刹那———


 ゴウッ!


 目の前に黄色い火の玉のエフェクトが現れ、それはゆっくりと明滅(めいめつ)し始めると―――次の瞬間、辺りが眩い閃光に包まれた。

 そして、そこで俺の意識は途切れた。








諸々設定変更しました。

ネメアの大きさを3から5メートルに変更しました。

戦闘描写も加筆、修正されています。


誤字脱字の指摘、ご意見ご感想お待ちしています。

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