1章 01話 お前のせいで異世界に!
拙い文章ですが、広い心でお楽しみください。
誤字脱字などなど、ご連絡よろしくお願いします!
「一希!」
巨大な狼のような動物に吹き飛ばされてしまった幼馴染を呼ぶ。が、返答はない。
この大きな……面倒だ。巨狼でいい。巨狼から目が離せない。
恐怖心から、足は震え力が入らないし、攻撃したり注意を引いたりする術もない。
ただ、怖い。その一心から、この巨狼から目を離せないのだ。
「っ!!」
一瞬。そう、一瞬だけ一希を見やる。
僅かずつだが、起き上がろうとしていた。
だがしかし、巨狼になす術など思いつきもしない。状況は好転しないのだ。
ガルルルルルッ!
巨狼の威嚇は未だ止まない。
そして、巨狼が一歩踏み出した。
ズシンッ!
生き物のだす音とは思えない足音に、パニックに陥りそうになる。
落ち着け。目を反らすな。こういう時は目を反らしたらダメだ。
あれ?合わせない方がいいのか?
ええい、もう目が離せるわけがない!
ズシンッ!
さらに一歩近づいてくる巨狼。
この図体でこんなにゆっくりと俺に近づく意味が分からない。
意味なんてないのかもしれない。
意味があったとしたって、碌な事じゃないはずだ。
「ぐあっ」
体中を強い衝撃が襲う。
視界は暗転する。
そして、次の瞬間、更なる衝撃が体を襲う。
吹き飛ばされた俺の体が、何かにぶつかったんだろう。
蓮の奴といるといつもこうだ。 暇をしない。
アイツは俺のせいにしたがるが、巻き込まれ体質。トラブル体質。これは蓮の体質だ。
元に俺が居ないところでもトラブルに巻き込まれ、そしてそれを俺のところまで持ってくる。
全く以て難儀な体質だ。
それよりも、今は動かなければ。
「一希!」
ほら、蓮が呼んでいる。
飛びそうになる意識を無理矢理に覚醒させ、重たい瞼を持ち上げる。
どうにか体を起こし、当たりを探った。
探る必要なんてないくらい大きい、狼のような獣が蓮と対峙していた。
蓮は、真っ直ぐ大きな狼と睨み合っている。
そして一瞬、こっちを見た。そして、また狼の方を見る。
本当に難儀な体質だ。
これは、どうしたらいい?
俺は何をすべきなんだ。
一希はどうやら生きている。それは間違いない。
ただ、怪我はしているだろうし、打ちどころによってはタダでは済まない。
俺の前を横切った動きを見るに、走って逃げたって逃げ切れないだろう。
「詰んだな……。」
思わず口をついてネガティブな事を言ってしまう。
神様とか仏様を信じていない俺だが、この時ばかりは神様に祈るほかなかった。
「火の聖霊よ、汝、我敵に炎の刃を。」
女の子の声……?
『フレイムアロー!』
良く分からないが、何かのセリフのようにも聞こえるその声がする方向に目を向ける。
「っ!!!」
その方向から、炎の矢としか表現出来ないものが、先ほど巨狼が見せた動きと変わらない速度で飛んできたのだ。
その飛んできた矢は、巨狼の脇腹に突き刺さる。質量があるものが当たったかのように、巨狼の体が少し横にぶれる。
ぶつかった瞬間に、熱量を感じる事はなかったが、かなりの衝撃だったようだ。
そして、そこから火が燃え上がった。
「火の聖霊よ、汝、我敵を燃やせ。」
再度、先ほどの声が聞こえる。
少しだけ内容が違ったのに気付いたが、今はそんなことはどうでもいい。
ここから離れなければ。
咄嗟に後ろへ飛びながら倒れ込む。
『フレイムバーン!』
そして、また違う言葉が聞こえる。
その声と同時に、巨狼の足元から炎が噴き出した。
離れるという判断は間違っていなかっただろう。
めらめらと燃える炎が、巨狼を包み込む。
苦しそうに体を動かしながら、なんとか消そうと試みているようだが、それがかなう事はない。
初めは近くの木に体当たりをしたりしていたが、段々とその動きは緩慢になる。
やがて、力尽きたのか、その体が横たわった。
獣の焼ける匂いだろう。
不快な匂いが当たりに立ち込めている。
ガサガサッ!
ビクっと、音のした方向を向いた。
また、巨狼が現れたのかと、警戒する。
ガサガサッ! ボテッ!
「アイタッ」
茂みから現れたのは、今度は女の子であった。
茂みに引っかかったのか、ボテッと転んだ少女。
「何ものだ?」
倒れたまま顔を上げた少女。
「アハハ、転んじゃった。 大丈夫?怪我はない?」
真っ赤なショートヘア。
ローブのようなものを着ている少女。
声は、先ほどの茂みの奥から聞こえてきたものと同じだ。
そして、まじまじとその少女を見ていて、ふと気づいてしまった。
「ん? ほんと、大丈夫?」
心配そうな声を出しながら立ち上がり、転んだ時についたであろう土や葉っぱを、パンパンと払う。
「あ、だ、大丈夫」
しかし、俺の目はその少女の一か所から離せずにいた。
「ん? あ、これ? そんな珍しい?」
少女は、俺の視線に気づいたのか、自分の耳を触る。
そう、彼女の耳は明らかに自分たちの知る人の耳とは違う形をしていた。
上方向に長く、そして、先にいくにつれ細くとがっている。
所謂、エルフ耳だ。
「この辺にはエルフいないらしいもんね」
にこっと笑いながら、少女はそう言った。
「エ、ルフ……。」
「そう。 エルフ。」
おぉぅ、そんな馬鹿な。
薄々とだが気付いていたが、確信に触れてこなかった事に、最終勧告を告げられたような気がした。
巨狼の段階で、怪しいというか、もう紛れもなくだったのだが。
ここって異世界?
オワター。