第0話 プロローグ
もう一方の小説に行き詰ったため、気分転換に書いてみました。
思いの外筆が進んでしまったので、同時連載という形にさせて頂きました。
こちらの作品も読んで貰えたら嬉しいです。
戦いは、間もなく終結しようとしていた。
男の身体には無数の傷。体中を矢が穿ち、今、かつては友と呼んだ者によって突き出された槍に、腹を貫かれている。
矢尽き、弓折れ、長年に渡り自身を支えてきた薄緑も失われた。
もはや、この身は朽ちゆくのみ。それは避けられぬ運命。
もとより、勝利など望むべくも無い戦いだった。
敵の兵力はこちらの10倍以上。既に、男以外に立っている味方など誰一人としていない。
かの忠臣も、傍らには居ない。
皆勇敢に戦い、散っていった。
最後に残った彼もまた、最期の時を迎えようとしていた。
死にゆく者の暗い瞳に、遠く過ぎ去った過去の記憶が蘇る。
鞍馬の寺を出奔する直前。年老いた天狗は、逞しく成長した青年にこう言った。
「遮那王。ヌシに伝えし我が剣は、即ち羅刹の剣。呪われた武技だ。使えば必ず己が身を無間地獄へと突き落とす」
「わかっております、親父殿。みだりに振るう事はありません」
「……それでも尚、ヌシはその羅刹の剣に頼る事になる」
「……はい」
「京八流は人道に非ず。一瞬にして人を肉塊に変えてしまう。奪うのは生命だけでは無い。尊厳も、それの生きた意味さえも切り捨てる。まさしく外道のおこないと言えよう」
「……」
「それでも」
「……?」
「人の振るう剣である以上、いつか敗北し、地に倒れ伏す日がやってくる。その時、ヌシには成し遂げねばならぬ責務がある」
「……それは、何ですか?」
「万が一京八流が敗れし時、我らが負いし業を決して世に遺してはならぬ。ヌシを討ち果たした者を、--せよ。全身全霊をもって、---のだ……」
血を失い過ぎたのか、意識がはっきりしない。
ごぼっ、と男の口からさらなる血の塊が吐き出される。
それに併せて、その口元を覆っていた漆黒の織物がはだけ、男の顔が露わになる。その、表情は……