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美少女には「たん」をつけんか馬鹿野郎

あれからどれだけの距離を走ったのだろう。

どうやら新しい街に着いたようだ。

ずっと走りっぱなしだったから、速く着くことが出来たようだ。

俺は開け放たれている門からその町に入った。


「こんにちわ」


入った瞬間。

何故か周囲の者達は驚いていた。

しかし、こちらがにこやかに挨拶をすると、何事もなかったかのように挨拶を返してくれた。


「なんだ。魔物に偏見のない人間か」


魔物とは何だろう。

彼らは自らの事を魔物と呼んでいた。

彼らを観察していると、わかった事がある。

どうやら人間じゃない。

豚の顔を持つ巨体やミミズの体に手足の生えた者もいる。


「あれは……」


少し歩くと、凄まじい蹄の音と共にふんわりとした波動を持った女騎士が現れた。

どうやら彼女は前の家に用があるらしい。

その証拠にノックを四回ほどしていた。


「はいはい。誰ですか……ってデュラハン嬢!?いやいや、お願いします。頼むからやめてくれ。やめっ……ぬわぁぁぁ!」


ダルそうに出て来た鬼のような顔をした男はデュラハン嬢がどこかから取り出したタライにより、頭から血をかぶせられて泣いていた。

それをスルーして進んでいくと、アルコールの匂いが漂ってきた。

プンプンと匂う方を見てみると、そこには厳つい牛の飾りのついた家があった。

「あれはギルドって奴だ。そこでブラが売れるかもな」


「へぇ~」


式神の言う事はいつも正しい。

俺はそう思っている。

その助言に従って俺はアルコール臭漂う空間に足を踏み入れた。


「すーっ」


名前だけは知っていた。

何故なら式神が教えてくれるから、名前だけでは想像もつかなかったアルコールの匂いを俺は思いっきり吸い込んでいた。

式神がこれは飲み物の匂いだと教えてくれる。

しかし、不思議だ。

それ以外の匂いも漂ってくる。

またもこれは肉だと式神が教えてくれる。

視線を彷徨わせると、見た事のない空間の中に式神が教えてくれた絵と重なるものがあった。

あれは西洋の食べ物だ。

じっと眺めていると何だか、腹の辺りがキューっと締まり何かを訴えてくる。

思わず涎を垂らしてしまう。


「十二年間何も食べてなかったもんな。もう食べ物の存在も忘れてしまったよな」


式神が何かを言っている。

しかし、今の俺の耳にそれは届かなかった。

あれを口に含んでみたい。

そう思っていると、俺の視線を感じ取った魔物が気づいてこちらに手招きをしていた。


「?」


不思議に思いながら俺は近づいてみる。

すると目の前の魔物は肉を眼前に持ち上げて来た。

思わず俺はそれに釘付けになると、目の前の魔物は俺の肩を掴んで一気に肉を俺の口の中へと押し込んだ。


「ぬっ」


「旨いか?」

魔物の問いに俺は頷いた。

「ほら、水だ」

そう言って目の前の魔物は次に俺にアルコールの匂いを放つ黄金の水を渡して来た。

「一気に行け」

ゴクゴクッ。

俺は言われた通りに黄金水を喉の奥へと流し込んだ。

すると……。

「……雨?」

どうしてだか、水が服を濡らしている。

ここは室内だというのにどうしてだろう。

疑問に思っていると、目の前の魔物は困った顔をした。

「上手くなかったか?」

「上手かった。でもそれ以上に嬉しかった。12年ぶりの食事が」

「そうかそうか」

魔物は愉快そうに笑った。

この目の前の魔物。

よく見てみると、どこか他の魔物と違う。

注意深く観察すると、式神の記憶の中にあるドラゴンに該当した。

ドラゴンは赤いイメージだが、目の前の竜は黒かった。

じーっと眺めているとまたも黒龍は笑った。

「竜人が珍しいか。私の名はニーズヘッグ。これも何かの縁だ。お前の名前を教えてくれ」


「月讀。土御門 月讀」


「行く宛てはあるのか?」


俺は首を振った。


「そうか。私はな。沢山の人間を見て来た。この魔物の国にも人間は沢山いる。しかし、それは全て良い人間だ。どうしてだかな。ここに来る人間はみんな同胞に虐げられ、憔悴しきった姿でやってくる。しかし、それは魔王であるロキ様によって救われている。人間として暮らしてるんだ。嫌だよな。差別の激しい一族は。どうだ。お前も疲れているように見える。こっちの世界に来ないか?」


これは好意?それとも善意?

目の前の竜は難しい事を言う。

そして、恐らく俺は良い人間ではない。何も知らないけど、それだけは何故か確信している。

それを知ったら、どうするのだろうか。


「俺は、多分悪い人間だ。何人も人を殺している」


「迫害されたのか?」


俺は首を縦に振った。


「なら、仕方ないだろう。ふざけた同調圧力に何て従うな。私達は生きてるんだ。生きていれば感情がある。もう一度言う。来なさい。こっちに」

黒龍は俺に手を差し出した。

「必要とされているのなら」

俺はその手を握った。

握手を交わして数分。他愛のない会話をしていると、再び料理が運ばれてきた。

今度は二人分だ。


「さっきのだけじゃ足りないだろう?男の子なんだからこれくらい平らげて見せろ」


「うん」


俺は頷いた。

そして、考えていた。

ドラゴンの事を。

確か、月讀の記憶では、ドラゴンとはおっさんのドスの聞いた声だったはず。

しかし、目の前の黒龍の声は美しく女性的だ。

身体はマントで隠れているからわからないが、実際のところどっちなのだろう。

そんな事を俺はグルグルと考えていた。


「さてとっ」


スポっ。そんな音と共に黒龍は頭を取った。


「?」


目の前に現れたのは、黒髪の美少女だった。

髪の長さはミディアムでフワフワしたイメージの女性だ。

先ほどの被り物とは正反対の印象だった。

という事は……。


「じー」


俺は視線を下に向けた。


「コラコラ女性の胸を見るな。このスケベェめ。そんなのではモテないぞ」


そう窘められるが、俺は少し不思議に思った。


「胸が見当たらない」

「いや、あるだろうほら!」


何か癪に障る事があったのか、目の前の美少女黒龍はマントの中身を晒した。

ビキニアーマーだった。

そして、ボリューム感満載の胸があった。


「本当だ」


「だろうだろう。わかればいいのだ。というか何をさせる。純潔がモットーの私を辱めるんじゃない。それと遠慮なく私の事はニーズヘッグたんと呼んでいいからな」


めっとか、人差し指で目の前のニーズヘッグは言ってくる。

それにしてもこの世界ではビキニアーマーが流行っているのだろうか。

でもデュラハン嬢という人は完全ガードだったし。

とりあえずニーズヘッグは初めての友達なので俺は思い切って先ほどの戦利品を見せる事にした。

懐から取り出してまだ少し暖かいブラをニーズヘッグへと渡した。


「これ。流行ってるの?ゲットしたからどこかのおっさんに売りたい」


「えっ?」


これは軽蔑の眼差しだろうか。

不思議に思っていると、式神が教えてくれた。

女性の前でこれを出してはいけないらしい。

俺は選択を間違えていた。

どうしようかとボーっとしていると、突然ニーズヘッグが目を見開いた。


「この紋章に鎧に張り巡らされた魔法……まさか」


急いで酒場から飛び出し、また戻ってくる。

ニーズヘッグの手には一枚の紙が握られていた。


「月讀。この女に見覚えはないか」


目の前に映る女は猟奇的な顔をしたピンク髪の美少女。

そう。まさに俺はこの女からブラを剥ぎ取ったんだ。


「ある。こいつから取った」


「こいつはどこにいた」


「シー○ンが沢山死んでいる村にいた」


それを聞いたニーズヘッグは苦い顔をした。


「くっ。そうか。これが終わったら彼らを成仏させてやらないとな。それにしてもお手柄だぞ月讀。加入早々やるじゃないか」


ニーズヘッグは嬉しそうに俺の肩を叩いた。

そして、言った。


「こいつは勇者だ。この国から大量の懸賞金がかけられている大物のな。デュラハンと私の小隊でそいつを待ち伏せてたんだよ。さっそくだが、初陣だ。これを剥ぎ取ったなら直ぐに勇者は来るだろう。行くぞ!」


意気込むようにニーズヘッグは叫ぶと、マントを脱ぎ捨てた。

黒髪が舞い、扇情的な体が露わとなる。

ひたすらに美しかった。

人間のような容姿もそうだが、鋭く生えた黒の角。腰の辺りから生えている尻尾。そして黒の両翼。

俺はその姿に見とれながら頷いた。


「力になれるように努力するよ。ニーズヘッグ」


シュパ。一瞬何かが通り抜けた。

俺はそれが見えていた。

ニーズヘッグが立つ時に勢い余って持ち続けてしまったフォークだ。

カツッ。

後ろでフォークが刺さると、ニーズヘッグはゆっくりと振り向いてぎこちなく笑った。


「美少女には、たん付けを忘れるな馬鹿野郎」


俺はニーズヘッグたんと共に勇者討伐へと向かった。


土御門 月讀。魔王軍竜騎士師団ニーズヘッグ隊への配属が決定した。






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