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首切り転生にて頂きそう○う

俺は、物心ついた頃から石造りの鳥籠に幽閉されていた。

鳥籠と言っても檻のように光が差すものではない。

密閉でひたすらに暗闇になる方だ。

閉じ込められて数分すると刺客が送り込まれた。

当然俺を殺すためだ。

本来なら死に向かいゆく運命に抗う事は出来ないだろう。

しかし、俺は特別だった。

そう。この日本の陰陽世界で恐ろしい式神を身に宿して生まれて来たんだ。

生後数か月で人語を話し。

4歳の頃には父のよくわからない説教を完全に論破していた。

論破されたのが相当悔しかったのだろう。

父は俺をこの狭い空間に幽閉した。

それから十二年。

毎日父は刺客が送りこみ、俺はその度に父を論破した時の会話内容を父の書斎に念力で送り込んだ。

そして、今に至る。

今、俺はピッチピチの十七歳だろう。

父は俺を殺す気らしく十七になるまで食事などを俺に与える事はなかった。

もう十二年も食べていない。だから長い間着込んだジャージの下には程よく引き締まった筋肉がついてしまった。

歳を取れば取るほど力は増していくというのに論破された父は諦めずに刺客を送ってくる。

そして、それが今目の前にいる。


「ひぃ!切らないでくれ!アンタの父親。土御門信孝(つちみかどのぶたか)に命令されたんだ。ここに幽閉され続けてるアンタならわかるだろ!逆らえない同じ境遇のよしみでどうか助け……!?」


俺はどうしようかと、目の前の男をとりあえず刀で切った。

その瞬間に血しぶきが上がる。

今日の刺客は命乞いのパターンだ。

嫌らしく惨めに命乞いをした男は足の腱を切られてもがいている。

当然だろう。そして、もう歩けない。


「一歳。歳を取ったな」


「ごめんなさい。土御門月讀(つちみかどつくよみ)様!どうかご慈悲を!」


顔を上げて泣きながら懇願する刺客の顔にプチっと刃をつけた。

血が刺客の頬に少し浮き上がる。


「ひぃ!……!?動けない。何て。何て酷い!呪術か!この私をここに縛り付けたのか。お前の中の式神が教えたんだな!」


喚いている男は、少し歳を取ったように見える気がする。

俺はもう三度プチプチとゆっくりと刺客の顔を突いた。


「あぁ。もう。もう嫌だぁ!やめてくれぇ!」

泣きわめく刺客に向けて。俺は言う。


「一太刀入れれば歳を取り。二太刀入れれば歳を取る」


悲鳴はしばらく続いた。


「先ほどまで若々しかったというのにもう寿命か……」


目の前の刺客は息絶えていた。

皺くちゃに痩せ細った老人となって。


「老いへ老いへと追い込んで。俺とお前は二つで一つの月讀(つくよみ)だ」


そう言って俺は自分自身の首を切り落とした。

すると、当然のように首が落ちる。

意識が遠くなる。

俺は人に切られた事がない。

毎日刺客が来るが、式神・月讀(つくよみ)との知識の共有により全てを退けてきた。

単純に知りたかった。切られるという事を。

だから切った。月讀でさえ、戦い方と言葉しか教えてくれない。

多分これが痛いという事だろう。

でもおかしい。

月讀の言っている事と違う。

人は首を落とせば死ぬというのに。

あぁ、どうしよう。俺が俺を見上げてる。

幽閉されて変化のない生活に変化が生まれた。

どうしよう嬉しい。

そうだ。

死ぬってどういうことだろう。

俺。凄く気になる。

試してみたい。

興味という興奮で俺の指先が先走って震えてる。

堪え性のない俺は耐えられなかった。

新たなる展開への興味。

その結果。


「……ふふっ」


俺にはもう一つ心臓がある事がわかった。

とりあえずそれも刺してみると。

どうしてだか、目の前が暗くなった。

目玉はくり抜いてないのにどうしてだろう。

そんな事を考えていると声が聞こえてきた。


「それで?君の探求心は満たされたかね?いいや満たされないはずだ」


「光。明るい。お前は人間?」


急に周囲が明るくなった。

そして、目の前にお爺さんがいた。

見た事がない。

白髪で白衣で杖を持っている。

土御門の管轄内の陰陽師ではないように見える。


「刺客ではないよ」


「知ってる」


そう。この爺さんは土御門の者ではない。

雰囲気が違う。どこか温かく安心する。

これが敵ではない人間か。


「俺を連れ出したのか?」


「いや、君がここに来たんだよ」


「?」


じいさんの言っている事がわからなかった。

俺は首を切り落として心臓を二つ突き刺した。

動けるはずはない。


「あぁ、お前は式神月讀」


「それも違うね。とりあえずその後ろで俺を殺そうと涎垂らしてる式神さんを何とかしてくれない?本当に怖いんだけど?」


「……月讀」


俺がそういうと、神様はほっと胸を撫で下ろした。

つまり俺が月讀と会話をしたという事だ。

またもや生まれた変化に俺は興奮した。


「次は君が涎を垂らすのか……」


俺は口元を舐めた。

すると、思いのほか舌が長くて顔全体を舐めてしまった。


「べとべとする」


「だろうね」


「刺客?」


「君がやったんだよ。とりあえずその剣をしまおうか?」


俺が自分をゆび指さすと目の前のお爺さんは頷いた。

人とまともに会話をしたのは、実は初めてだ。

これは楽しいのかな。よくわからない。


「もっと楽しい事をしたくはないか?」


このお爺さんは心が読めるらしい。


「変化のある生活を送りたくはないか?冒険をしたくはないか?頷くならば高みを目指せ。その瞬間に世界が広がるであろう」


「…………くふっ」


今のは何だろう。

自然と口から出てきた。口角が上がっている。

楽しいのだろうか。

お爺さんの言葉には、どうしてだか惹かれる。


「はぁぁぁぁ!」


お爺さんは手を広げた。すると、扉が現れて開く。


「さぁ、新しい世界が君を待っている。家のしがらみも何もない自由の世界。そう異世界が待っている」


「くふっ」


まただ。今度はもっと強い。どうしようもなく強い感情が扉に行く事を望んでいる。

俺の脚は自然と扉の方へ向かっていた。

扉を通る直前お爺さんは俺の肩を叩いた。

「これはここにたどり着いた特典じゃ。強すぎるから一日三回の制限があるが、上手くつかってほしい」


それを聞き終わる頃。俺の体は霧となって扉の中へと潜り込んだ。


「はっははぁ!」


声高く笑い、口と目をかっ開いた俺の目の前には、2という文字が浮かんでいた。


◆◆◆◆

扉の中に広がるのは無限に続くかに思わせる白の空間。

そこを抜けると、広い高原に出た。

その頃には霧の体は元に戻っており、俺は地面を踏みしめていた。

目の前に広がるのは見た事もない景色。

石造りの窓のない部屋ではなくて風が身を打つ外の世界。


「すーっ」


初体験の高原を深く感じるように俺は思いっきり息を吸い込んだ。


「ん?焦げ臭い」


新鮮な空気の後にそんな匂いが漂ってきた。

幽閉されているときに流し込まれた煙と同じだ。

式神・月讀の記憶とも完全に一致した。

俺はその匂いの方へ向けて歩き出した。

しばらくすると、街が見えた。

眼前まで来ると門は開け放たれており、悲鳴も聞こえない。

歩いてくる三十分の間に何かあったのだろうか。

とりあえず門を潜ると、激臭が漂ってきた。


「……じゅる」


血の匂いだ。それが鼻いっぱいに広がった。

こみ上げてくる不思議な感情。

俺は気づくと舌なめずりをしていた。


「ひぃ!ぐあ!うぼぉあ」


しばらく歩くと悲鳴が聞こえてきた。

その方向には一層強い血の匂いがする。

それも単体で出せる量じゃない血の匂いが。

恐らく今見える町の角を曲がったところにいるのだろう。

そう思い曲がると、さらなる声が聞こえた。

そこには、ピンク色の髪をした少女がいた。


「ひぃっはぁ!ねぇ?感じてるの?嬉しいでしょ?こんな美少女にぐちゅぐちゅ弄られてさぁ!」


そう言いながら少女はもう悲鳴を上げる事すらできない足の生えた人面魚の内臓を取っていた。

それを少女は箱に詰める。

箱には、シー○ンと書かれていた。


「飯飯~。それにしても、まだ生き残りがいたとはねぇ」


少女は振り向いた。

その姿は美しく、一度見た物を虜にするような魅力を秘めていた。

鮮やかなピンク色の髪に大きく主張する胸と尻。

式神・月讀の記憶の中にある男性に好まれる女性だと、俺は悟った。

実際に彼女には惹かれるものがあった。

少女はギラリと目を光らせる。


「この魚はやらんよ。捌かれたくなかったら消えな。これは明日の私の胃袋で星になるんだ。殺される前に消えた方がいい。じゃないと、お前も食っちまう」


食っちまう。目の前の女はそう言った。むしろ俺にはその部分しか聞こえなかった。

食われる。それはどういう感じなんだろう。

俺は少し気になった。

思い立ったら吉日。

俺は少女に向けてとりあえずジャージの袖を捲って差し出してみた。


「えっ?」


目の前の少女は目を丸くする。


「自分で言ったんだろう。食べたいと」


俺の言葉を聞いて少女は頭を抱えて溜息をついた。


「脅しが聞かないか。あんたは馬鹿にしてんだか、シー○ンを狙ってんだかわからないね」


この行動はダメだったのだろうか。

突然怒るようにこちらを睨みつけている。

目の前の少女は今まで会ったどのタイプとも違う人間。

そして、初めて見る女という個体。

ビキニアーマーという露出が多い衣服を着ている所為か、自分とは全く違う人間だという事が理解できる。

こんな気持ちは初めてだった。

俺。月讀の胸はもう興奮で張り裂けそうだった。


「俺も欲しい。お前のその薄赤く光る眼が。そうだ。交換しよう」


「この目が目的か。久しぶりだよ。私の目を狙ってくる奴は、もうそんな奴は絶滅したもんだと思ってたけど、まだ根性のある奴がいたんだね」

ニヤリと少女は笑った。

とても楽しそうだ。俺も凄く楽しい。

だから俺の口角は自然と上がっていた。

そんな俺を見て目の前のピンク髪は目を細めた。


「どうしたらそんな人格になるんだろうね。過去は大体想像できるけど、私に喧嘩売ったのだけは失敗だったと思うよ」


言うと少女は地を蹴って駆け出した。

彼女がこちらに向かってくる。速い。とんでもない速さだ。

だからピンク髪は直ぐに俺の眼前に迫ってきた。

眼前で見ると更に綺麗だなと思いつつ、先ほど爺さんがくれると言った何かを使ってみた。

途端に俺は霧となり、接近と同時に蹴り上げた少女の足は虚空を切った。


「はぁ!えっ幽霊?ちょっと怖いんだけど。どうしようワタクシ」


さっき、霧になれたからまさかとは思っていた。

自分でも驚いている。

まさか実体がなくなるなんて思っても見なかった。

そして、見える。俺、霧なのに周囲が見えてる。

目の前でソワソワし始めたピンク髪が見える。

何故か焦っている。

汗の量が増えた。

何だか面白くて俺は笑ってしまった。


「くふっ」


ビクンッと途端にピンク髪が跳ね上がった。


「ひぃぃぃあっあああああ!耳!耳が!うあぁ何だよ!」


そうだ。そういえば飛びかかられたから距離が近かった。

ピンク髪はこの場から飛び退いて着地した場所で足を振り回した。

全く関係ない方向でスカートをふわりと浮かせて一心不乱に蹴りまわしている。

それと、どうやらこの霧は5秒だけなれるらしい。


「!?」


またもびくりと体を震わせるピンク髪。

実体化すると同時に俺の目の前に1という数字が表れた。

再び目の前に立つ俺にピンク髪は見定めるような視線を送る。


「見た事ない魔法だ。お前は何だ?」


「月讀」


「そうか。月讀っていうのか。まぁ、幽霊じゃないってわかればこっちのもんだ。今度は本気で潰すぜ」


言い切ると、ピンク髪は消えていた。

次の瞬間再びピンク髪が回し蹴りを放った。

しかし、再びそれは虚空を切る。

多分霧になれるのは、これで最後だ。

そのまま俺は一気に回り込むと後ろからピンク髪の首目掛けて腕を振るった。


「ははっ!怖いなぁ……」


ニタニタと笑いながらピンク髪は俺の腕を取った。

俺は感心した。目が欲しいから加減したとはいえ防がれるとは。


「こんなに早く種を見破られるとは思わなかった」


「私は特別だからな。特別な女なの。私の赤目は未来を見通す。攻撃出来るって事は実態があるからな。そんじゃ内臓頂き!」


言いながらピンク髪の女は俺の腹目掛けて腕を突き刺した。

しかし、当然俺はそれを弾く。


「ちぃっ!」


するとピンク髪は目を見開いて舌打ちした。

そして、直ぐに俺を蹴り飛ばしてきた。

霊力のようなものが乗っていた。

先ほどまでとは比べものにならない威力だ。

しかし、それも弾いた。

今回は手がビリビリする。

こいつ強い。


「やろぉ!」


ピンク髪は今度は地を蹴って距離を取ろうとした。


「させない」


それを俺は防ごうとするが、こいつは早かった。


「!?」


掠りはした。その証拠に目の前の女は胸をはだけさせて慌てて手で隠している。


「?……おぉ」


目の前にはブラがあった。

鉄の鎧みたいな奴だ。

これを手にした途端。

心の中の式神・月讀は呟いた。


『それ売れば高い。初日から殺すのはやめておけ。まずそれを持って町にいこう。ヘイダッシュ!ヘイヘーイ』

「ヘイ!ダッシュ!」


俺は滑らかな発音で唖然としているピンク髪を置いてこの場から走り去った。


「えっ?嘘でしょ?ヘイ!カムバーック!」


式神・月讀の言う通りしっかりとブラをビニール袋に保管して俺は遠く彼方へと走り去った。



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