~次はアイドル護衛~
「いやー、マジで危なかったわ。もしアンタの狙撃が遅れてたらアタシ斬られてたわ」
「斬られる寸前だった奴のセリフじゃねぇな」
俺と吹雪は、学園内にある部室へと歩いている。
夕日に背中を向け、長い影を作る。
「あんた、『鷹の目』使ったでしょ」
ニヤリ、とでもいいたそうな顔を向けてくる。ウゼェ。
「ああ、使った。部員が減ったら部活動できねぇしな。佑寧には内緒な」
俺達の場合、部活動ではなく仕事のような気がするが、まあいい。
「学生ボディガード部、最近コレ!といった仕事入ってこないのが辛いわね」
「ああ、この前は迷子の猫探しだしな。ボディガード全く関係無いし」
なんで猫探しをボディガードである俺らがやらなきゃならないのかが不思議でしかたない。
「でも、あまり本格的な仕事は受けないほうがいいわね」
「なんで?報酬金貰えるんならいいんじゃね?」
「そうなんだけどねぇ・・・・・・・・・あんたら、やる気出さないじゃない」
痛いところを突かれた。
「だってよ、毎回かったるい仕事ばかりなんだぞ?やる気も無くなるって。お前のポジティブ思考が羨ましいよ」
いつも「待ってればいい仕事が入ってくる!」とか言って仕事に励んている吹雪だが、どうしてそこまで仕事熱心なのかすごく気になる。
「お得意さん作って金頂ければやり甲斐があるってものよ」
げ、ゲスい考えをお持ちのようだ。
「たまにだけど、個人的に依頼を受ける事があるの。それが中々旨いのよ、報酬が」
「マジかよ。金額は?」
そう言うと、吹雪はドヤ顔で指を三本立てる。
「さ、三万っ!?一日でかッ!?」
うんうん、と頷く。ものすごい笑顔だ。お金持ってりゃ偉いのかよバカァ!
「そうよ。お得意さんなの」
旨い、旨すぎる・・・・・・・・・ッ!!その客俺にくれ。
「それ、俺にも紹介してくれよ。金が足りねぇんだよ」
くれとは言わずに、仕事をもらうだけにする。そこのところ俺の優しさだと思って欲しい。
「あんたは別に生活に困る事無いじゃない。学校に泊まってるんだから」
「ほ、欲しいラノベがあるんだよ!」
「タイトルなによ」
「そ、それは・・・・・・・・・」
「どうせ、佑寧に金持ってかれてるんでしょ」
「いや、そんな事は――――――」
「正直に言わないなら紹介しない」
「めっちゃ財布から諭吉さん抜かれてます。今月の食費がピンチです」
「だと思った・・・・・・・・・」
ため息をついて額を押さえる。
佑寧の奴、まともに仕事しないくせに俺の金寄越せとか言ってくるし。稼いでも取られるんだから仕事やってもむだなんじゃないかと思えてくる。俺はお小遣いあげる甘いお父さんじゃねぇんだよ!
「紹介してもいいけど、あんたが受けるかどうかわからないわよ?」
「いいから、内容を教えてくれ。頼むっ」
「はぁ・・・・・・えっと、依頼は喫茶店の手伝いね。三人が病気で欠勤してるんだって。だから、その穴を埋めるのが仕事。三人分働かなきゃダメなの。一日フル出勤ね」
そ、それはいい。一日フルで働くという事は学校をサボることが出来るし金も貰える。
「その仕事、俺に譲ってくれ!俺を助けると思って!」
学園に着いた直後、校門前で頭を下げる。なんと滑稽な。
「なんでアンタを助けると思わなきゃダメなのよ」
この人には慈悲の心は無いのだろうか。
「でも、いいわ。譲ってあげるから、しっかり働きなさい」
「いいのかっ!?」
「ええ。あ、その喫茶店、駅前にあるから。下見に行ってみたらいいかもね」
そう言って、学園の校舎に消えていく吹雪。
「駅前に・・・・・・・・・?あそこって確か・・・・・・・・・」
俺の記憶が正しければ――――――――
「そこ、メイド喫茶じゃねぇかッ!?」
叫ばずにはいられなかった。
校舎の中から笑い声が聞こえたような気がする。
受けなきゃよかったと後悔しながら、校舎に向かった
◆
校舎一階、部室の扉を開け、椅子に座る。
「クソッ、騙された・・・・・・・・・」
テーブルに額をつけてため息をつく。
これ、行かなきゃダメなのかなぁ・・・・・・・・・。
俺ら、ボディガードだよね?なんでメイド喫茶で働かなきゃダメなんだよ。
・・・・・・あ、もしかしたら裏方なのかも。
それなら行ってもいいかな。
「残念ながら、メイド服を着て接客よ」
俺の考えは儚く、脆く崩れた。
ガラッ、と扉を開けて吹雪が入ってきた。あれ、こいつ俺より先に校舎入らなかったっけ?
「なあ、お前俺より――――――」
「トイレ行ってたの。大の方よ」
「恥じらいを持ち合わせてくれないかな部長さん」
せめて、便器にウン―――――お花を摘みに行っていましたとか言えよ。
ごめん。俺の方が汚かったわ。
「あれ、佑寧は?」
「知らん」
部室にある寝室―――もとい、応接室の扉を開ける。
「おい、佑寧――――――」
絶句した。
扉を開けてると、そこにはパソコンの画面を前に涎を垂らしてフヒッと笑う人間が映っているのだから。
「フヒッ、フヒヒッ、由真たん可愛い・・・・・・・・・」
あれ、デジャヴかな。バス停にこんな感じの人今日見た気がする。
「お、おい、佑寧。帰ったぞ」
ちょっと引き気味で佑寧に話しかける。
「フヘヘッ、フヒィ・・・・・・んぁ?」
寝ぼけているような変な声を出しながら振り向く佑寧。
「うええええっ!?孝浩、何時帰ってきたっ!?」
「今だよ・・・・・・・・・で、お前涎垂らして何やってんだ」
「何って、エロゲだよ。言わせんな恥ずかしい」
椿佑寧、学生ボディガード部の副部長だ。やる気の無さが私生活に表れている残念な女だ。
授業中にスマホをイジってる悪い生徒でもある。困った事に、その事を教師は知らない。
「そ、それと、私の顔、見た?」
恐る恐るという感じで聞いてくる。
さっきエロゲしてた時の顔だろうか。
「ああ、酔っ払ったバス停前のストーカーみたいな顔してた」
「なんで見るんだよぉぉおおおおおおおおっっっ!!」
「横からみたら丸見えだろうが・・・・・・」
応接室に入ると、ちょっと離れた場所に備品等で改造された高性能パソコンが置いてある(俺の)
そこで堂々とエロゲやってる副部長マジぱねぇ。
「というかそのエロゲ、誰の金で買った?」
ビシィッと指を指す。俺に。
「俺の金かよっ!だから諭吉一枚無くなってると思った!!」
「ごめりんこ♪」
「悪いと思ってないんだったら謝るなクソが!」
「あ、うん。わかった謝らない」
「謝れよッ!!」
「どっちだよ」
あれ、いつ立場逆転したんだ?
「で、何の用?私ゲームやってたいんだけど」
「なんか、会議だってよ。今日の仕事の報告とこれからの活動について、だったか」
「うわ、めんど。まぁ、そっちいくわ。先行ってて」
起動していたエロゲを閉じてシャットダウン始める。
俺のパソコン、いつお前のになったんだろう。
「じゃ、後でな」
そういい応接室を後にする。
「佑寧居たぞ。後で来るってよ」
「わかったわ」
「わかりましたー」
・・・・・・・・・ん?
「お前、いつの間に?」
「え、気付いてなかったんですかっ!?孝浩君が部室に入ってくる時には私いましたよ!?」
「か、影薄いな」
「生徒会長なんですから影は濃いですっ」
人間として影が薄いと言ったつもりだったんだけど・・・・・・。
「ユカ、生徒会の仕事は終わったの?」
ユカ・デュアルストーン。この学校の生徒会長だ。イギリス人と日本人のハーフで、金髪が似合い、モデルの様な姿をしている。目立つと言えば目立つが、影が薄いと言えば影が薄い、色々困った女。
「はい、しっかり終わらせてきましたっ!」
親指を立ててニッコリ笑う。
「さて、あとは佑寧だけね」
「あ、お茶入れてきますね」
「悪いわね」
入口近くに設置されているキッチンに向かって準備を始める。
やかんに水を入れて、コンロに火を付ける。沸騰する間に茶葉をポッドに入れる。
鼻歌を歌いながら準備している様子は、なんだか楽しそうだ。
「なんでお茶準備するだけであんなに楽しそうなんだよ」
「さあね」
「おーい、来たぞー」
背を伸ばしながら応接室の扉から佑寧が出てきた。ジャージて、引き籠もりみたいだな。髪ボサボサだし。
「これで全員揃ったわね。ユカがお茶入れ終わったら会議を始めるわ」
吹雪が、腕を組んで宣言した。
◆
「さて、今日の活動報告をするわ。孝浩、お願い」
「あいよ」
ポケットからスマホを取り出してメモした内容を読み上げる。
「クライアント、姫宮学園生徒『成瀬恵美』。依頼内容『ストーカーから守ってほしい』。結果、『ストーカーは現行犯逮捕』。報酬は一万。こんなもんか。なんか質問は?」
「はい」
綺麗に挙手をするユカ。
「なんだ、ユカ」
「そのクライアントさんはもう帰っちゃったんですか?」
「ああ、そのまま家に帰らせた。明日また来るってよ」
「そうですか、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる。毎度、礼儀正しさには驚かされる。
「もう質問は無いな。じゃ、これで報告は終わりだ」
スマホをポケットに仕舞って座る。
「じゃ、次はこれからの活動方針を絞るわ」
「絞るというと?」
椅子を引いて立ち上がり、テーブルを叩きつける。
ガチャンと、テーブルの上にあるコップが跳ねる。
「私達、ボディガードよっ!?なんで毎回便利屋さんみたいな事してんのよ!迷子の猫探し?スーパーの特売セールで肉買ってきて?やかましいわ!!」
修羅の形相で吠え始めた吹雪。
ああ、溜まってたんだなぁ・・・・・・・・・。
いつも落ち着いてるように見えたが、我慢していたんだな。
「私達はボディガード、人を守るのが仕事なの。便利屋じゃない!!これからは、ボディガードらしく、活動していくわッ!!」
握り拳を掲げて叫ぶ。
「は、はい!頑張って行きましょうっ!」
吹雪をみて拍手をするユカ。顔はちょっと引いてる。
「うーい、がんばれー」
佑寧は明後日の方を向きながらゲームをしている。まじでやる気ねぇな。
「これからは、常に四人で行動するわ。チームワークが大事になってくる筈。気張っていくわよっ!じゃ、会議終了!」
「あいよ」
「はいっ!」
「うーっす」
それぞれバラバラに返事をし、会議が終わった。
内容が浅すぎやしないか・・・・・・・・・。
「じゃ、解散ね。孝浩、佑寧。戸締りしっかりね」
「あいよ」
「へいへい」
「でも、いいんですか?学校にお泊りだなんて」
「別に理事長から許可出てるしイイんじゃない?あと、泊まりじゃなくて住んでるのよ」
俺と佑寧は特別な理由で、学校に住んでいる。応接室はもう使われていないので、そこを俺らの部屋として使っているのだ。生活感満載になっていて、応接室だなんて微塵も感じさせない。
「そんなもんですか」
「そんなものよ」
バックを手に持って、扉に手を掛ける。
「じゃ、また明日ね」
吹雪が扉を開ける。
「おや、今お帰りかな?学生ボディガード部の部長さん」
「え、理事長っ?」
扉を開けると、すぐそこに姫宮学園理事長、姫宮大善が立っていた。
「失礼するよ。ああ、君達はそこにいてくれて構わない。手短に話すよ」
手を振り俺達を静止させ、口を開く。
「今日は、私から直接依頼したい事があってね」
「理事長が依頼、ですか?」
「ああ。この写真を見て欲しい」
「これは、アイドルですか?」
理事長が出した一枚の写真は、派手な服を着てマイクを持った女の写真だった。
「そう。テレビにも出てる『霧崎遥』だ。彼女のプロデューサーと仲が良くてね、色々会話していたんだが、君達の話題が挙がってね。学生でボディガードをしている事が珍しいってね」
それも当たり前だろう。しかも、犯罪抑制の為に銃火器使用許可証まで持ってるし。
「それで、この霧崎遥が、今度学園の近くで野外ライブをやるらしいんだ」
この辺で一番広い場所といえば、
「駅前のアイドルブースですか」
「ほお、よくわかったね柳瀬君。そう、そのアイドルブースでライブするらしいんだが、」
ライブが出来る所と言えば、そこしか思い浮かばない。
よくあそこでアニメのイベントとかやってるし。
「そこで、だ。君達に、霧崎遥のボディガードをしてほしい」
「ぼ、ボディガード、ですか?」
「ああ」
「き、き・・・・・・・」
「き?」
「き、きたあああああああっ!!」
吹雪が叫ぶ。絶対こうなると思った。
「やっと、まともな仕事が入ってきたわっ!理事長、やります。絶対やります!いや、是非受けさせてくださいっ!!」
一人盛り上がってらっしゃる部長を放っておいて質問する。
「・・・・・・すいません。それって報酬出るんですか?」
「ああ。これは私個人の依頼だ。理事長の立場とは関係無い、ちゃんと報酬は払わせてもらう」
理事長自ら報酬をだすのか、金額に期待が出来そうだ。
理事長ってお金持ちのイメージがある。結構な額が出てくるのではないだろうか。
「まあ、受けるかどうかは部長が決める事なので・・・・・・。吹雪、どうするんだ」
決定権を持つ吹雪に声を掛ける。
「ええ、是非受けさせて下さい」
いつの間にか冷静になっている。
目はやる気の炎で燃えている。
が、俺達はあまり乗り気ではない。
「(アイドルって性格悪そうだしな・・・・・・)」
「(アイドルか。二次元で間に合ってるしなぁ・・・・・・)」
「(アイドルって、裏ではあんな事やこんな事してるって聞いた事あります・・・・・・)」
「それでは、よろしく頼むよ。マネージャーにも報告してくるよ」
そう言って、理事長は部室を出ていった。
次の俺らの仕事は、
「アイドルのライブを無事成功させる事、ね・・・・・・・・・」