~女難のボディガード?~
「・・・・・・いた」
「ッ!?」
霧崎は案外近くに居た。さっき俺がジュースを買った自販機と階段の隙間に綺麗にはまっていた。
足元には数本空のペットボトルが置いてあった。俺が来るまで待てんかったのか・・・・・・。
「全部おしるこって、口の中こってりしてるだろ」
「・・・・・・・・・うっさい。近寄んな性犯罪者予備軍」
「俺なんかしたっ!?」
「舐めたじゃん、私の耳」
「あ、あれはちょっと調子に乗っちゃっただけで・・・・・・」
「それって性犯罪者予備軍の内に入らない?」
「・・・・・・・・・入るの?」
「・・・・・・・・・入るでしょ」
「ンだよ、はっきりしろよ」
「じゃあ性犯罪者」
「さっきの予備軍どこいった!?」
「はっきりしただけじゃん」
「はっきりしすぎて俺犯罪者になっただろうが!!」
なんだこいつ、落ち込んでるかと思って来たのに、全然元気じゃねえか。
「・・・・・・で、どうすんだよ。授業サボって、早退すっか?」
「・・・・・・・・・そうしようかな。――――――二人きりになれるし」
「何かいった?」
「別になんにもー。ちょ、手ぇ貸して」
顔を膝に埋めていて立つ気が全く伺えないが、手を彷徨わせている。
その手を掴むと、ガシィィイッ!と、しっかり掴んでくる。
グイッと持ち上げると、泣き止んだばかりという感じで目元を赤く腫らしていた。
「何泣いてんだ、みっともねえ」
「何よ、上から目線で鬱陶しい」
「俺も良くいじめられてるぜ、吹雪に。M4持って自転車乗っててよ、「私に追いつかれたらケツに銃弾入れてあげるわ。滅多に出来ないア○ル開発よ、喜びないさい」って言いながら追い掛け回された事あるんだぜ、姫宮学園の廊下で」
俺の黒歴史第三位を今ここで解放、霧崎に話す。
「何で開発されなきゃならんのだ、俺のケツは俺のもんだってのによ」
「何言ってんの?」
「しかも廊下で爆走するんだぞ?理事長の身にもなれってんだ・・・・・・」
理事長と言った所で霧崎が一気に顔を暗くする。
「・・・・・・どうした?」
「なんもない。あ、そうだ、ゲーセンいかない?楽しいよ」
「お前芸能人なんだろ?男と一緒に歩いてたらパパラッチに取られて明日の週刊に載るぞ」
「変装してくから大丈夫だって。吹雪達にも言っとかないとね」
「まぁ、そうだな」
俺は耳のシュレイドを『通信形態』に切り替え、メールを送る。
『霧崎早退するみたい、付いてくからお前ら勉強頑張れ』
そう送るとすぐに返事が来た。
『私も連れてけ。暇』
『佑寧を連れて行きなさい。監視、あくまで監視』
『二人きりでなにするつもりですか。佑寧ちゃん連れてってください。あ、三人でもダメですよ』
最後の二人の意図が掴めないが、佑寧はそのまま「暇」って言ってるし大丈夫か。
「霧崎、佑寧も付いてくるんだけど、いいか?」
「佑寧?・・・・・・いいわよ、個人的に聞きたい事あるし」
「そっか、じゃあ行こう」
俺と霧崎は校舎前で佑寧を待ち、佑寧と合流した所で駅へと向かった。
◆
「佑寧、お前いつの間に私服に着替えたんだ?」
佑寧の服装はスーツでは無く、パーカーにスカートという、地味な格好だった。
佑寧らしく、もの凄く似合っているが、何故か子供らしく見えてしまう。
「なんか、こう見ると家族みたいだな」
ふと思い、何の気なしに口に出す。
「か、家族・・・・・・?じゃあ、アタシは妻ね」
「・・・・・・ざけんなよ淫乱女。私が正妻だ」
「あれ、子供がなんか言ってる」
「子供だと・・・・・・?」
いきなり喧嘩が始まった。え、なんで?
訳も分からず俺の目の前で喧嘩を始める二人を通行人がジロジロと見る。
俺はそれを止める為に間に入る。
「お前ら、ここは人の目が付くし、もう移動しよう。俺は見てるだけで恥ずかしいんだ」
「・・・・・・そうね。あ、ゲーセンやめてデパ地下行かない?買い物したいし」
「それには賛成だ。人混みは苦手だし、アーケード版のゲームは楽しみが少ない。家庭版のオンライン対戦の方が強者と交える事が出来るしな」
デパ地下も結構な人がいると思うが、そこには触れないんだな、佑寧。
でも、佑寧の意見には俺も同意だ。アーケード版だと、そこにいるプレイヤーとしか対戦出来ない。それに比べて家庭版は違った楽しみがある。オンライン対戦だ。
「確かに、人混みは嫌ね。たまに画面を覗いてくる奴もいるし、それに一人プレイして新しく出たプレイアブルキャラの操作練習してる時に乱入してきたりね。ああいうの邪魔だわ。個人的に」
「私は別に気にしない。ただアーケード版だといちいち金を消費するし、コントロールパッドが」しっくりこないんだ」
「それわかるわ。力みすぎてバーが外れたりね」
「・・・・・・・・・」
やっぱゲーマーは恐ろしい、会話について行けない。俺はもっぱらギャルゲーとエロゲーしかやらないから何のこっちゃだ。
FPSとTPSはちょっと齧った程度であまり得意じゃない。
「そうだ佑寧、今度私の家で対戦しない?結構ゲームあるわよ」
「いいぞ。FPSか?」
「何でもいいわよ。格ゲーでもいいしFPS、TPS、殆ど用意してあるわ」
「じゃあTPSにしようか。負ける気がしないな」
「へえ、その自信はどこからくるのか、見ものね」
怖い、目の前のゲーマーが恐ろしく怖い。
俺は二人の会話についていけず、一人で三人分の切符を買い、二人に渡して改札を通る。
「佑寧、はぐれるなよ。手繋ぐか?」
「あ、ああ、繋ぐぞ」
佑寧の小さな手を握り、歩き始める。
「・・・・・・えい」
何故か対抗して腕を組んでくる霧崎。
肘から謎の柔らかさを感じるが、気にしない。気にしたら負けだろう。
「・・・・・・当ててるの、わかる?」
「ぶっ!?」
俺の腕を胸に挟むようにして腕を組んでくる霧崎の顔を直視する事が出来ない。
「このっ、淫乱女が・・・・・・!言ってる傍から孝浩を誘惑するんじゃない!」
「あら、自分に自信が無いの?ゲーマーの名が恥じるわね!」
いや、ゲーマーは別に関係無いと思うけど。
「・・・・・・ここで引いたらゲーマーの名が折れる。いいだろう、私もやってやる」
佑寧は俺の左手を離し、腕を組んでくる。
「どうだ、これで私も対等になったぞ」
「・・・・・・・・・歩きづらいんですが」
「我慢して、ね?」
むにゅっと形を変える胸が心地よ―――――ゲフンゲフン。
「わ、私だって・・・・・・・・・!」
またしても対抗するように佑寧が強く腕を抱き寄せる。
「お、お前まで・・・・・・あれ?」
腕の違和感に気付き、佑寧の胸を見る。
「お前、胸大きくなった?」
「ッ!?」
「き、気付いたかっ!そうなんだ、最近大きくなってきたんだ。すごいだろ、成長期が私にもやってきたぞ!」
上機嫌な佑寧と胸を未だ押し付けている霧崎を両手に、早く電車が来ないかとホームで思い馳せる俺であった。
「・・・・・・早く、来てぇ」
でも、もう少しこのままでもいいかな、と思ってしまった事は心の奥底に仕舞い込んだ。