~アイドルプロフィール解体開始直前~
「ぐええ、日光が染みる・・・・・・。光合成しそうだ」
太陽の光が俺の眼を焼く。まるで吸血鬼になったかのように、日光を嫌う中二病の構図がこれだ。
「インドア派にこの天気はキツ過ぎだ。なんだよ、エクスカリバーみたいになってんぞ」
太陽が凄まじい光りを放ち、その紫外線が巨大な剣に見えた。
つまり、俺達はその大剣に切られてる最中という訳か。中々痛い妄想だな、やめとこう。
「そんなに眩しいなら帽子でも被ったら?」
隣で霧崎が、俺の頭をポンポンと叩く。
「残念ながら、俺は帽子を持ってきてないんだよ。この照りつける日光に抗う運命なのさ」
「格好良いと思ってんのかしら。ダサッ」
吹雪が隣でボソッと呟く。おいコラ、聞こえてんぞ。
「孝浩、太陽を撃ち落とす衛星兵器を作ろうと思うんだが、どうだ?」
「いいね、それ。手伝うわ」
「た、太陽を壊しちゃいけませんよっ?太陽に助けられている人もいるんですから」
人差し指を立てて知的に見せているユカ。
成績は良く、常に学年順位はトップをキープをしている人の台詞は違う。なんというか、言葉に重みを感じる。重みを感じさせる言葉を吐くのは極稀であるが。
「というか、お前太陽を壊す程の衛星兵器を何で作れるんだよ」
フッ、と、鼻で笑い、無い胸を張る。
「私は準ニート、それを貫き通す為には命すら惜しまない。太陽が私の前に立ちはだかるというのなら、それを滅ぼすまで」
「だから、そんな事やっちゃダメなんだって」
霧崎が佑寧に拳骨を食らわせる。
「いだっ。お前、何をするっ!?」
「アンタの言う事、冗談に聞こえないのよ・・・・・・」
傍から見たら仲の良い女子高校生だが、本当はアイドルと、そのアイドルのボディガードだ。
女子高に男が一人いるだけでも違和感あるっていうのに、さらにボディガードとしてだ。
周りの評判も悪いだろうし、忙しいったらありゃしない。
パシリに使われ、身の回りの整頓、登下校の荷物持ち、これボディガードの仕事じゃ無いだろ。
プロのボディガードって、どういう風に仕事してるんだか。参考までに聞きたい。あくまで、参考。
俺達学生の本分は勉強、ボディガードじゃないんだが、俺達は俺達で特殊な学生って事になっているから、もう就職しているようなもんだ。勉強なんてしなくていいんだが、そこはやっぱ高校生らしくしておかないと。
「っと、メールだ」
倉島女子高校に向かう最中、見覚えのないアドレスから一見のメールが届いた。
添付ファイルが一個付いている、画像か。それを開くと、
「―――――――――――ッ!?」
後ろ姿だ、俺達の。
すぐに後ろに振り返り、メールの送り主を探す。
「お前ら、先に学校行ってろ。後で追いつくから」
俺は駆け出し、来た道を戻る。
どこだ、何処にいるッ!?
走りながらシュレイドを装着、独自の個別ネットワークへアクセスし、携帯に送られた画像の解析を行う。撮影時間、俺と撮影者の予想される距離、それらを高速で解析し網膜ディスプレイに移す。
「建物の中か?」
撮影時間とメールの送信時間が離れている。十分に距離をとってから送信したんだろう。
「ストーカーかよ、ただでさえ今は状況が混乱してるってのに・・・・・・」
豆島さんの死、柳父の裏切り、そして霧崎のライブ。
足を怪我している、ステージに立ってパフォーマンスなんか出来ない。
しかも、それを支える筈の豆島さんももういない。
会社だって大混乱の筈だ。
そこを的確に狙っての犯行、
「――――――――――柳父か」
俺の予想で考えられるメールの送り主は、恐らく柳父。まだ近くに潜伏しているようだ。
「いるんなら出て来い。ここで相手してやる」
ライトニングを発動、紫電を纏う。
「――――――――――ッ!」
曲がり角から影が伸び、姿を現す。
「にゃぁぉぉん」
「oh・・・・・・」
出てきたのは柳父では無く、可愛らしい猫だった。
「気のせい、か?」
怪しいが、本人がいない事だし、もう既に離れているんだろう。諦めて学校の道へ戻る。
「げ、時間やべぇ。急がないと――――ッ!」
俺は時計を見て、駆け出す。
◆
「さて、何で私達から離れたのか、説明してくれる?」
天使の笑顔の吹雪さんの手にはM4の銃口、いや、正確にはM4のアタッチメントグレネードランチャーが、俺の額に突きつけられている。
「昨日散々単独行動で起こったっていうのに、早速単独行動しやがって。そんなに死にたいのかテメェは!!アアァ!?」
「ご、ごめんなさい」
「あ、謝ってるんだし、許してあげたら?」
霧崎が吹雪を宥めようと銃を掴んで下げる。
「甘いわ、遥。甘すぎる、練乳よりも甘いわ遥ッ!」
「そこまで甘くしてないんだけれど・・・・・・」
「(今だッ!)」
俺はファーストのリミッターを解除、紫電を纏って高速移動する。
階段前で跪いていた俺の高速移動を見て驚く吹雪と霧崎を他所に、廊下を駆ける。
この高速で逃げる技を『ライトニングエスケープ』と名付ける。うわ超カッけぇ。
途中、学校の先生に「こらー!廊下を走るなー!」と怒られたが、気にせず廊下を曲がる。
少しでも気を緩めたら背中を撃たれる。主に吹雪に。
「依頼は霧崎の護衛なのに、守る立場であるはずの俺が追われてる現実が非常におかしいと思うんだけどな・・・・・・」
高速で駆けながら残念な気持ちでいっぱいになってきた。
スピードを落としていき、食堂前にある自販機で止まった。
「何だかんだで言われた通りに動いちゃうんだよなぁ・・・・・・」
自販機で適当にジュースを買い、階段を上っていく。(ライトニングは使ってない)
「おーい、霧崎――――――――霧崎?」
教室に入り、霧崎の席まで行こうとするが、霧崎の席の周りに別の女生徒が囲んでおり、近づくことが出来ない。
「ねえ、アンタのマネージャー死んじゃったらしいね」
「テレビだと疲労が限界まで溜まってたっていうじゃん?あれ、アンタの我侭ずっと聞いてたからじゃないの?」
「うわー、ないわぁ。陰でマネージャー使えないとか思ってるんじゃないの?」
「・・・・・・・・・」
リーダー格の女生徒に取り巻きの女生徒二人、絵に書いたようないじめっ子集団だ。
これが、霧崎の言っていた虐めとかいうやつか。
テレビでよく聞いたことがある。子役とか学生アイドルは、学校でよく虐めにあうって。それが、今の霧崎なんだろう。
言い返す事もせず、ただ言われるがままでいる霧崎が、今までよりも小さく見えた。
俺は、そんな霧崎が見たくなかった。
「霧崎、どうしたんだ?」
「ッ!?た、孝浩・・・・・・」
「何よアンタ、あたし達今遥と喋ってるんだけど」
「そっか、それは悪かった。でも、アンタ達から喋りかけられる事を霧崎本人は良く思って無さそうだぞ」
反論に正論を述べて黙らせる。俺の座右の銘だ。
「それがあんたにどう関係があるの?」
「ただのボディガードは黙ってな!」
「金で雇われただけで、依頼主の事なんてなんとも思ってないんでしょ?口出しすんなっての」
それでも、見苦しい言い訳をする女生徒三人に、怒りが沸いた。
「何で、霧崎を虐めるのか教えてくれないか?」
「いじめてないし、ただ喋ってるだけだけど」
「あたし達仲がいいの。だからこうして喋ってんじゃん?見て分からない?」
「そうやって偽善者ぶる奴いるよねー。今回は空振りだったけどね、あははっ」
そこで、俺の堪忍袋の緒が切れた。
ジュースを投げ捨て、腰からスプリングフィールドXD二丁を抜き、女生徒の取り巻き二人へ銃口を向ける。
「・・・・・・な、なに、それ」
「拳銃、本物っ?」
「あ、危ないって!」
教室内にざわめきが起こる。
そんな事を他所に、安全装置を外す。
「俺は、そういう一体多数での虐めが大嫌いなんだ。やるんなら正々堂々、俺の許可取ってやれよ。霧崎を守るのはボディガードの俺らの仕事。クライアントに被害を与えるっていうなら、ここで血の花咲かせてやるぞ」
トリガーに指を掛け、更に脅しを掛ける。
それと同時にチャイムが鳴り、教室内に人が多くなる。同時にざわめきも大きくなっていく。
「チャイムなったし、い、行くよッ」
リーダー格の女生徒の続くようにして取り巻きの女生徒も教室から出て行く。
「・・・・・・・・・」
「大丈夫か、霧崎」
腰に銃を収めながら、投げ捨てたジュースを拾う。
項垂れながら額を押さえる霧崎に声を掛けるが、返事が無い。
「霧崎?」
肩を揺するが、手を払われる。
「どうしたんだよ霧崎―――――――――」
払った手を掴み、顔を伺うと、ポロポロと涙を流す霧崎の顔が見えた。
「お前、泣いて――――――――」
「ちょっと頭痛いから保健室行ってくる。付いて来なくていい、命令だから」
「ちょ、ま―――――――」
俺の制止を聞かず、霧崎は教室から出て行ってしまう。
俺は霧崎を追いかける為教室から出ようとするが、クラス内の生徒に止められてしまう。
「ボディガードさん、今は放っておいてあげた方がいいよ」
「霧崎さん、相当参っちゃってるしさ」
「アンタら、霧崎の友達か?」
そう言うと、首を横に振る。
「違うよ。でも、あの三人組に虐められてるのは良く見るかな。頻繁にこの教室に出入りしては霧崎さんの席に行くからね・・・・・・」
「芸能人だからって、あれは酷いよね。霧崎さん頑張ってるのに」
「・・・・・・なぁ、霧崎が苛められた理由とか、何か知ってること無いか?何時頃から虐めが始まったとか、何でもいい」
俺は、霧崎がいつもどういった学校生活を送っているのか、基本的な事を聞いていった。
ストーカー気味だが、この際気にしない。
そこで、霧崎の虐めの理由と、クラス内で半孤立状態でいる意味を知る。