~最悪な一日のご褒美を~
「はぁ・・・・・・・・・」
肉を食べれなかった絶望感が俺の身体に重く伸し掛る。
何で俺の肉を残しておいてくれないんだろう。
「そう落ち込まないで。はい、もやし」
「いらんわッ」
どう考えたら落ち込んでいる奴にもやしを与えるという結論に至るのか。不思議でしょうがない。
「というか、霧崎達は何処行ったんだよ」
俺が帰って来た時には霧崎、佑寧、ユカの三人はいなかった。
トイレ――――――は、無いか。三人でトイレとか想像出来ん。いや、あるかもしれんな。そういう展開で。
どこかに出掛けてる――――――飲み物を買いに行かせた俺を差し置いて?人間の所業じゃねえな。
「寝たわよ」
「えっ!?」
の、飲み物を遠過ぎるコンビニまで買いに行かせた張本人が、今寝てんの!?
「なんか、脚が痛むから寝るってさ。明日は学校行きたいって言ってたし」
言い訳にしか聞こえない・・・・・・。
でも、毒の影響が神経麻痺だけっていうのも信用できない。柳父のやった事だし、何か裏があると思ってもおかしくはないだろう。
「孝浩、身体の調子はどう?」
「え、俺?」
「リミッター、全部外してキツかったんじゃないの?血も吐いてたし」
「大丈夫だって、喉裂けただけだし」
「の、喉がっ!?み、見せなさいっ!!」
「ぅごぇっ」
顎と額を掴まれ、無理矢理口を開く吹雪。
「あが、あががっ」
「ちょっと、黙って」
口の中を真剣に見つめる吹雪。というか、裂けた所までは流石に見えないと思いますが・・・・・・。
吹雪の整った顔が近づいてきて、変に緊張し始めた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・あ」
目が合い、お互い無言になる。
「・・・・・・なんで、黙ってるの」
「おあえがあまえっていっああらあ(お前が黙れって言ったからだ)」
「日本語でおk」
「んあぁっ!!ちゃんとした日本語喋らせたければ手を離せ馬鹿ッ!!」
吹雪の手を振り払い、頭を叩く。
「いだっ!?アンタ、アニメの主人公でも女に手を上げないわよッ!?」
「それはアニメでの話だろうが!一緒にすんな―――――――ッ、ごほッ!?」
急に喉元に激痛が走り、血を吐く。
「孝浩ッ!?」
喉の傷が開いたんだろう。そう簡単には塞がらないか。
「がはッ、ごほッ!!――――――――はぁ、はぁ」
そういえば、佑寧が言ってたな。ライトニング初起動の際身体が暫く脆くなるって。めんどくさい力だ。
「だ、大丈夫っ?」
背中を摩りながら口にハンカチを当ててくる。
「あ~、痛い・・・・・・。大丈夫だ、大声出し過ぎて傷が開いただけだし」
幸い、そんなに血は出てない。喉に詰まった血の塊を吐き出しただけで、血がドバドバ出てる訳じゃない。舌を出してダブルピースする。目はちゃんと吹雪を見つめているぞ。
「・・・・・・・・・アンタ、もうちょっと血吐いてなさい」
不快に思ったのか、吹雪は俺の喉に手刀を放つ。
「なんでごほぅッ!?」
り、理不尽だ・・・・・・。つか、マジで痛かったんだけど。
喉を摩り、コップに注いだコーラを飲み干す。
「いててっ、ヒリヒリするな・・・・・・しかも炭酸、最悪だ」
「自業自得よ」
「俺何もしてないだろ・・・・・・あ、そういえば」
コンビニの袋を漁り、小さな紙袋を取り出す。
霧崎が買ってこいといったフライドチキンだ。本人が寝てるのであれば食べてしまっても良いだろう。
今日肉を食べていないんだ。いや、でも霧崎に殺されそう。いや、しかし――――――。
そう考えつつも、手は止まらない。
紙袋を破り、黄金の衣を持った肉へと齧り付く。
「ああ、肉食べてるって感じがする・・・・・・」
「・・・・・・・・・肉だしね、それ。あ、一口頂戴」
口を開けて待機する吹雪をジト目で睨む。当たり前だ。
「お前、全部肉食べた癖によく言えるよな」
「私はそんなに食べてない。殆ど食べたのは佑寧と遥よ」
「でも、食べたんだろ?俺は食べてない。食べてないっ。食べてないッ!」
「食べてない強調しなくてもいいから・・・・・・くれないなら、いいわよ」
腕を組んでそっぽ向く吹雪。普段とのギャップがあって、失礼ながら可愛く見えた。
「そんなに欲しいのかよ」
「いらない」
「美味しいぞ?」
「いらないってばっ」
「ああ、勿体無いなぁ。こんなに美味しいのに」
「アンタ、分かっててやってるでしょ・・・・・・」
「なぁーんの事かなぁー?」
本当の事を言うと、分かっている。
話の中に肉が絡むと、吹雪が俺に屈服する事を。
肉があればこいつを手懐ける事が出来る。理由は覚えていないが。
「無条件で、って言うのはダメ?」
「ダメじゃない。けど、可能性に欠ける、かな?」
「この腐れ二次オタ幼女舐め回し中二ド変態ッ!!!」
「言い過ぎ、言い過ぎだから。そして行き過ぎ。そんな事やってないから。二次オタなのは認めるけど」
酷い言い様だ。幼女なんて舐めた事ないっての。しかも腐ってない。そして中二病でもない。
「そんな事言うならフライドチキンあげねえよ?」
「くっ・・・・・・」
何でそこまでして肉を欲するんだ、吹雪よ。
「お、お願いだから、私に、その肉を下さい・・・・・・」
「よし、じゃあ――――――――お手」
ギロリと、眼力ある瞳で睨まれる。が、逆らえない。それは、肉を手放すという事だから。
「・・・・・・・・・わん」
「お、おぅ」
別に、そこまでしろとは言ってないんだけれど、まあいいか。続けちゃえ。
「お、お代わり」
「くそっ・・・・・・わん」
「よし、伏せっ」
「・・・・・・わん・・・・・・屈辱よ・・・・・・ッ!」
顔を真っ赤にして睨み返してくる。が、俺は負けない。今まで俺が飲んできた敗北の涙の味を知って頂かなければな。
俺の頭の中に外道がログインし、徐々に精神が侵される。主に、クソな方向へと。
「偉いぞ、吹雪。良く出来たな」
そう言って、俺の皮を被ったっ外道が吹雪の頭を優しく撫でる。
「う、嬉しくないッ!」
顔を真っ赤にして頭を左右に振る。
「嬉しくない?それは嘘だろう。嬉しくないなら何故笑っている?」
「へっ?」
吹雪は、自分の顔をペタペタ触り、口が緩んで笑っている事の気付く。
「う、嘘。こんな変態プレイをしている中で笑うだなんて」
「自分を、曝け出したらどうだ?―――――――楽になるぞ」
耳元で悪戯に囁く。
「吹雪は、変態さんだったんだな。これは驚きだ」
「ち、違う。私は――――――――」
「ほら、欲しいんだろう?そこで3回まわってワン出来たら全部あげるよ。フライドチキン」
「ぜ、全部・・・・・・・・・。で、でも、そんなペットみたいな事絶対に出来ない・・・・・・」
「何を言っている?お前は、もう俺のペットだろう」
顎の裏を撫でてやり、天使の笑顔(悪魔の笑顔とも言う)を吹雪に向ける。
「ぺ、ペット・・・・・・」
「そうだ。もう、恥ずかしがる事は無い。ペットなんだから」
鼻息が荒くなり、徐々に犬っぽくなっていく。これが、肉の魔法なのだろうか。
「さぁ、三回まわってワン」
「――――――――――――わんっ!」
清々しい笑顔でやってのけた吹雪に拍手する。
「さ、吹雪。お待ちかねのフライドチキンだ」
「わーんっ」
フライドチキン目掛けて飛び込んでくる吹雪をキャッチし、口元までチキンを持ってくる。
それを美味しそうに頬張り、油で口元を汚す。
「おいおい、汚れてるぞ」
手元の袋から濡れティッシュを取り出し、口元を拭く。
「えへへ~、ご主人~!」
すっかり甘えん坊になった吹雪の頭を撫でてやる。
「ははっ、くすぐったいぞ」
飼い主とペットそのものの関係になった俺達を蔑む者もいなければ、見ている者すらいない。
これがパラダイス、これこそ俺の求めていた真のフリーダム!フハハ、俺の勝利だ――――――
「・・・・・・・・・何やってんの?」
前言撤回、蔑む者、見ている者はいました。
ゴミを見るような濁った目、自分のフライドチキンが餌のように扱われているのを目の当たりにし、修羅のオーラを纏ったクライアント、霧崎遥が、そこに立っていた。
「oh・・・・・・・・・」
「―――――――――ッ!?いやああああっ!!」
「ごほぉぅっ!?」
腕の中の吹雪から頭突きを頂戴し、俺は意識を失った。
◆
「いってぇ・・・・・・あれ、俺何してたんだ?」
冷たいフローリングの床から身体を起こし、痛む頭を摩る。
「ずっとそこで寝てたわよ」
「よく言うわ・・・・・・」
顔がほんのりと赤い吹雪と、仏頂面の霧崎がソファーに座っていた。
普通は倒れている人をソファーに乗せませんかね・・・・・・あれ?
「何で俺倒れてたんだ?頭も痛いし・・・・・・お前らなんか知らない?」
「いや、何も。知らないし思い出したくもない」
「はぁ・・・・・・・・・。アタシは何も知らない。こっち来たら飼い主とペッ――――――アンタが倒れてた」
「そ、そうか」
何か引っかかるけど、まあいいや。考えててもしょうがない。
「霧崎、脚の怪我は大丈夫か?結構深かっただろ」
「うん、大丈夫。まだ痛いけど、歩けない事はないから」
ショートパンツから覗く包帯を摩り苦笑いで応える霧崎。
「血が滲んできたから包帯を変えようと思って来たの。そしたら・・・・・・」
ため息をつき額を押さえる。何か、見てはいけないものでも見たのだろうか。
「わ、私が変えるから、孝浩はもう寝なさい。明日朝早いんだから」
「お、おう」
背中を押されて現在の俺達の寝る部屋である空き部屋に入る。
あれ、いつから俺らの寝る部屋になってるんだ?違和感無かったから普通に入ったけど、今考えると色々おかしいぞ。なんで俺ら自分の家に帰れないんだよ。帰ってゲームやりてぇ・・・・・・。
そう考えつつも、敷かれていた布団に入り、携帯を取り出す。
「あ、ログインすんの忘れてた。ボーナスボーナス・・・・・・」
最近ソシャゲーにハマっていて、一日一回は必ずログインしているのだ。
続ける理由はただ一つ、可愛い女の子がいっぱい出るからだ。
声優も豪華、女の子と触れ合える、素晴らしい。素晴らしすぎる。
非リアには嬉しすぎる待遇だろう。ありがとう日本文化。愛してるぜ。
慣れた手捌きで画面をタップしていき、サイトを開く。
軽快なメロディーと共にトップ画面が表示され、マイページへ入る。
それと同時にログインボーナスなる、無課金厨には嬉しいレアアイテムを貰う。これで一回分レアガチャが回せる。
俺は今までのログインボーナスを血の涙を流す思いで貯めまくり、課金中に引けを取らない程のプレイヤーになったのだ。
ガチャ画面に移り、画面をタップ。ガチャガチャの中からボールが飛び出て、中身が輝きながら開き始める。
「どうだ、どうだ、どうだ・・・・・・・・・・ッ!?よっしゃぁああああああああっっっっ!!!!」
期間限定、しかも数量限定のレアな女の子が当たり、被っていた布団を吹っ飛ばして歓喜する。
来た、来たぞ。俺の嫁が新たなるグラフィックで蘇り、新たなるコスチュームで俺の画面にぃぃいいいいっ!!
携帯をカクテルの様にシェイクしまくり、布団にダイブ。
『きゃあっ!・・・・・・ああ、プリントがバラバラ・・・・・・あ、君だったの?ごめん、プリント集めるの手伝ってくれる?』
ゲットした女の子のボイスが再生される。
茶髪のボブカット、目が眠たそうに垂れ、少し幼げを残した顔だが、身体はモデル並のスタイル。
大きめの胸を強調するように腕を前に出して、何ともいやらしい格好だ。
「ああ、集める。絶対集める。いや、集めずに君とずっと一緒にいたいッ!!」
画面に向かってギザなセリフを吐く。(人生灰色なキモオタの構図)
俺は、最悪の一日の最後に最高のご褒美を貰って一日を終えた。
「・・・・・・・・・あ、○witterで呟いてないわ」
俺の一日は、もう少し長く続いた。